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クロスエイドは、詳細情報を公開している。


キャラのパラメータから、装備の種類、強化値、レベルは全カンストで、全てのイベントで首位を誇り、スキル構成までオープンにしている。


強化された数値は、よほどお金をかけないと無理で、誰にも真似出来ないからわざわざ公開しているのだという。


見せびらかして、自慢したいのだと。


様々な噂もある。良い噂から悪い噂まで。


「行こう? 回復頼むねー」


動けないでいると、握っていた剣先を、左手前方に向けて示した。


「あっちに、転移クリスタルあるから」


地図を見る。確かに、セーブ可能なマークが出ている。


戻れると分かってホッとした。自分の装備を確認して、杖を出す。


「あれ? 虹武器交換してないの?」


白い杖のままだからか、首を傾げられた。


「俺の貸すよ?」


「大丈夫です」


「そう? じゃあ行こっか!」


彼は──何故か空いている片手を伸ばしてきて、制限距離で手が止まると笑みを止めた。


「不便だなー、フレンド登録と、接触解除して?」


「……はい」


真顔で、当然のように言われ、断る選択肢はなくなった。


思考が突き抜けて──何をするか読めない怖さを感じるのだ。


容姿は少しいじってあるが、瞳の色が緑な以外、間違いなくあの時の青年だ。女性版になって短髪が長髪になっている。


妙な迫力を感じるのは、いかにも強者に作られたキャラクターだからだろうか?


接触解除したとたん、はっしと片手を握られた。先導するように歩き出す。


雪山は足をとられ、歩きにくい。


歩き出した事でようやく、頭が動いた。グイグイ引っ張られ、ついて行くので精一杯だ。


どこまでが彼の思惑なのか、疑問でいっぱいだが、とりあえずレインパレスまで戻らないと。


「……りゆきくん? さん?」


「?」


クロスエイドは一度歩みを止め、アイテムボックスから何やら細いアクセサリーを取り出し、渡してくる。


「寒さ対策のつけて。動けなくなるよ」


「……お借りします」


四つの耐性宝石がついた、細いブレスレットだ。四属性の負担軽減効果付き。


歩くのが格段に楽になった。素直につけたからか、彼はにこにこ笑う。


雪男モンスターが何頭か出たが、あっさりクロスエイドが倒しながら進む事15分。


ようやくエリアクリスタルが見えた。回復を使う機会は一度もなかった。いらなさそう、と思ったが口には出せない。


「はい到着〜」


手を掴まれたまま、転移クリスタルを通過。


「え」


全く見覚えのない、エリアに立っていた。


何処かのタウン。見慣れない建物群。真っ白い大理石で飾られた都市。


てっきり、レインパレスに向かうのだと。


「……クロス、さん?」


戸惑うリユキの手を引いて、彼はどんどん先に進む。神社の鳥居に似た、白い門をくぐった時、手首の腕輪がピッと音をたてた。


地図にエリア表示が入る。横目で読んで、ギョッとした。


「クラン、十時にようこそー」


そのエリアが、クランハウスだと分かったのは、入ってしまってからだった。


ギリシャ神話に出てくるような、白い列柱の並ぶ複雑な建物が、円形の広場を囲むように並んでいる。荘厳過ぎて、目眩がしそうだ。


「ちなみに、俺の本名が十字瑛斗(クロスエイト)なんだけど、十字が、なんか十時で登録されちゃったんだよねー。面倒でそのままになってるよ」


他のメンバーは、何故かいないようだ。イベント中だからか?


