捕獲
胸を押さえてしゃがみ込んだ相手を、さすがに無視はできない。
「だ、大丈夫、ですか……?」
はぁはぁと苦しんでいる様子は演技には見えない。
「走るのダメなんだー、座れば平気……ちょっと、話させて?」
「……」
人懐っこい笑顔を屈託なく向けられる。肌の白さが病弱な白さだと、気付いてしまった。
エントランス脇にあるベンチまで、ゆっくり移動した。館内の案内センターの人が、少し心配そうに注視している。
「ありがとう、ごめんね?」
年上なのに、妙に甘えるのが得意そうな。
容態が落ち着くまで、一緒に座って待った。レテューは立ったまま、周辺を眺めている。
ようやく呼吸が正常に戻ると、青年は嬉しそうに破顔した。
「優しいねー。やっぱり回復さんだ。あっ、俺ねー、クロスだよ。同じ天使だね。今日は遊びに来たの? ウチ、近所なんだ。すぐそこ」
困惑するリュウキに構わず、楽しそうに一方的に喋り倒す。
15分くらいか。話が一区切りついた頃、パタパタと急いで向かって来る女性がいた。
誰かを探すようにキョロキョロして、青年に目を留め、慌ててやって来た。
「ちょっとエイト、ひとりで居なくならないでよー。また倒れるわよー? 君たちごめんね、連れが迷惑かけたわね」
「ロカロ。お迎えサンキュー。ねぇ見つけたよ? 回復さんと、薬師くん」
「はあ?」
女性がマジマジとリュウキ達を眺めた。
「え? ホントに? なんで?」
女性は青年の保護者でいいのだろうか。もう帰って大丈夫だろうか。しかも、何も教えてないのにレテューの事がバレている。
なんで分かったのか。不思議に思ったのが伝わったのか、青年は得意そうに言った。
「体つき、見れば分かるって! あと身長とか雰囲気?」
「エイト、もうやめときな。引かれてるって。ほら戻る」
「えー」
女性が、しっかりした人で良かった。グズる青年の腕を取り、謝りながら館内に戻って行く。
ちょうど、外にエアタクシーが到着した所だった。
深い深い、ため息が出た。
『出かけると、何か必ず起きるから、なるべく家でじっとしてろって……まぁ、夏休みにそれは無理だったな』
まるで分かっていたような、返信メッセージ。
たどたどしい文章の報告を揶揄する事なく、文字は羅列される。
『いつもは鈴一が処理してるからな。アイツの危機察知おかしいレベルだし』
やはり。
『苦労かけるが、頑張ってくれ』
……。
トークメッセージが終わると、端末画面は切り替わる。現在時刻の表示になった。
藤家に帰宅後、リュウキはリビングのソファに仰向けに寝転んで動かない。片腕を顔に乗せているので、機嫌も分からない。
落ち込んでいるというよりは、気持ちが沈んでいるようだ。
ゲーム内の人物と、外で会ってしまった事は、それ程マズイのだろうか?
「リュウキ?」
全く危険を感じなかったため、接触は許してしまったのだが。どちらかというと、あちらの方が簡単に死にそうに見えて、心配になった程だ。
「……眼が、変になってる」
「眼?」
「命の残りび──」
言いかけて、リュウキはハッと口を閉ざしてしまった。
腕を浮かせた隙間から、気まずそうな目元が見える。
どれ、と覗き込んだがいつも通りだ。
「変わりないぞ。黒眼の中に金の光が散ってる──」
「それもマズイ」
「そうか」
コチラの世界では、制約があり過ぎて大変そうだ。
ようやく身を起こし、伸びをして、時間を確認したリュウキはカレンダーを眺めた。
ちょっと出掛けただけで、避けようとしていた相手にピンポイントで出逢うとか、何の嫌がらせかと思う。
無性に、黒猫に会いたくなった。




