イベント開始
イベント当日。
シドのマイホームで待ち合わせした三人は、開始時間を待っていた。
「見るな」
「お揃いだろー? 堂々としてろって。恥ずかしがると逆に目立つぞ?」
「……っ」
なんとか隠そうと考えたのか、長い金髪を今日は降ろしている。
いつもは衣服で隠れているが……仮初の姿と分かっていても、細身で美しい肢体は目に毒だ。直視しずらくて、レイは困っている。
何かあった時に、反応が遅れたら致命的だ。
シドは逆に堂々としすぎるからか、ゲーム内でしか知らないからか、なんとも思わないのだが。
始まる前からそんなことをしていると、フレンドチャットが入った。三人同時にだ。
シドが代表で受けた。
「はいはーい?」
「あっ、おはよー! イベント朝から参加する?」
連絡してきたのは、アニー達。
「するぜー。今日はフルだな!」
「じゃあ、もし邪魔でなければ、一緒していい?」
シドからどうする? と視線がきた。リユキが頷いたので、レイも頷く。
「こっちはおっけーだぜ!」
「ありがとー! 今からそっち行くー、招待よろ」
すぐに、二人が合流した。今は男子キャラなので、半ズボンだ。だが、丈の短いベストを羽織っていた。
「おはよう、よろしく!」
「おはようございます……」
「おっ、ベストか!」
挨拶を交わしてすぐ、装備の話になる。
アニー達はじいっと三人の格好を眺めた。
「ウンウン。素晴らしい眺めだねっ。さすがウチらが作っただけはある」
「完璧」
「いやー、褒めてもなにも出ないぞー?」
可愛らしい少年達に褒められて、シドはご満悦だ。
リユキはじっと、ベストを羨ましそうに見ている。
「お昼休憩だけ、あとはウチらも今日はフルだよー」
「お。じゃあ昼は交代でとるか?」
「キャンプ道具あるから……」
シドとアニーの二人でどんどん話が決まっていく。二人とも、リーダータイプなのだろう。
いきなりポンッと音がした。
『イベント開始、三分前です! みんな準備はできましたかー?』
半透明の画面が現れ、司会者の姿が映る。
『夏休み、特大イベント! 夏だ! 海だ! 討伐だ〜! イベント島にはグループごとにランダムに飛ばされるから、グループ登録忘れずにね!』
グループ登録済か、みんな確認した。大丈夫だ。
『討伐ポイントごとに、イベントポイント入るから頑張って討伐してねっ? あとは……水着泥棒に注意してねっ! ではまもなくはっじまるよー!』
「泥棒?」
誰かが疑問を呟いたが、視界がくらりと変化する──。
ざばあん、といきなり白波に襲われた。
波打ち際に立っていて、避けきれない。
「うわぁ」
「いきなり!」
足下が不安定で見下ろせば、うす茶色の砂浜だ。ちょっと足先に引っかかる程度。少し沈む。
波から逃げようとみな走る。浜辺には、他のグループは遠くにしか見えない。運が悪いと、もっと沖合に移動させられるようだ。
「……っ、さっすが黒装備! 幸運値わりとあるなっ」
「ふふふ。当然っ」
シドに褒められ、アニーは自慢げだ。
「……私のアクセも、いい効果ついたから……期待してね」
アニーばっかりと気になったのか、メメがちょっと主張する。すかさず答えるシド。
「もちろん!」
浜辺には広い砂浜と、むき出しの黒い地面。離れて林やら、小高い山やらが。
何をすればいいのかと辺りを見回していると、海側から、陸地側から、わらわらと出現してきた。
海側からは魚が。陸地からは。
「聖バリア……」
トンボだ。デカい。中身女子二人は悲鳴を上げて、リユキの結界に逃げ込んだ。
「うわっ、マジか! 多いっ」
シドが陸地側に前へ出たため、レイは海側の魚に対処する。
「レイさん、海側よろしく!」
「分かった」
メメが作った水玉ブレスレットには物魔防10%アップと、水玉ネックレスには疲労軽減10%アップが付いている。
シドは徒手空拳、レイは鎌でサクサクモンスターを倒していく。
アニー達がレイの武器を見てギョッとしていた。
「なっ、なんで鎌なの?」
こっそり聞かれ、リユキは答える。
「一応、武器らしい」
「武器って……!」
薬師専用武器は、草刈り鎌と、採取ナイフしかなかった。一緒に確認したから知っている。
レイが迷わず鎌を選んだため、リュウキは何も言わなかった。
戦闘能力が低い生産職二人と、回復専門の白魔道士は安全なバリアの中で、モンスターが途切れるのを待った。
「ね、翼触ってもいい?」
「触りたい」
「えっ? うん」
フレンド登録をしていれば、接触厳禁設定を解除可能だ。アニーとメメは目を輝かせて、金色の翼に触れる。
「うーん……鳥の翼って、スカスカ?」
「もふもふしてない……」
「はは」
戦闘職二人の体力ゲージを見張りながら、時々回復魔法を飛ばす。
シドは思いっきり動けて楽しそうだし、レイは無駄なく処理している感じだ。
本当は、壁職がいればパーティーとしては安心なのだが……。
「狩り数300いった!」
「いったん休憩?」
「休憩しよー」
グループ登録しての参加のため、討伐数は全員に反映する。全員に300つく。ポイント数は、30だった。
イベント状況を見ると、トップはもう、一千超えていた。
途中でロストしたら、その時点で参加は終わる。やり直しはできない。
バリアの中で、しばし休憩をとる。
「バリア便利だねー、天使族で、回復魔法上級者のみだよね」
陸地側に移動したので、襲ってくるのはトンボのみ。ぽんぽんバリアにぶつかっては、ギチギチ牙を鳴らす。