他人の家に勝手に上がり込んだ状態に、さすがに変な汗が出そうだ。


「あの、オレがいたらマズイんじゃ」


「ブレスレット渡したでしょ。メンバー標識だよー、じゃないと入れないって」


「返します!」


外そうとした手を、ぎゅっと握って止められる。


「……」


「……」


にこにこと、ずっと笑顔なのがとても圧迫感。


「まぁ、もう少し待って? イベントやらなきゃー、ね?」


ヴヴン、と無数の画面が出た。監視カメラみたいに、色々なエリアや動き回る人が写っている。


始まりの街から、全ての草原、全ての森、全ての路上、全ての街──数えきれない数の、表世界の映像。


真ん中に、一際大きくレインパレスが写った。周囲四方からと、空の四方から。


蟻の群れ。


モンスターだろう、血の色をした2メートル程の巨大な蟻の群れが、四方からレインパレスに迫っている。


都市を踏み潰せそうに大きなボスが、蟻の群れの後ろにも待機している。


「あちゃー、ヤバいね」


「……」


バラバラにされたプレイヤー達は、阿鼻叫喚だ。ランダムに各地に飛ばされた上、ペアは知らない他人。


踏みとどまったり、撃退しているのは、やはりランカープレイヤー達。


凄まじい映像に目を奪われている間に、クロスエイドはクランメンバーに指示を送り始めた。


近場のメンバーを合流させて、個ではなく固まって撃退するようにと。


エリアの画像を見るだけで、どの場所か把握しているようだ。


チャットは使えないはずなのだが……メッセージを一方的に送れるのは、クランの団長のみらしい。途中で気付いて、メンバーに他のクランの団長を探させ始めた。


相手からの声は届かない。クロスエイドから、一方的に命令が送られ続けるだけ。


そして凄いのはちゃんと、意図を把握しているメンバーだろう。


人数が集まってくるに連れ、レインパレスを目指す者達と、足止めしながら援護する者達と、孤立する者達を救出しに行く者達と、きちんと役割をこなしていく。


彼は、この防衛線を敷くために、クランハウスに来たのだ。


「……凄い」


思わず声が出るくらい、イベントとして機能し始めた。


「ふっふっふ〜。防衛線築けたら、俺らもパレスに行くよー」


「はい。……あ」


(レイ)


画面のひとつに友人の姿を見つけた。


何処かの森の中。蟻の群れを蹴散らしている。ちゃんと転移クリスタルを目指しているようだ。が。


(──? マントは……?)


「おっやー? 薬師くんか?」


リユキが観ている画面に、いま気付いた風に。


虹宝箱から出た真珠色のマントを、何故か外している。いつもの草苅り鎌で戦っているが、蟻の群れは硬いのか苦戦気味だ。


時々、ある方向を確かめて眉を寄せる。あれはちょっとイラついている。


「……あの場所は、どこですか?」


「さあ?」


にこにこにこ。教えてくれるつもりは、なさそうだ。


円形の広間をぐるりと見回したが、出口が地図にも表示されない。


「クランハウスはねー、団長が許可しないと入れないし、出れないんだよ。知ってた?」


首を横に振る。彼は満足そうだ。きっと、思う通りに事が運んだのだろう。だからすこぶる機嫌がいい。


「薬師くんと一緒に、俺のクランに入ろうね?」


仕舞ったはずの輝く剣が、いつの間にか彼の手中にある。


リユキは、首を横に振る。


「ムリです」


返答と同時に、ブレスレットが外れて落ちた。


片腕が消失。自分のゲージが黄色くなる。


「許可のない侵入者を処断する権利も、団長にのみある。ふふふー、知らなかったでしょ? アウトしても、クランハウスからは出られないよ? 罪人扱いだからね!」


喜怒哀楽が混ざった、感情か激情か。ぶつけられて、はじめて彼の事が分かった気がした。


彼には大切なのだ。この居場所が。


この世界が全てなのだ。


奪われたくないのだ。


最強の地位、名誉、賞賛──彼の存在が万人に認められる唯一の居場所──ゲームの世界の、中でだけでも。


それを、一度どころか立て続けに話題を奪った。


切っ掛けを作ったのは……ため息が出てしまう。


「……運営の人と、懇意ってウワサは、本当ですか?」


「なんの事かなー? 一番金掛けてるんだから、ちょっとサービスするのは当たり前でしょ」


悪びれもしない。堂々としたものだ。それはそうか。


確かにどうでもいい。


「……」


「ほらほら、泣いて謝ってもいいよー? ばっちり動画で撮ってあげるよ?」


チラと、レインパレスの様子を横目で確認。


リユキは、頭を下げて謝った。


「レイを連れて来たのは確かに、ズルをしました。ごめんなさい。さようなら」


「えっ」


「ゲームデリート」


一瞬後、視界が暗転。


初期画面に、戻った。


『データを削除しますか?』


「はい」


『復活はできません。本当によろしいですか?』


「はい」


キャラクターネームが消える。


リユキのキャラクターは、もう無い。


女性キャラが嫌でなんとかしようと思ったが……削除すれば消えるのだ。なぜ、今まで気付かなかったのだろう?


「……ふー」


ヘッドギアを外して、固まっていた身体をほぐす。


窓の外は、まだ明るい。


友人達を放置して、途中リタイアしてしまった罪悪感が半端ない。


でも、止めたら妙にスッキリしたので、後悔はない。


二人がアウトしてくるまで、他人事のようにお菓子をつまみつつ、公開映像を見物したのだった。





あれ?


続く……??




続くらしい。


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