ゲーム内だと動ける不思議
何日も滞在していると、ホテルスタッフさんとも顔見知りになってくる。挨拶も慣れた。
高級ホテルなだけあって、客が子供でも、対応はとても親切丁寧。
新聞は、部屋に届けられるようになり、好みの菓子やジュースも、減ると追加される。
若者向けのマリンスポーツも、敷地内で利用できると教えられたが。
「体力はあっても、運動神経良いとは限らない」
「……」
リュウキは若干、引きこもり気味である。
散歩くらいはさせるべきか、悩み所だった。
「レテューひとりで、行って来ていいよ」
「……」
何か、機嫌を悪くするような出来事があっただろうか? ふいっとベランダの椅子に座り込む後ろ姿に、ため息も出来ない。
そうっと頭を撫でてみる。困ったら撫でろと、リュウキの両親にアドバイスされていたので。実践。
「……」
「……」
黙って撫でられて、水平線をただ眺めて。
「──なんでもない」
「そうか」
その日はなんにもしないで、過ごした。
疑問は、翌日のシドの一言で解決した。
「あー、そりゃあ、リュウキにスポーツ勧めるのは悪手だぜ」
「……シド!」
追いかけっこが始まり、なんとなく理解。納得。
本日は、普通に採取とクエスト消化。
場所は中堅エリアの、不人気エリア。
「ゾンビ?」
レイが首を傾げたため、リユキはちょっとホッとした。あちらの世界にはいないらしい。
いつものように、三人でサクサク進め、サクッとクエストボスも倒し、ようやく──。
「上級者エリアだぜ!」
「……うん、まあ」
スペースが早すぎる気もしたが、まあ問題はない。
地図を表示して、空いている狩場を探す。同時に受けられそうなクエストもチェック。
「トロールの石場の掃除、吸血鬼城の掃討、あとは──ダンジョンか」
「うーん、三人でいけるか……?」
上級者エリアは、それなりに難易度が上がる。シドとリユキは考え込んだ。
「クランで助っ人、募集してみるか?」
「……行ってみるか」
一度、レインパレスに向かう事にした。
クラン。
冒険者が集まる、利用頻度の高い施設である。
それらしくあつらえられた、壁に貼られたクエストシートや、受付カウンター、二階の酒場。
「冒険者クランへようこそー!」
お決まりのセリフを叫ぶ受付嬢。
ギシギシ鳴る木製の階段を上がり、二階へ進むと、かなり賑わっていた。
中央に飲み物などを提供するカウンターと、店員。
その周りは丸テーブルと椅子の座席がたくさん。
陽気な音楽が流れ、楽しそうに喋りながら、プレイヤー同士の交流がされている。
「誰かいるかな〜」
「壁職と、黒魔道士?」
「だな」
レイは黙って二人に着いていく。
キャラクター名が表示されているプレイヤーもいれば、職業名のみの者もいた。そしてやっぱり女子キャラ多数。
職業名は剣士が多く、あとは黒魔道士か。ちらほら他の職業がいる程度。
カウンター側に空いている席があったので、三人で座る。
テーブルには備え付けのメニュー表があり、軽食の他に、メンバー募集もある。
テーブルについた時、視線がいくつか集まってきた。ほとんどが、シドとリユキの外見を眺める眼差しで、我に返って目を離す。
見てきたプレイヤーもほとんど女子だ。男女逆転ペナルティはややこしい。
「普通に、募集してみっか」
「ん」
メニュー表には、テーブル番号があり、クエストのため盾職と、攻撃魔道士募集と書き込めば、最新欄に掲載される仕組みだ。ただ、次々更新されるため、表の下に流れていく。
有名プレイヤーが募集すればすぐに埋まるが、普通の募集は集まらない事もある。そこは運。
「お」
じっとメニュー表を見ていたシドが声を上げる。リーダーはシドなため、連絡はシドにいく。
「盾職きた、レベル147か……」
「盾ならなんでも」
「だな! 了承するぜ?」
パーティーに一人加入した。職業名とレベルだけグループ欄に並んだ。黒騎士とある。
