ゲームエンド
周囲はとても騒がしい。なのに、自分達の居場所だけ、シンと静かになる。
ゲームの中なのに、自分の心臓の音が聞こえる気がして、アニーは衝動的にメメに手を伸ばす。ぎゅっと手をつなぐ。
「……聞いていいか」
「えっ、うん!」
いくつかの質問に、アニーは素早く答えていく。
質問が終わると、スッとローブが離れた。
「ここにいろ」
周辺を見回して、レイは通りの横に経つ建物に走って行った。
アニー達の背後では、キラキラ輝く黄緑水晶が、目印のように輝いていた。
大勢のプレイヤーが、モンスターを討伐していく。巨大蟻の進行方向に防衛線が築かれ、遠距離魔法などで削ってはいるが、体力ゲージは未だ半分以上。
クリスタルまでの距離と、削り具合を計算して、大手クランのプレイヤー達は難しい顔をしていた。
「これで、報酬がしょぼかったら怒るわ」
「だよな」
「リーダー、どーする?」
「……」
仲間に囲まれて、クロスエイドは考え込んでいる。普通に削っていては、倒す前にクリスタルを破壊されてしまう。
魔法職のプレイヤーが少ないのが、要因だ。きっと裏世界では、余裕で倒している事だろう。
「……仕方ない。盾職並べて、総攻撃」
「それしかないな!」
仲間の前では普段通りに振舞っているが、少しだけ気分が落ち着かない。
上手くいかない。面白くない。苛立ちが募っていく。金の翼の天使の姿が脳裏にチラつく。捕まえたはずが、あっさり逃げられて。
「クロス!?」
仲間に呼ばれて我に帰る。翼で上空に飛んでいる最中だ。蟻の親玉の複眼が、不気味に点滅。
「回避!」
近付き過ぎていた。全体攻撃が飛んでくる。
硝酸のようだった。翼が片側、溶ける。
仲間が焦って叫ぶのが聞こえた。落下していく──。
途中で仲間が拾ってくれて、助かった。
「クロス大丈夫っ!?」
「……ロカか」
「何やってんの? らしくない」
ボスに近付き過ぎては危険だ。
チャットが使えないから、タイミングをはかってメンバーが叫ぶはずだが、騒がしくて聞き取りにくい。
「それじゃ、飛べないね」
安全な後方まで運ばれ、戦場を振り向けば、ボス蟻はかなり近くまで接近していた。
盾職も、硝酸にやられたらしく、半数しか残っていない有様。それでも押さえ込み、仲間達が攻撃を加えていく。
ボスだけではなく、蟻の群れの対処もある。手こずっている間に、前線が少しずつ下がりはじめた。
「マズイな……」
「火力不足か」
ボスゲージがやっと黄色くなった。だが、もうクリスタルが見える距離。
がむしゃらに、突っ込んでいくプレイヤーもいる。虹色の大剣が見えた。
「?」
レベルの低さに、初心者だと分かる。無駄死にだなとベテラン達が見守る前で、踏まれかけたそのプレイヤーが、上を見上げた。
つられて視線を向けて、何人かが気付く。そして見る。
通りの建物──建物が根元から切れて、ボス蟻の首付近に豪快に倒れ込むのを。
「!」
「──建物って、壊せんのかっ?」
「イベント中だけなっ!」
近くにいたプレイヤー達が、慌てて避難していく。
さらに、倒れた建物からひょいっと、ボス蟻の頭部に飛び降りたのは茶色いローブの。
「あ」
「あ?」
「──!」
何人もが、堪らず声をあげる。
真上に掲げられた刀が、スウッと一回転して切り落としたのは、巨大な頭部。
ゴロンッと、地面に落ちる。
ゲージが一気に赤に染まった。だがまだボス蟻の巨体は消えない。
「う……おぉおおおッ!」
いったん逃げて様子を見ていた虹大剣の初心者が、ひとり叫びながら飛び出し、落ちた頭部に一撃を加える。
「……ッ」
一拍後、ボス蟻の体は粉々に砕け散った。
見ていたプレイヤー達から、歓声があがる。
『レイドボスの撃破を確認! パレスは守られました!』
喜ぶ周りとは反対に、クロスエイドは青ざめていた。何も──出来ていない。活躍するどころか、翼まで無くして。
呆然と、危なげなく地上に降りたった茶色いローブを見詰める。
「ウワサの薬師じゃん!」
「スゲーな! 見たかいまの!」
「てか、アレって──刀じゃねえ?」
「えっ!」
職業名だけしか見えないローブのプレイヤーは、話しかけてきた虹大剣のプレイヤーに、刀を手渡した。
一度だけ、こちらを見てから、片手をあげて──消える。
刀を、渡したまま。
「ええっ!?」
口をパクパクさせて、初心者のプレイヤーは立ち尽くしていた。
「行っちゃったねー……」
「うん……残念」
手を振り返したアニー達は、寂しそうに、後を任された初心者を見ていた。
「お疲れ様?」
少しだけ、頭痛がするような。
ギアを外し頭に手を当てながら、部屋を見回す。
「削除は死んでない。ノーカウントで」
何か尋ねる前に、機先を制される。
「……そうか」
リュウキがいつも通りなら、問題はないのだ。
ただちょっと、少しだけ──遊びに付き合うのは大変なんだなと、つくづく思っただけで。
リュウキがベッドから降りて、部屋を出たのでついて行く。
何やら端末を眺めながら、財布をポケットに入れて玄関へ。外に出るようだ。
「コンビニだけ。近いから」
外を指さし、目的地を告げる。
「ああ」
鍵を閉めて外に出ると、陽射しが突き刺さってきた。この暑さだけは、辟易とする。
「ほかに、最新ゲームもあるけど」
やる? と訊かれて、微妙な顔になってしまうのは、仕方ないだろう。
「……懲りてないんだな?」
「ん?」
「……保護者が、過保護になるワケか……」
「ん?」
気が遠くなりかけたのは、決して暑さのせい、だけではあるまい。
まだまだ、苦労は続きそうだった。
** 終 **
…………(´,,-ㅿ-,,`)フゥ-
短く書けたので、良かった。
お遊び回はこれにて終了。
次は長いぞー。
3に続きます。
お読み遊びいただき、感謝。
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