ゲーム内なら安全です?
水の底に沈んでいるような、圧迫感と静寂。
視界は真っ暗闇で、四肢の感触がない。
なにをすれば良いのか分からず、暗闇を凝視していると、反響した『声』が降ってきた。
「詳細精査は完了しました。個体作成を開始します──あなたは男性ですか、女性ですか、どちらもですか、どちらでもないですか」
奇妙な質問だ。
「男だ」
「自分の体で作成しますか、新しく作りますか」
「自分でいい」
「──色彩は変更しますか、しませんか」
「しない」
「──あなたの、個体の名前を決めてください」
名前は、本名はダメだと事前に注意を受けていた。もちろん、異論はない。
「……レイ」
「『レイ』様ですね。登録完了しました。個体識別番号確認。パスワード確認。認識完了──では、行ってらっしゃいませ」
暗闇に、一条の光。
爆発するような眩しさを浴びて──感覚が遠のいたあと、手足の感覚が戻ってきた。
ザワザワと大勢の人々の気配。あふれる光と音。見慣れぬ街並みと匂い、行き交う人々。
「──ようこそ! フェルメワールドへ!」
街のざわめきに気を取られていると、小さなモノが目の前に飛んできた。
手のひらサイズの妖精だ。可愛い小さな少女に光の羽根がついている。
じっと眺めていると、いたたまれなくなったのか、勝手に喋り出した。
「こほん! 私はナビ妖精ですよ! アナタの冒険の旅をサポートするのでよろしくね! まずは名前を教えて?」
「……レイ」
「レイね! 私はナビよ! そのままだなんてツッコミはなしで。とりあえず、あちらのベンチに座りましょう」
パタパタ、と羽ばたきの音がする。示された方向に、木製のベンチがあった。
人波を縫うようにしてベンチに辿り着き、腰を下ろす。
「動作環境は問題なしかな? 歩きづらいとか、目が見えにくいとかはない? 大丈夫そうね!」
「……ああ」
同じようにベンチに腰掛け、妖精と話している者達がいた。きっと同じような、初心者なのだろう。
「匂いや音も、問題ない? はいおっけー! じゃあ簡単に、この世界の事を説明するよ?」
「頼む」
「まっかせなさい!」
小さな妖精が、しごく簡単に説明してくれた。
まず、この世界には裏と表の大陸があること。
裏と表のバランスが崩れると、片方の大陸が消滅──勝った方の大陸に吸収されること。
勝ち負けは、それぞれの大陸の冒険者が大陸中の問題を解決したり、ギルを稼いだり、クランを育てたり、色々な活動をすると『徳』として溜まっていく事。
冒険者は様々な『職業』があり、好きな職業につけるし、自由に活動する権利があること。
「だいたい、こんな感じかな? なにか質問はある?」
分からない事だらけだが、事前に決まっている事はあった。
「『中央広場』で、友人と待ち合わせをする事になっている。どうすればいい?」
「すでにフレンドがいるのね! 事前登録しているなら、アナタにだけ頭の上に名前が見えるわよー。さっそく探しに行きましょうか!」
パタパタ飛ぶ妖精の後を追い、街中を進んで行った。
様々な建物、人々。たくさんの妖精が飛び交う。にぎやかで活気にあふれた街。
屋台も大通りに出るとたくさん並んでいる。良い匂いがあちこちから漂ってくる。
歩きながら周囲を見回しながら、物珍しさに内心驚きの連続だったが、ふと自分の服装に目がいく。
身に覚えのない服装だった。ペラペラの生成りの上下に、茶色い革のベストだけ。足はブーツだが、柔らかい。
「あっ、言い忘れてた! 初心者特典で、武器と防具のガチャチケットが一枚ずつあるよー。アイテムボックス見て」
「アイテムボックス?」
口にすると、視界に半透明な画面表示が出てきた。いったん歩みを止め、道の脇に寄る。
「スクロールすると、ステータスとか持ち物とか表示されるよ! 所持金は最初は三千ギルね」