『よろしくお願いします。いまちょうどロック地帯にいるんで、待ってていいですか?』
グループチャットが入った。
『大丈夫です。よろしくお願いします。あと魔道士待ってるから、もう少しお待ちを』
シドがすかさず返答する。
『了解です。気長に待ちます』
雑談が始まる。シドの会話の広さは果てしなく、リユキが無口で人見知りな分、余計に。
五分くらい経ってから、募集に反応がきた。
『お、きた。魔道士レベル170……おっけーかね?』
『OKです』
盾職さんが了承する。
うなずいてから、リユキも書き込む。
『OK』
パーティー加入が許可される。黒魔道士が入った。これで五人。
『よろしくお願いしますー。これから、三つ連続ですか? 時間足ります? てか……おひとりレベル115ですか。ジョブは?』
疑問符いっぱいで質問がきた。まあ当然か。回復一人と火力二人、あとはレベルしか表示させていない。
他の人を募集するにあたって、薬師がいたら変なプレイヤーが来るかも知れないと、レベル表示のみにしたのだ。
まあ、パーティー組めば職業は見えるし、戦闘場面を見せたら隠せないだろうし、色々仕方ない。
『現地ついたら、分かるんで。あ、魔道士さんいまどこ?』
『クリスタル前』
『そっち合流しま』
クランから出て、水晶に向かう。
グループチャットはいったん静かになった。
夏休みと言う事もあり、レインパレスもほどほどに混んでいる。道が広いから余裕はある。
街で職名が表示されなくて良かった。簡易鑑定されれば出てしまうが、いちいち通行人を鑑定する物好きはいまい。
ただ、装備から推察する事はできる。
「……翼が金色は、珍しいんだな」
天使族はそこそこいるのに、ほとんど白い翼だ。中には青や黒い翼持ちもいるが、金色はほとんど見ない。
「珍しいぜ! 回復特化だからな〜。白は攻撃魔法と物理攻撃、青は防御やら補助魔法かな? 黒はなんだっけ」
「……闇魔法?」
テクテク歩いてやっとパレスの中央に。巨大な黄緑水晶の周りは、待ち合わせグループがたくさんいる。
一応見回したが……。
『水晶ついた、魔道士さんどこら辺?』
『こっち〜』
ブンブン手を振る黒いキャラがいる。
リユキがレイの手を掴み、シドの後に続く。迷子対策ではなく、移動先の登録がレイにないためと。
『おっ、来た。天使族、人族……』
黒い魔道士は、衣装も黒い。ボサボサ髪の女性キャラ。近寄っていく間に、相手が驚いたのが分かった。こっちを鑑定したのだろう。
『ロック地帯に移動するぜっ!』
魔道士が何か言う前に、水晶に突っ込んだ。
場所が変わる。
ジリジリと照りつける日差しの下、一面岩が転がっていた。大小様々で、大きい岩は家くらい。
「ロック地帯へようこそ!」
登録を済ませ付近を見回せば、ポツポツプレイヤーはいた。ほとんどがグループだ。
水晶そばの座るのに丁度いい岩に、黒い盾を装備した女性が、ひとりで待っていた。腰を浮かせる。
『あー、臨時パーティーかな? 黒騎士ですよろしく』
『よろしく、一応リーダーっす。拳闘士』
『回復特化、白魔道士です』
『……薬師?』
他とパーティー組むのは初めてだ。紹介はこれで合ってるのか目で尋ねると、大丈夫とリユキが頷く。
遅れて移動してきた黒魔道士が、わたわたと駆けてくる。
『あの薬師かよ!? 本物かっ? 黒魔道士だっ』
『じゃあ時間もないし移動します。クエスト順は、トロールの石場の掃除、吸血鬼城の掃討、あと最後にダンジョンで』
シドが先頭きって歩いて行く。ゾロゾロついて行く。
『マジで三つ行くのかっ? えっ、薬師が火力っ? えっ?』
黒魔道士は混乱中。
『助かります。自分ひとりだけクエスト遅れてて、仲間に置いてかれてたんで』
盾職さんは社会人のようで腰が低い。気にはなるようだが、動揺は見せない。
そして、皆女性キャラなのに、レイだけ男性キャラという……。
『はあっ? 初心者ああ!?』
黒魔道士は、混乱し続けた。




