虹宝箱
メールの内容はごくシンプル。
『あの薬師が、レイさんなの!? どー言う事ー!?』
『虹ありがたや。感謝です。一応明日も朝からインします』
性格が文章から伝わってくる。つい、クスリと笑ってしまう。
遅れてシドからもきた。
『虹だぞ! 虹!! 武器か装備か迷うな〜! うおおおおぉ』
本当にうれしそうで、きっとベッドの上でゴロゴロしてるに違いない。
イベントは、実は明日の夜九時まで続いている。
途中で止めてもいいし、徹夜するプレイヤーもいるだろう。
ただ、フェルメワールドでは、疲労という制限があり、長時間ログインすると体力ゲージが減っていきロストしてしまうのだ。
疲労を回復させるには、宿屋で寝るか、料理を食べるか。ただ、だいたいはみんなログアウトする。
そこまで熱中するプレイヤーは、もうほとんどいないだろう。他にもゲームは山ほどあるのだ。
(……他のゲームか)
ホテルのベッドでゴロゴロしながら、のんびり端末をいじる。
レテューはきちんと、部屋の椅子に座って、やはり端末を操作している。
視線を感じたのか、こっちを見返した。
「リュウキ? ……まだ、寝るには早いか」
「ん。なんか気になるのあった?」
「ああ、こてん?」
──待った。
漢字ドリルをやってなかったか。
慌てて確かめに行くと、古典文学のページに飛んでいた。
「古典文学は──読みたいのか?」
止めといた方が、と言いかけ止める。アイスブルーの目が、なんかキラキラしている。
「わふく、というヤツだろう? 前に妃殿下に、アルバムを──」
「はああああ!?」
聞き捨てならない単語が!
「ま……まさか……っ、見たのかアレ……!」
忘れもしない、数ヶ月前に。着せ替え地獄プラス、恥ずかしい写真をいっぱい。
青ざめたリュウキに不思議そうに、レテューは頷いた。
「シャシンってヤツだろ? 綺麗に撮れてた」
「……っっ」
「これ、そのわふくだよな」
「──駄目。忘れろ! なんでレテューに見せて……!」
「リュウキ?」
慌てて母親にメールする。もう、他の人にアルバムを見せないで欲しいと。
返信は何故か父親からきた。
『悪い、もう遅い。着物見たいって言うから取引先の相手に見せて、大絶賛もらった。長髪似合うな!(笑)』
「……」
ふて寝した。
「虹宝箱、もう出たって」
「はあっ? まだボス倒せてないんだけどっ!?」
ボスの攻撃範囲から逃げながら、上級魔法をバンバン放ちながら、ピンクのツインテール女子が叫ぶ。
「オモテだよ。夕方頃、なんかよく分からないまま、陸地ボス倒して、ついでに雑魚トンボも全滅させたってよ」
「はああああああ────!?」
裏世界の、陸地ボスのゲージは、いまやっと黄色になった。朝から延々と、ガチ組で攻撃して、だ。
イベントこそ、挽回するチャンスで、甘味は張り切った。
それなのに。
なんの冗談か。
「しかも、倒したの例の……薬師、らしいよ?」
「……」
周りで聞いていた仲間も絶句する。有り得ない。嘘だ。そんな馬鹿な……。
「ふっ……ざけんなあぁああああ──!!」
特大、殲滅魔法が、炸裂した。
赤い、赤い火炎の地獄が広範囲に広がって───ボスモンスターが、吹っ飛ぶ。
クリティカルだ。
あおりの風を涼しそうに受け流し、報告した女はにっこりした。
「そうよね……許したら、ダメよねぇ……?」




