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職業選択

彼──いや、彼女の方へ近付こうとして、彼女が囲まれているのに遅まきながら気付いた。


何か一方的に話しかけられているが、一定以上は近付けないのか、輪のような状況だ。


顔がひきつりそうになり、ため息をつき、諦めて歩み寄る。


手を伸ばしてきたので、掴んで引き寄せた。


「……なっ」

「えっ!? 誰っ? ……初心者じゃん!」

「……ちっ」


周りの目と声を無視して、手を引いたまま歩き出す。


「……助かった」


ホッと安堵した声まで、女性的に変わっている。


「聞いてない」


「ゲーム仕様。前回負けたから、みんな性別逆転する」


「……理解できん」


人目を避けたくとも、広場は人が溢れている。


歩いていれば囲まれはしないだろうが、油断できない。


「……その翼は?」


「種族特典。空が飛べる。あ、喫茶店入ろ」


彼──彼女にも妖精がついていたが、ナビと色違いだ。仲良く飛んでついてくる。


広場の通りから脇道に入ると、少しだけ人波が空いてきた。迷うことなく、店らしき扉を潜る。


店内にも人が溢れていたが、二人席に案内された。椅子に腰掛けてから、改めて目の前の友人を眺め──頭を抱えたくなった。


「ごめん。大変だった? れて、レイはそのまんまだな、さすが」


「……名前、りゆき?」


「リユキで。簡単な説明聞いた? 職業選ぼう。ナビ、リスト見せたげて」


「了解マスター!」


「待て。女扱いでいいのか? 元に戻れるのか……?」


困惑顔の友人に、リュウキもさすがに説明不足だったかと申し訳なくなる。


「入る前にも説明したけど、ここはゲーム……空想?の世界だから、夢の中で遊んでると思って。深く考えなくていい。姿は、勝てば男に戻る。ただ……裏が今めちゃ強い」


「……」


「出来れば裏ボス倒して欲しいけど、初心者に無理言わない。地道に遊ぼ。──女扱いはなし」


「あ、ああ」


なんとか頷くと、妖精がチャチャッと横入りした。


「ではではっ、これが職業リストですよっ。一度選ぶとやり直せないから、注意してねっ」


半透明の画面が出てくる。


教えられた通りに、各種設定や、漢字の意味、ステータスの見方、それからようやく職業リストに進む。


「好きな職業で。全職業、基本武器は扱えるから、レイならすぐ達人クラスだろ」


「……その杖は?」


ちょっと気になっていた、白木の杖を指さす。


「衣装とセットの、白魔道士の杖。魔法使用量が半減する。──職業、どれにする? 決まったら、一度戻る」


リュウキは現在時刻を確認していた。潜ってから、そろそろ一時間。初心者は疲れやすいから、一度戻った方が良い。


気楽にゲームに誘ったが、テレビゲームをすっ飛ばしていきなりVRはまずかったかも知れない。


ただ──現実世界の経験や、知識、身体の動かし方──はとてもリアルに反映する。


彼なら……期待してしまうのは、どうしようもない。


職業リストを見せられ、眉を寄せているのに真剣に吟味している友人に苦笑する。


持つべき物は友達だ。


少し真剣に遊ぶくらい、悪くはない。






しばし悩んでいたレイは、やっと顔を上げた。灰色の髪も、アイスブルーの瞳もそのまま、彼だ。


再現率凄いな、と思いながら、選択を待つ。


「リユキ、は、職業なんだ? 後衛か?」


「うん。見ての通り白魔道士。回復する。ちょっと白魔法もある」


現実世界の友人が、思いっきり物理だったため、リュウキは作成時に回復役を選んだ。まさか、リアルでも回復するとは予想してなかったが……。


異世界の友人は、ひとつ頷いた。


「他にも、友人がいるんだったな……前衛か?」


「うん。今日はオンしてない。今度紹介す……る」


現実世界の友人に、異世界の友人を紹介するのは……セーフか?


