59話 呪の根源 中
それを見て呪は何を思ったのか、やくの手足を人形を使って拘束した。
同時、彼の正面から日向がかつての厄災の中から出てきた件の剣を持って迫っていた。
やくはふんと鼻を鳴らし、残念そうに吐き捨てた。
「見苦しいな」
炎の柱が彼を覆った。
斬りつけることができずに止まり、距離を置く為に後ろへ飛ぶ日向。
炎の柱が彼の四肢を拘束していた人形を消し去り、炎柱の中から出てきたやくは目の前の人形が持つものと同じ剣を手にしていた。
「本物を味わえ」
刹那、人形に切迫し、そのまま深く切りつけた。
避けることも受け止めることもできなかった人形は真っ二つになり霧となって消えていく。
息つく間もなく、呪が巨大な龍を生み出した。
先程、やくを襲わせたものとは比べ物にならない大きさ、その龍は下肢がつながっていた。
八岐大蛇に酷似している。
母が見せてくれた八岐大蛇とも違うが、本物と異なる時点で黄泉國のものよりも力は脆弱なのがわかる。
そんなものを出してもやくには敵わないのに。
「大きいのは図体だけか」
龍からより黒い呪が吐かれても稲光で相殺され、飲み込もうと迫っても避けられ手に持つ剣で刻まれていく。
8つの頭はあっさりと細かく刻まれ、大地に響きを上げながら落ちてきた。
「?」
けれどその塊はさらに形を変えてくる。
大きな塊はそのまま収縮し、小さな結晶体がたくさん生まれていく。
臺與の胸の中にあった結晶体と同じだ。
しかも一度にこんなたくさん…結晶体を根源とするなら、根源は臺與の身体の中から出た後、周囲の不の産物を吸い取ってより強い力を得て増えたことになる。
「今度は数で攻めるつもりか」
見下ろしていたやく目掛けて結晶体が飛翔していく。
彼を上下左右すべての方向から囲み、同時に結晶体が咆哮をあげた。
悲鳴のようにも聞こえる声は何を言っているか分からない。
不を吸い上げすぎたからか、もう臺與の声を使って言葉を発することはなかった。
そして結晶体から細く長い棘がやくに向かって射出される。
彼は面白そうに避けたり剣で叩き割ったり、直前で霧散させたりし、その全ての棘が当たらずに終わっていた。
結晶体は棘を射出し続けるものの中から形を変えて動き出すものが出てくる。
彼の持つ剣を模倣して生み出し、剣と剣がぶつかった。
「また本物を味わいたいか」
呪の剣を一刀両断し、縦に振り下ろすと、その先の一角にあった結晶体が根こそぎ失われた。
本物の剣の力が他と違いすぎる。
一角の結晶体が失われても、そこにすぐに他の結晶体が登って来る。
私の近くに落ちてきた呪は扇の結界と私の舞で多少浄化できていても、さっきの龍の大きさから考えて相当な数になっている。
一角を一掃しただけではそう簡単に消えるわけがなかった。
「次は何だ」
新しいものを寄越せと言わんばかりの言葉だ。
それに応えるかのように結晶体は違う動きをし始める。
一角で結晶体が集まって統合され、大きい結晶体になったそれはその大きさを生かしたままの棘になってやくへ向かってくる。
また別の場所では結晶体が広がって網になって上空から彼を捉えようと落ちてくる。
他の場所では結晶体は先ほどの特定の人物とは違い、黒い人型になって現れ始めた。
手足が異様に長く形が人とは異なる異形の人型。
それらが同時に襲い掛かって来る。
「芸がないな」
剣で網を切り裂き、風を起こして異形の人型を退け、片手で巨大な棘を止めてみせた。
ぐっと握る手に力をこめれば棘はあっさり霧散する。
残った結晶体を彼が見れば、その一角の結晶体は震え、その後何もしていないのに消えていった。
何もしてないわけではない…何かをしたのだろうけど、私には理解ができない何かだった。
災厄とは、目に見えるものであることもあれば見えないものの時もあるから、きっと先程のは後者なのだろう。
「俺の真似事ばかりしてるようでは結果は同じだぞ」
彼の足元にいた結晶体から黒い縄のようなものがでてきて足を拘束するが、同じように大地から縄を出して結晶体の縄を切り刻んだ。
ついでとばかりに大地から伸びた縄はやくの足元に控えていた結晶体を次々と縛り圧迫して消し去ったり、そのまま貫いてみたりと淡々と消し去っていく。
「……やく」
呪は同じように統合し大きな攻勢に出るが、同じようにやくに消されていくだけだった。
大きな棘ですら、今度は触れることもかなわず、彼に触れる前にざあざあ音を立てて消されていく。
彼が自身の周りに巻き起こしてる風にやられたようだった。
減っていく一方であった結晶体が今度は分離し始める。
力はそのまま、単純に数を元に戻すためにしているよう。
瞬時に最初の時と同じような囲まれた状態に戻るが、彼はそれを意にも返さず鼻で笑う。
「同じ事をやり返そうと思わぬ事だな」
震え悲鳴を上げる結晶体。
同じことをしても彼に駆逐されるだけだ。
それを分かっていたのか、結晶体は神器に形を変えていった。
刀、薙刀、棍、扇、矢…おおよそ巫女が使用する相手に傷を作ることのできる、切り刻むことができるものばかりだ。
鈴や幣がでてこないあたりその凶暴性が窺えるし、同時に彼が浄化対象でないことをよく理解している。




