強制イベント
リュウキがリタイアした事も知らぬまま、レイは変なプレイヤーに絡まれていた。
中級者エリアの森で簡単な採取をしていたところ、ワールドメッセージのあと知らない場所に飛ばされ──強風が吹いて、装備のマントだけ、吹き飛ばされたのだ。
それを、落下物として、拾い上げたプレイヤーがいた。
レイは知りようもないが、魔法の盗賊スキルがあって、街以外のエリアにて、上級者は下級者から好きな武器や装備を盗めるのだ。
返してくれる気配もなく、急に蟻の群れに襲われ、対処する事になる。
リユキにも、シドにも連絡がつかない事から、異常事態と判断。
壊れる事はないが、修理の度に草苅り鎌を取り出すのも、相手が硬いと面倒になってくる。一撃で倒せるのと、五回くらいでやっと倒せるのでは、時間が掛かり過ぎだ。
アイテムボックスには、リユキから贈与された虹宝箱が、未開封で入っていた。
武器か、装備か選ぶと、種類はランダムで、虹武器か虹装備が出るのだが……好きに使っていいと渡されている。
おそらく、今でないと使うタイミングはない。
ニヤニヤと、蟻の群れに囲まれているレイを見物しているプレイヤーの態度にも、いい加減イラついてきた。
「……使うぞ」
虹宝箱を選択。
基本武器の中から出て来たのは──。
「はあっ!? 刀!?」
見物人が何か叫んで慌てている。レイは迷いなく新たな武器を振るう──蟻の群れが、周辺のみきれいに斬れた。
扱った事のない武器だったが、斬れ味は良いようだ。
リュウキの保護者が、使っていたのを何度か見ている。
移動用のクリスタルに向けて、走り出した。
「刀? ウソだ……」
画面を見ていた彼も、思わず驚愕する。
ランダム武器には実は、隠し武器が存在している。
基本武器以外の、超レアだ。虹宝箱を100集めても、出るかどうかの。その中でも今まで、刀が出た話を聞かない。
西洋風しかないワールドだから、和風は無いのだと、誰もが思い込んでいた。
「……っ」
歯ぎしりをして、クロスエイドはクランハウスから、レインパレスに急いだ。
シドにも、災難は降り掛かっていた。
虹宝箱から出た、ガントレット。
それを、飛ばされた途端、盗まれたのだ。
「虹武器なんて、君たちにはもったいないよ。もらってあげる」
怪訝な顔をして、盗んだ相手を眺めている間に、蟻の群れ。
天使の翼で上空に逃げた相手は、高みの見物。
ただ、その片手に有名なクランの認識ブレスレットが輝いたのは、見えた。だから余計、こんな嫌がらせをされる意味が分からなかった。
ゲームは楽しんでやる遊びだと、思っている。
こういうのは、楽しい気分が台無しだ。
「??」
「ほらほら、はやく倒さないと、噛み殺されちゃうよ」
地図を見て、転移クリスタルの位置を確認。トントン、とその場で足踏みをする。
「──おれはあんまり、PVPしないんだがな──」
「はぁ?」
両手は素手のまま、勢い良くジャンプする。
空中で──まさか届くと思わなかったのか、顔面を蹴られた天使は、そのまま蟻の群れの中に落ちた。
ガラスが壊れるような音がして、相手の反応がエリアから消える。
まぁ、トドメを差したのは蟻だし、問題ないだろう。
「リユキだいじょーぶか? ダメそーだな」
呟きながら、蟻を避けて逃げ、転移クリスタルに突っ込んだ。
レインパレスは大騒ぎだった。
オンしていただけで、強制的にレイドイベント参加。知らないエリアに飛ばされて、無事に帰ってこれたのは半数弱か。
蟻の群れも厄介だった。
倒しても、倒しても、次々湧いて出る。
なんとかパレスにたどり着いたプレイヤーは、黄緑水晶前に右往左往するプレイヤーの多さに驚いた。
まだ街中にモンスターは入ってきていないが、街の外には迫って来ていた。
チャットが使えず、知り合いは自力で見つけないとならない。
大手クランがメンバーに指示を出しはじめて、ようやく防衛線が築かれた時、怪獣クラスのボスが、街の目の前に現れた。
魔道士達が慌てて攻撃魔法を放ち、首都防衛戦が始まる。
蟻の群れも侵入してくる。
大勢のプレイヤーが、逃げ出したり、反撃したり、指示をしようと叫ぶが、混乱の中届かない。従わない者達もいる。
「なにこれ、信じらんない。パニックするだけじゃない」
「前からちょっと、過激だった。コレはついていけない」
生産職のアニーとメメも、なんとかパレスに戻ってこれたが、街の様子は酷いものだった。
大勢のプレイヤーがクリスタル前で縮こまる中、その姿を見つけ出したのは、偶然。
メメの作ったサングラス。
茶色いローブ。
「! ──レイ、さんっ!?」
「!!」
周りがうるさくて聞こえないかと思ったが、レイは気付いた。
二人の方に移動してくる。
「……リユキを見なかったか?」
「えっ、ごめんなさい、私たちも戻ったばっかりで」
「見てない」
「そうか」
戦闘音や、魔法の光があちこちで飛ぶ。巨大なボス蟻の姿が、高い建物群の向こうに見えている。
あきらかに、ここを目指している。
「どうしよう……あんなの無理」
「生産職だからね……」
一部、派手な魔法やボスに興奮するプレイヤー達もいた。逃げ場を探して、建物に逃げ込む者達も。
一番安全なマイホームに戻れず、愚痴を言う者達も。
いつの間にか、アニーとメメはレイのローブの端を掴んで彼の後ろに隠れていた。中身女子なのだ。怖いのだろう。
周りの状況を確認し、レイは二人に尋ねた。
「……アレを倒せば終わるのか?」
「たぶんね」
「ログアウトは、できる。イベントは参加出来なくなるけど」
「……」
そこで、はっとアニーが気付く。
「フレンド欄を見てみて! チャットは無理だけど、インしてるかどうかはわかるよ!」
「フレンド欄?」
「メニューの」
横から手を伸ばし、アニーが素早くレイのメニュー操作を手伝った。
が。
「あれ……?」
名前がなかった。リユキの名前だけ。
「シドさん、私、メメ……なんで?」
「名前がない。フレンド解除? ちがうなら、……」
アニーとメメは顔を見合わせる。まさかと。
「ゲームを、削除しちゃった?」




