イベント終了
赤い軟体が器用に多足をくねらせて、海中を逃げ回る。
浅い場所と、深海に下りる場所のちょうど境目を、時折墨を吐き出しながらスイスイと。
島の周囲を一周するつもりなのか、視界にずっと捉えられる。
左上部に、手紙マークが点滅した。フレンドメールだ。読むを意思で選択すれば、勝手に文字が流れる。
[戻って]
「……」
すでに、かなりの距離を追跡している。追いつけそうで、追いつけない。何人か、同じように追いかけているが、捕まえられない。
槍を投げたり、ヒモが投げられたり、待ち伏せしたプレイヤーもいたが、あと少しで逃げられている。
進行方向に、天使族の集団が見えた。ほとんどが女子で、白い水着姿。
追いかけるこちらを確認してから、散開し、何かをひろげる──網のようだ。
さすがに捕まったかと見ていたが、泥棒はすり抜けてしまった。だが、同時に投げられた槍がいくつか、命中する。
脚が何本か、ちぎれた。目的のモノだけに注意して、なんとか奪取する。
[もどる]
取り返すと同時に方向転換して、レイは海中を急いだ。
「天使族集団?」
「あー、多分、表のトップ勢ね」
無事に──奪われた水着を取り返してきたレイを、三人が出迎える。
リユキの姿だけはない。
イベントは途中切り上げにして、先に町に戻ったらしい。
切り上げた時点でポイントが保護できれば、奪取されるのを防げるかも知れないと。
まあ、切り上げた後でも容赦なく、引かれる可能性もあるらしいが。
「ほんとムカつく運営!」
「あげて、落とす」
「オレらも町に戻るぞー。イベント十分やったしな! 最後アレだけど」
バリアが無ければ、アニー達を守りながらの狩りになる。ちょっとどころか、大変面倒になってしまう。
なので、話し合った結果らしい。レイに否やはない。
ログアウトではなく、一度シドのマイホームに戻った。
水着装備から、通常装備に着替えると、自動的にイベントは中断とみなされる。
あとは結果を待つのみ。
「おかえり」
シドのマイホームで、すでに着替えたリユキが待っていた。
お疲れ様と、みんなで声をかける中、レイは水着を手渡した。
「これ」
「! 取り返したのか! どうやって」
「運良く?」
「……ありがと」
全員、お茶を飲んでホッとする。
イベント中断時点でポイントは確定したらしく、イベントアイテムと交換できた。
「まるがいっぱいー」
「いっぱい交換」
アニー達は大満足らしく、生産用のアイテムをたくさんゲットしていた。
イベント中継を時々眺め、雑談しながらお昼休憩も取った。
「タコ捕まったみたい」
「お、コイツか!」
イベント画像の中で、天使族の集団が泥棒を捕まえた瞬間が映った。
アニー達はそれを見届けてからアウトして行き、つられてリユキ達も。
さすがに、長時間のゲームは疲れたので、部屋で休んだ。
「泳ぎ、上達した?」
「毎日、泳いでたからな……」
ゲームの為ではなかったのだが。
ウトウトと、まったり時間を浪費した。
夏休みも、あと半分──。
ゲーム内での、短いイベント最後にて。
イベント島には灯りが灯され、盆踊り大会が開催されていた。
ポイント交換でゲットできる浴衣を着込み、プレイヤー達が楽しく思い思いに過ごす。
天使族の集団は、いやでも目立っていた。
クジラはなんとか、ギリギリ倒した。トップ勢の名声は守ったはずだ。だがどこか、納得いかない気分が残る。
イベントポイント集計結果を見て、誰もが顔を引き攣らせた。
表世界の、一位 薬師。二位 拳闘士。三位 白魔道士。四位 タイで装備職人とアクセサリー職人。
おそらくパーティーだろう。名乗るプレイヤーがいないため、キャラクター名前は不明。
五人のうち三人が、非戦闘職。一番ありえないのは、もちろん一位だ。
「……ね。リーダー? 聞いてる?」
「……あ、なに?」
ぼうっとしていた白髪の天使族が、緩慢に振り返る。
「疲れた? 明日オフ会あるよー? 大丈夫?」
「ああ……行くよ」
全員、天使族で美女集団。半分は中身男子だが、半分は女子もいる。
キャラクター作成で異性を選んだため、ペナルティでややこしい。まぁ、それも最近負け越しているため、慣れてきてしまった。
「……天使族か……」
白魔道士なら、回復特化してれば翼は金色のはず。
白髪の天使は長い間、考え込んでいた。




