60話 呪の根源 後
「成程」
新しい攻勢に関心を示してる場合でもないけど、彼は至って平常通り。
全ての黒く染まった神器が彼に向けられ鋭く光った。
もちろん射出は一斉。
雷が落ち風が切り裂き、水柱と炎柱、土の柱までもが同時にいくつもあがり、変化した呪の神器を飲み込んでいく。
同時、彼から同じ神器が彼を中心に出現し、呪の神器に向かって発出される。
互いにぶつかり、相殺されていく神器たち。
ただ1人が、やくだけが全てを出しているとは思えない、様々な力のぶつかり合い。
乱暴で力任せではあるけれど、実に彼らしい戦い方だ。
そして呪の神器の1つとして彼を傷つけることはできず、届くこともかなわず、どれも半ばで消えていく。
数を増やしたにも関わらず、呪は再び同じだけ結晶体の数を減らされた。
「今のは中々面白い」
いいぞと呪を褒めるやくは楽しそうだ。
呪は数を減らされ、再度分離を繰り返したが、その数は先ほどの回復時の半分しか成せなかった。
だいぶここに集まる呪の力を減らしている。
一方的な消滅は、今この国を覆い人々から不の産物を吸い上げ、国に染み渡らせても補えない程のものということだろう。
呪は分離して増えた分を一所に集め、また大きくなった。
けれど棘ではない何かに変わった。
見たことない形…訝しんでいたら、やくが得たりといった様子で頷いた。
「ほう、先の世の物を出してきたか」
やくが物珍し気に見ている。
先の世のもの…私達が知り得ないものを作り上げるなんて。
あり得るとしたら臺與の異質に彼と同じ千里眼のような力があったかだ。
先の世が見える異質を持っていたのを取り込み利用したのなら、彼の言う先の世の災厄で攻勢をかけることはできる。
長い間、根源は臺與の中にあった。
それ故に力を形にする時、臺與の力の多くは呪に利用されているのだろう。
その大きなものは彼に向かって射出され、彼は剣でそれを受けた。
真っ黒に染まった何かはそのまま剣を押し続けるも、力の強い水柱に下からおされ宙へ飛ぶ。
そのままやくが追いかける最中に呪は雷に打たれる。
彼が追い付き、剣で呪を真っ二つに切った。
真っ二つになって一息、呪は黒い大きな炎を上空で上げ、最後は消えていった。
やくが降りてきても、残った結晶体は分離することなく、新しく動きを変えた。
「?」
結晶体が渦の中に戻っていく。
渦に入ればもう形としては消え、その霧の中に溶けていく。
「!」
と、浄化の舞の中、根源の存在を掴めるところまでやってきた。
感覚でしかないけど、あの渦の中心にあの時と同じように根源が形として出現させることができると思えた。
好機だ。
そう思った途端、渦の近くに灯が灯る。
「ほう」
やくが感心したように呪を見た。
その先に根源が見えたのだろうか。
「?」
灯が灯った途端、呪を発出し続けていた根源の様子が変わった。
風を巻き起こし渦の中心に集まっていく。
灯の一部がそれに飲まれ、周りの木々ですら根こそぎ吸い取っていた。
足りない力を補うように周囲の力を取り込んでいる。
浄化の灯ですら。
それでも止めることはしない。
より力強く舞を踏めば、灯は飲まれることはなかった。
「!」
周辺を飲み込んだ呪は飲み込んだ分の力を使って、大量の呪を生み出した。
形を変えずに、しいて言うなら最初に見せた津波のようになってやくを飲み込もうとした。
彼は敢えてそのまま呪の中に入っていった。
辺り一面黒く染まり、その濃さからやくが見えない。
けど、浄化の灯だけはかろうじて見えた。
消えていないのであれば続けないと。
「………」
呪は扇の結界を超えて私を飲み込もうと躍起になっているけど、やはり超えてくることはなかった。
舞を続ければ続けるだけ、浄化ができているという感覚だけが強まっていく。
周囲により一層多くの灯が灯った。
一方でやくが敢えて飲まれたことにより、呪は悲鳴を上げていた。
一体中で何をしているのか想像できるけど見えないのだから仕方ない。
「!」
ふと形として見えた気がした。
根源の存在…これを一気に浄化すれば終わることができる。
より力強く、ただ一心に舞をし、そして。
「よくやった、結稀」
飲まれたはずの彼が現れる。
周囲の濃い呪がざあざあ音を立て離れていくその中心で彼は右手に何かを掴んでいた。
彼の手が炎で燃える。
私の灯ともつかないものが彼の手の内にある呪の根源を燃やし尽くしている。
「俺の勝ちだな」
心底楽しそうに見下ろし笑い、彼の手が開かれると炎が消え、代わりに光の粒子が舞う。
根源が消え去った瞬間だった。
同時、私の舞も終わりを告げる。
「そう、終わったのね」
「…卑弥呼さま?!」
邪馬台国から動けないと聞いていた卑弥呼さまが、すぐ近くに立っている。
どうしてと思う間もなく、彼女の身体が白く包まれ、少しずつ見えなくなっていった。
「卑弥呼さま…」
「…それが貴方の応えね、日向」
少しだけ淋しそうに笑って空を見上げる。
やくは気づいていなかった。
彼女は静かに瞼を閉じて頷き、私の方を見て穏やかに笑う。
「あの子をよろしくね」
私が応える前に卑弥呼さまは完全に消えてしまった。