シートを敷いて休憩はしているが、視界はすこぶる悪い。メメはブルブル震えて、見ないようにしている。
「闇魔法みたいに、範囲攻撃ないからな」
「こういう時は、闇魔法便利だよな」
二人の専用武器を、一応聞いてみた。
「私のは、ハサミ、針……」
「私は、ペンチと、小さなカナズチ」
アニーは針を、メメはカナズチを取得しているとか。ただ、武器としての使い方がさっぱり分からないという。
休憩が終わったら、再びモンスター狩りだ。
同じ配置で狩り数を増やし、750に到達。ポイントは75。
リアルタイム情報を見ると、トップはもう三千。差は歴然。
お昼になって、いったんイベントから離脱。
休憩中でも、モンスターを寄せ付けないキャンプセットをアニー達が持っており、有難く場所を借りた。
テント内は部屋が三つあり、うちひとつを借りてログアウト。
手早くルームサービスでお昼をとる。今日はカレーライス。
初めて見る料理だからか、レテューは固まった。
「……別を頼む?」
「いや……食べる」
食休みして、再びログイン。ちゃんとテント内で目覚めた。
「……大丈夫?」
「……」
「どしたー?」
テント内から出る。アニー達はまだインしていなかったので、アイテム在庫等の確認を。
「魔法回復薬……」
アイテム在庫をじっと眺めて、ふと考える。
回復薬を作る薬草は、たくさん採取してある。
本来の効果は体力回復。なのだが……。
「考え込んでる」
「?」
待ち時間に、何やら思いついたらしく、調合をはじめるレイ。そっと見守るシドとリユキ。
野外調合セットを買ったので、どこでも調合可能になったのだ。
「職業レベルいくつになったん?」
「20かな?」
本人に代わってリユキが答える。ちなみにキャラレベルは、63。地道に上がってきている。
「出来たぞ」
ポンッと、変な煙が出たあとに、すり鉢の中に謎の粉が。
リユキとシドは早速、簡易鑑定をかけた。
「んー、反回復薬……?」
「……同種同モンスターに特殊追加効果あり、?」
聞いた事のないアイテム名だ。首をひねる。
「これ以上は、上級鑑定できんと不明だな……またけったいなモン作ったなー」
「回復しない回復薬??」
「さあな」
作った当人にも不明だ。思いつきで調合しただけだ。効果は二の次。
そんなことをしている間に、アニー達が戻ってきた。
「お昼お疲れー、やすめた?」
「お腹いっぱい、眠いね」
「おう、アイテム確認してた! 準備できたら再開だなっ」
テントが仕舞われると、再びモンスター達が襲撃してくる。リユキがバリアを張り直す。
「座ってていいぞー」
「えっ悪いよ」
確かに、バリアの中では待ってるだけだ。
「じゃあ、何か作ってるねー」
「トンボから羽がドロップしてる……魚は、ウロコ?」
自分達のテーブルセットを取り出し、二人は生産をはじめる。
物珍しく、リユキはチラチラ見学しながら回復役をこなす。
アニーは魚のウロコを繋ぎ合わせ、太めのバックルを。
メメは、トンボの羽を使って、サングラスを。
「おお、凄い」
手際の良さに感心した。
「バックルは、海中移動が15%アップ!」
「サングラスは、まぶしさ軽減……日焼けを20%さえぎる」
「一応、人数分作っとくねー」
「いいの? ありがとう」
忙しいシドとレイの代わりにお礼を言う。
アニー達はにっこりした。
イベントは順調に進んだ。と言っても、同じモンスターを延々と倒してるだけだ。飽きてもくる。
夕方頃、島の中央で、巨大なモンスターが出現した。ボスモンスターだ。
他の参加者が、みんなボスに向かって移動をしていく。
横目に眺めながら、確認する。
「遠距離攻撃ないんだよな……ボスどーする?」
「当たらないと、ポイント入らないから、行くだけ無駄かも」
「そうよね、地道に稼ぎましょう」
「トンボ見飽きた」
「……」
流石に、長時間同じ事を続けると、飽きてくる。ずっとバリアを張り続けるリユキも疲れ顔だ。
ふと、レイはさっき調合したばかりの謎アイテムを思い出した。
「り……リユキ」
「ん?」
「さっきの薬、使ってみる」
一応、宣言したのは念の為。
「いいよ」
リユキも簡単に頷いた。疲れもあった。
アニー達に、上級鑑定が可能か、確認するのもすっかり忘れていた。
片手で草刈り鎌を振りつつ、アイテムを取り出したレイは、薬ビンごとトンボに投げつけた。
トンボが一斉に……ポトリと落ちた。
薬を投げた箇所から、まるでドミノ倒しのごとく、ポトポトポトポト……見える範囲のトンボ、全部だ。
地面が真っ黒に埋まり、モンスターの遺体がかき消えた。
全員、何が起きたか、分からなかった。
ただ、遠くに見えていたボスモンスターが、痙攣してドシャリと落下すると、嫌でも我に返った。
『おっ!? おおっとー!! なんということだ! 陸地ボスモンスターが討伐! されましたーっ! ラストアタックキャラには特大ポイントだよっ』
顔を見合わせる。
ボスモンスター付近から、ザワザワとプレイヤーの困惑が伝わってくる。
それはそうだ。まだ体力ゲージは満タンだった。近場にたどり着いた者達も、誰が攻撃したのか分からないで混乱している。
「……」
「……」
バリアを解除して、ふらりとリユキは座り込む。
大量の、有り得ないポイント数とアイテムドロップ、経験値が、何が起きたのかを正確に教えてくれた。
「ごめん、いったんログアウトで」
リユキの提案に、誰も反対しなかった。




