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9話 呪いの中へ。

結界の中であるかぎり、私達に利がある。

けど相手は呪が巨大化し深くなったもの。

特に優秀と言われた姉兄の力があるだけに躊躇いがあった。


まぁ、今更やくに言っても無駄だけど。

彼は意気揚々と膨れていく呪の中に入っていった。

私とさくらさんもそれに続く。

呪に飲まれるなんて、そう体験できるものじゃない。

巫女と守護守さまは呪を浄化するのが本来の役目なのだから、触れることはまずない。


「…う…」

「結稀さん、大丈夫ですか?」

「…な、なんとか」


酔いそう。

数多の呪を吸収し深く膨れ上がったこの中は強い不の感情にあたる。

自分を浄化し続け、飲み込まれないようにしないと、ここの呪はすぐに私を取り込むだろう。


「どうした、さっさと行くぞ」


傍若無人はさくさく進んでいく。

元より彼は災厄の守護守、この程度の呪はさしたことないだろう。

近い性質があるからといってパワーアップするわけじゃないけど、守りに入る必要もないぐらい彼は呪に影響されない。

それでも、彼が災厄の守護守さまだからこそ、この世の大災害や厄災が訪れたとき、人々は先に進めるのだから、本当感謝しないと。


「!」

「ほう」


進もうとすると暗闇から人型の呪が出て道を阻む。

彼は楽しそうにそれらを撃破していく。

足元を救おうとする呪なんて踏み付けられて終わる。

近づこうものなら黒い塵になっていく。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


だいぶ進んだところで記憶の源流へたどり着いた。

呪は人から生まれたもの。人の記憶や感情が元だ。

それがちらほらと現れ消える。

ふと、私の横を笑いながら駆けていく小さな女の子、それを追う男の子。


「姉さん…兄さん…」


写真でしか見たことない姿。

私と姉兄は年が離れてたから、私が物心つくころは、成人してないとはいえ大人だった。

笑い声はすぐに泣き声に変わった。

小さく泣いていたのは兄だった。

しゃがんで手で顔を覆っている。

兄の隣に姉がしゃがみ、声こそ出してないまでも同じように泣いていた。

遠くから誰かの声で、双子はよくないだの忌み子だの静かに囁いている。

そんなことを言う巫女がいるのか…私達巫女側がそういうことを言うなんておかしい。

私達巫女が自ら不の言葉を口にすることは長い教育の過程で控えるよう言われつづける。

言葉と概念に縛られるからだ。禁じられることはなかったけど。


『つよくなろう』


姉が兄の手を取る。


『つよくなって、だれにもモンクをいわせないの』

『…うん』


兄も頷く。

泣く姉兄がすっと消えて、遠くから赤ん坊の泣き声が聞こえた。

並んで走る姉と兄は少女少年らしさを残す10代になって現れた。


『生まれたの?!』

『女の子?』

『可愛い!』


嬉しそうだ。

なぜだろう、ここは不の感情と記憶の置場だ。

この記憶はどう考えても不の気をもっていない…その記憶をこんなに長く残す必要がないのに。

それでも続く。

私が生まれた時の姉兄の喜びよう。

そして成長を見守る姉兄の姿。


『歩いた!』

『見た?!』

『すごいね!』


私は記憶にない部分だけれど、こうして面倒を見てもらってたんだ。

とても優しくしてもらった記憶はあるけど具体的に覚えてるわけではなかったし、ちょっとだけ悲しそうに笑っていたのが最後だった気がしたけど…。

心底嬉しそうに笑う姉兄をこんな形で見ることになるなんて。


「…姉さん…兄さん…」

「やはり根深く結びつけられているな」

「え…?」

「呪の根源が結さんのご姉兄になってしまっているから、不の記憶問わず現れるのでしょう」


そういうことか。

そうなると、姉と兄を救うのが…浄化するのがより困難を極める。

根付いた呪を引きはがすのに、どれだけ時間がかかるだろうか。

浄化の手順を考えていると、どこかで器だと歓喜する声が聞こえた。


「器…?」

『お父様とお母様は…』


黙って左右に振られる様は、遅かったことを告げた。

父と母になにが起きたのだろう。


『…そんな』


私を抱いた姉と兄がひどく切迫した様子でいる。

私には父と母の記憶は姉兄よりも微かで…とても可愛がってくれたことだけは覚えてる。

けど、物心ついたときにはいなかった。早くに亡くなっていて…あれ、死因はなんだったっけ…。


『助けないと…!』

『……本家の叔母さまのとこに行きましょう』


私を預けて、巫女として育てる。

叔母の教えの管轄が強力な結界のある富士山にあるから、そこなら当面手を出すことが出来ないはずだと。


『でも巫女として育てるなんて』

『逆手に取るの…学びの間に私達でどうにかする…巫女であれば結もある程度の自衛ができるようになるわ』

『僕らで奴らを』

『そう…私達二人ならやれるわ』

「結稀…駄目…逃げて」

「え…?」


記憶の源流を超えた。

あたりはより暗い呪の固まり…息苦しく寒い場所にたどり着く。


「ねぇ、やく」

「なんだ」

「さっきの記憶…」


姉と兄は何かと戦っている。

私は姉兄に守られてた。一体何に?

なんで姉兄が呪にまみれた姿で今ここにいるのか。

考えられる可能性が頭をよぎる。


「お前が何かしらの責任を感じているなら、それはお門違いというものだ」

「え…」

「お姉様とお兄様が決めて行動したことです。そこに結稀さんは関係ありません」


二人の守護守さまの意見が一致してる。

珍しいと同時に励まされてる感じがして、軽く笑えてしまう。

不思議だな、本当。

一瞬で私の不の感情を緩和してくれる。


「二人とも…ありがとうございます」


向き合える。大丈夫だ。

進めば進むだけ声は近くなる。

ずっと阻みつづけてきた黒い人型もやくに霧にされていく。


「…結稀」

「結稀…」


名を呼ばれ立ち止まる。


「やはり早かったな」


やくは得意げだ。

彼からすれば大した戦いもなく、少し歩いて辿り着けたのだから、自分の予想通りに事が運んで機嫌が良い。


「姉さん…兄さん…助けに来たよ」


体の大半が真っ黒に染まり、形を変えた二人が私の前に出てくる。

隣で災厄の守護守さまが軽く笑う。


「さぁ結稀、足掻いてみせよ」

「うん」

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