言われて恐る恐る、画面に触る。
カタカナと平仮名は習ったのだが、漢字は難しい。眉を寄せながら、なんとか操作する。
個体名を触ると、自分の名前が消えて別の画面表示に変わった。何やら数字が並んでいる。
「?」
「戻る、を押してみて。◁でも良いわ」
押すと、最初の画面に戻った。
アイテムボックスを触ると、なになにチケットが二枚と、三千ギルの文字。
「武器と防具が貰えるのか」
「そうよー、まわしちゃう?」
「まわす?」
「チケット押すのよー」
分からないまま、文字に触れると、絵の宝箱が表示されて、勝手に開いた。
「あら、銀ランク防具と、鋼ランク武器かー、運がないわねー」
ため息までついて残念がる妖精。
画面を触ると、色々出てくる事だけ、理解した。
「せっかくだから装備しちゃいましょう!」
装備方法を教わり、なんとか身につけて、ようやく移動を再開した。
巨大な街なのか、なかなか目的地に着かない。
路面の素材が変わった。
なめらかな石畳だったのに、緑がかった黒い石になり、何か模様が映っている。
「地図か……?」
「あったりー! 世界地図よ! 現在の攻略情報なんかがリアルタイムで見れるわ! ピンにアクセスすれば、詳細情報見れるからねー」
全くよく分からないが、これが物凄い技術だと言うのはわかる。とんでもない──世界だ。
彼は、遊ぼうと言っていたが……遊戯のレベルを超えている。
「ついたわ! 『中央広場』よー!」
地面ばかり見ていたレイは、はっとして顔を上げる。
銀色の円形の柵のような物があり、中央に巨大な黄緑色の、水晶のようなものが地面から生えていた。
習慣で魔力感知しようとして、出来ない事に気付く。
一瞬ヒヤリとしたが、事前に説明された事を思い出した。
この世界に入る時は、元の世界の力は使えないと。純粋に、この世界のルールの中で、競うのだと。
「凄いな……」
「でしょー!? あれがこっちの表世界のコア! 徳の高さとは別に、コアを破壊されても負けるわよ? 前回負けてるから、今回は大変なのよー」
「……」
大事なモノらしい。何故広場に剥き出しで置かれているのか、理解に苦しむ。
そう思って見ていると、水晶が光った。光った箇所から、すっと人々が出てきてギョッとした。よく見れば一定の感覚を開けて、人々が出入りしているようだ……。
「……アレは」
「各地に向かったり、帰ってくる転送装置でもあるのよー? 初期地登録しちゃいましょう! 手で触るだけよ!」
「……」
言われるまま、そっと近付き水晶に触れると、リン、と音が鳴った。
妖精は満足そうに頷いている。
「これでいつでも『はじまりの街』に戻って来れるからね! ロストした時もここからだから、気をつけてねー!」
「ああ」
「さてさて、フレンドはいるー? 頭上に名前が見えてれば、フレンドの証拠だよ〜」
言われて、目的を思い出した。
彼に会って、ようやく一段落できる──広場は広い。軽くザッと視線を流したが、目がチカチカした。人々が多すぎる──。
集団で集まっている者達。少人数で固まっている者達。大人から子供まで。防具も武器も様々だ。
つい、そちらに気を取られてしまう。
「……ん?」
金色の、翼。
見間違えかと思ってそちらを見ると──。
首元から裾まで、白地に緑の蔦模様が刺繍されたピッタリしたローブを身に付け、長いゆるやかな金髪を後頭部でひとくくりにし、身長程の長い杖を握って佇む──美少女が、背中に金色の鳥の翼を持っている。
顔立ちが、彼のものだ。だが、少し大人びて……。
呆然と見ていると、視線に気づいたようで、美少女がこちらを見た。
頭上に、間違いなく、名前が浮いている。
リユキ、と。
思いついたら、書かないと……っヽ('ㅅ' ;ヽ三 ノ; 'ㅅ')ノ