まあ、ゲームの中でだけなら、セーフだろう。うん。


「わかった。それならオレは」


長い指が、ひとつの職業を選ぶ。


「薬師だな」


……。


沈黙するリュウキが頷いたので、迷わず職業設定を済ませた。


「戻るか。確か……ログアウト?」


「ログアウト」


体が引っ張られる感覚と共に、世界が切り替わる。











窓から差し込む日差しが、柔らかい布越しに降り注ぐ。


圧迫感があり、被っていた物をゆっくり外す。


目の奥がチカチカと、瞬いているような。


「……大丈夫?」


心配そうな声がした。


床に寝床が敷かれ、その上に横になっていたレテューは声のした方を見る。


寝台から半身を起こして、枕元に卵形の機械を置き、リュウキはじっと眼を覗き込む。


「……ああ、ちょっと疲れた」


正しい姿なことに心底安堵し、レテューも身を起こす。


しばらく座り続け、動ける気力が戻ってから、1階に降りた。


現在、リュウキの自宅に両親と鈴一の姿はない。父親の仕事関係で、三人とも海外出張中である。


息子が一人きりになる事を危惧し、お目付け役をレテューが承わった。


折しも世間は夏休み。長期休暇にやりたい事はたくさんあり──世の中には最新ゲームが流行っていた。


あまり自宅から出ないよう、言われている。家の中でする事など、限られてくる。


なのでせっかくだから、最新ゲームを一緒に遊ぼうと誘ったのだが……ちょっと早かったかも知れない。


冷蔵庫から冷えた麦茶を出し氷もいれて渡す。ゴクリと飲んだが微妙な表情だ。


「麦茶ダメか」


「ダメっていうか……いつもの水は?」


精霊の棲む宮殿で清い水を飲んでしまった彼は、それ以来、水贔屓だ。


「あまりこっちで魔力使ったらダメらしい」


「……」


レテューは、広くて綺麗な家の中を見回す。


確かに、注意を受けた。なるべく使うなと。


家の中は涼しくて快適だが、外の暑さは驚いた。火山が近くにあるのかと、勘違いして苦笑された。


この涼しい空気を流したり、台所で火をつけたり、部屋を明るくしているモノ……デンキ、が不思議だった。


キカイが全てやるという。


さっきの、ゲーム、も。


「昼メシ食お。座ってて」


「ああ」


様々な物に驚いたが、一番は食事だろう。味が未知のモノだった。


お腹が満たされ、時間は余るがする事がない。


外は死ぬ程の暑さで、じっとしてられるのにも限界があり……。


「ダメだ。どっか行こ。ゲーム機ならホテルにもあるし──プールあるとこ」


「プール?」


「水があって、安全に泳げる」


体を動かせるなら、否やはなかった。


一応、リュウキがメールで両親に了解を取り、二人は国内のリゾート施設へと、向かったのだった。






リゾート施設はたくさんある。父親のコネを使い、ちょっと高級な島にある施設に到着し、予約した部屋に荷物を置き、さっそくプールに向かった。


高級、なだけあって、利用者達は大人が多い。


二人は空いている端っこで、水泳を楽しんだ。


疲れたら休み、喉が乾けばジュースを飲んで、お腹が空いたら食べる。


「……まるで、王族の暮らしだな」


ちょっとお金のある庶民の暮らしである。あまり、生活環境の違いを見せつけるのはマズイかな? と思うものの……今更か。


「ゲーム出来そう?」


身体を動かしてストレスが発散されたのもあったのか、返事は早かった。


「行こう。友人に会わせてくれるんだろ?」


「うん。……無理な時はログアウトで」


「わかった」


「……で、なんで薬師?」


「なんとなくだな」


ヘッドギアを被り、一緒に呟く。


「ログイン──」









街中に、立っていた。


ざわめきに隣を見れば、友人が同じように見返している。二人して、ニヤリと笑ってしまった。


「よし、行こう──」


肩を並べて歩き出す。




なんとなく。

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