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57話 再会、共闘。

「え、なにそれ」

「どうした」


黒く染まり、大地へ根付いていく呪を見ながら急いでやって来た天神。

社に腰かけ、肘をついてつまらなそうにしている人。


「そんなあっさり?!」

「なんだ、騒がしいぞ」


やくがいた。

あっさりすぎる…あの別れはどうした。

ここは天神に来てもいなくて相当私が苦労した挙句出てくるのが流れとしてはいいんじゃないのか。

どうしてこうも当たり前のようにそこにいるの。


「私はもっとこう…紆余曲折の果ての感動の再会をするんじゃないかと」

「期待外れだったようだな」

「誰のせいよ、誰の…」

「お前自身のだろうな」

「うわ…」


仰る通りで。

消えることはないと確信できても、それでも再会ぐらいは今までないような感動的な雰囲気があってもいいと思っていた。

私が失われたやくとの記憶を取り戻し、難升米ナシメの業を清算できて、臺與イヨの最期を看取れたことを考えると流れはそうなりそうなものなのに。

逐一予想を超えてやってくる…事態が事態だから助かるけど、肩透かしした感じはある。

彼の言う通り私自身が勝手に期待した故の結果なんだけど。


「で?」

「ん?」

「どうしてここに来た」

「あ、呪を…」


共に空を見上げる。

呪は恐らくこの国を覆った。

今はさらにその先、大地に根付いてその上に立つ人々を扇動し始めているのが感覚で分かった。

人々は呪が見えないから知らず知らずのうちに不の産物を今までより多く生み出している。

この緊急性を考えれば、全国の巫女と守護守は何かしら動いていると思うけど、それでもそこで人々の浄化をし続けたところで根源の力が勝るはず。

はやくどうにかしないと。


「呪をどうするかはやくが決めるんでしょ?」

「そうだな」


あの時と同じ、国の危機だ。

そんな事態で彼は笑う。あの時とは違って、さも楽しそうに。


「そろそろ好きにするか」

「消滅させるの?」

「そうだな、散々遊んでやってからにはなるだろうが」


この状況でもやくは優位なのか、趣味の悪い発言をしている。

本部の管理巫女たちがきいたら引くだろうその言葉は、逆にいつも通りで少しほっとしてる自分がいた。


「あの、やく…お願いがあるんだけど」

「…どうした」


機嫌を損ねそうだけど、彼に会えても会えなくても勝手にするつもりだった。


「私も呪を浄化したい」

「ほう」

「…私も巫女としてこの呪を浄化したい…やくと一緒に」

「結稀、それはもう決めた事か」

「……うん」

「成程」


不遜な笑みは変わらず、私の言うことを分かっていたかのような態度だった。


「結稀、理解しているか」

「なにを?」

「何故今の今まで呪を消さなかったかだ」

「ああ…」


邪馬台国で臺與が来る前に話していたこと。

難升米との約束、臺與の最期、もちろんこれも彼の心内の1つであるだろうけど、それ以外に恐らく決定的なことがある。


「…もしかして呪は消えない?」


軽く頷き、もう知れたことだろうと彼は言う。


「俺が呪の根源を消したとして、呪という存在はこの国から消えはしない」


それはずっと考えていた。

難升米の過去を見た時のやくもすぐに呪をどうにかしようとしなかったし、半分は認識を変えて彼の存在をまったく違うものに変えた。

それを受け入れていた彼は知っていたのではないだろうか。


「私たちの生きる舞台が変わったから以前には戻れない」

「そうだ」


だから呪の根源が消滅したとしても、以前と同じ呪のない生活を送ることはできない。

呪は私たちの身近に存在し、生まれ浄化される循環は変わらないだろう。

それでも。


「呪の根源は浄化するって決めた。呪は残っても、きっとこの国の人々は自分で自分を浄化できるようになるはずよ」

「そういう舞台に変える気か」

「…そうだね。器巫女も守護守もいない新しい国は自分たちで自身を浄化できる舞台がいい」


やくは面白かったのか盛大に笑った。


「及第点だ」

「…そう」

「行く末を決めるとは中々傲慢だな」

「そういうつもりじゃなかったんだけど」

「かまわん」


そしてここにきて契約するか問われた。

てっきり私から申し出ない限り何も言わないと思っていたけど。

丁度良かった。どちらにしても伝えようと思っていたから。


「契約はしない」


私は首を横に振る。

こうして無事再会できたとしても、彼の力を借りて根源をどうこうしようとは考えてなかった。


「私は巫女として浄化という使命を果たすよ」

「そうか」

「まぁ…共闘って感じかな?」

「ふむ、どちらが先に根源を消滅出来るかという事か」

「ううん?ちょっと違、」

「いいだろう。もちろん俺に敵うわけもないだろうがな」

「だから違、」

「精々俺が遊んでいる間に足掻くがいい」

「きいてくれる?」


私の巫女としての力を考えれば、当然やくの言う通りになるのだけど、競い合いたくて言ったわけではない。


「ならば早々に行くとするか」

「うん…ねぇ、やく」

「まだ何かあるのか」

「……その、難升米と臺與のことだけど」

「知っている」

「…そ、う」


予想通りの応えだった。

やくが言い切るのであれば、これ以上言う必要はないだろう。

今の状況を見れば、私が臺與から呪の根源を離したことは分かるし、彼女の死を看取ったことも分かっているはずだ。

臺與の最期だけでも伝えた方がいいかと思ったが、その必要もなさそう。

そもそもこうなることを分かってた上で静観していたのだから。

そう言うと他人の為に待つことなんてしないとか言いそうだけど。


「じゃぁ、行こうか」


彼を見上げ、ここにきてふと違和感が生まれた。

彼に対して、いつも通りであるにも関わらず、その強大な力を持っていることも感じることができるのに何か違う。


「やく…」

「どうした」

「…いいえ、後できく……いこう」

「ああ」

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