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56話 解き放たれた呪。

「許さない!」


一息付く間もなく、大きく縦に揺れた。

すぐ傍、結界と沈静の力でおさえていた呪の根源が激しく揺れてる。

沈静の守護守さまがいなくともその力は私の中におさまっているから健在だし、二重におさえているから当面動き出さないと思っていたのに。


長年、臺與イヨの中で育まれた感情を喰らったからか、臺與の声が結晶体から聞こえる。

破魔矢に罅が入り、縦に黒い稲光が落ちた途端、おさえていた結界は破られた。


「!」


瞬間目の前は呪で黒く染まり周囲を覆い尽くす。

そして私を取り込もうと襲い掛かる。


「殺してやる!」


さっきまで彼女が叫んでいた言葉をまま使って黒い霧が一層黒くなり塊となって正面から突っ込んできた。

薙刀で受け止めた。

想像以上の重さ、力比べでは到底敵わない。


「嘘、でしょ…!」


流す形で体を翻らせ、塊から回避した。

たった1人の不の産物を喰らい続けてここまで成長するなんて。

これが身体の中で自身を蝕んでいたら、苦しいなんて言葉では到底表現できない…臺與はずっと耐えていたのだろうか。

沈静の守護守を生み出す程、呪が自身を蝕んでいくのが耐え難かったはず。


「やめて!」

「?!」


呪がなおも臺與の声で叫ぶ。

黒い空からいくつもの棘が降ってくる。

足捌きで回避しながら、避けられないものを薙刀ではじき返すも、急に足が動かなくなった。


「え」


足元を見れば、片足が黒い塊に飲まれていた。

浄化をしているから浸食はないけど、捕らえられたものを回避できない。

一瞬の焦りの間にもう片方も捕らえられる。


「っ!」


いけないと思った時、予想通り呪は塊となってそこまで来ていた。

うっすら見えるのは龍だ。

臺與の本来の形まで利用するなんて…でもさすがに私もここまでくると苛立った。

呪は臺與ではない。


「臺與の声も身体も使わないで!」


薙刀を振りまわして龍を切り刻む。


「許さない!」


臺與の声が響く。

龍が切り刻まれた後にきたのは最初と同じ塊だった。

薙刀で守り受けたけど、力負けして吹っ飛んだ。

何度か地面を跳ねてから起き上がる。


「痛…」


少しずつ弱らせてから私を取り込む気なのだろう。

まだ私が私自身を浄化できる手前、浸蝕はできない。

けどこのままでは埒が明かない、というよりは時間が長引けば長引くだけ私が不利だ。


「!」


薙刀からぱきんと高い音が聞こえたかと思うと、罅が入り粉々に砕け散った。

こんな時に…弓と刀は臺與に壊されてる。

矢は直接叩き込まないと効果がないから、結晶体のない今の呪には不向き。

舞だけで行う浄化は守護守さまに戦いを預けないとできない。


足捌きで黒い霧の塊を避ける。

こればかり続けていてはこちらが浄化に転じられないから却下だ。

後は残る神器を使ってどうにかするしかない。


「よし」


扇を両手に抱え、2柄を左右少し距離を置いて大地に刺した。

簡易的ではあるけど、円陣の役割を果たし、私の足元が黒いものから本来の大地が現れる。


「やめて!」


足運びと共に舞えば私の周囲だけ浄化され白く光る。

蠢く呪は近づけない挙げ句、無理に近づけば浄化される。

これが天鈿女命アマノウズメノミコトさまの破魔の力。

呪はより黒く密度の高い塊になって私を襲ってきた。

近づいても揺るがず、そのままの姿で私に切迫したのを扇で切り刻んだ。

塊は霧状になって浄化された。


「許さない!」


呪は何度か形を変えた塊になって私に向かってきたけど、扇によって浄化され続けるのを見て、これ以上は私を浸蝕できないとわかったようだった。

それを悟ってすぐに私から引いていく。


臺與の声で叫びながら立ち込めていた霧は上空へ飛び去り、そこから広がりを見せる。

あの時と同じか…唯一違うのは根源が臺與の中にないことだけ。

呪は臺與だけが抱える単一個体から程なくしてこの国の全ての民の認識に変わるだろう。

不の産物を吸い上げながら。


「………やく」


彼の言葉を思い出した。

呪をどうするかは彼が決める、と。

そして過去、難升米ナシメは臺與をどうにかするから根源を消さないでほしいと、お願いしていた。

民が決めた意志を尊重し、業を果たし終わるまで待っていた、としたら…今この時こそ彼が勝手を決める時ではないだろうか。


「…やく、どこに」


一旦引くということはどこかにいるということだ。

そうだ、彼は自身の言葉通り存在してるはず…消えるなんてことはない。

そこだけは信頼していた。

あの傍若無人が他人の力で消えるなんてことはない。


「………」


思いを巡らせても彼のいそうなとこには限りがあった。

彼は自由であるけれど、日向だった時も災厄の守護守になっても戻る場所はそれぞれ決めていた。

日向ヒムカなら邪馬台国、災厄の守護守なら。


「…よし」


考えすぎてても時間がすぎるだけだ。

今私の中でここだと告げた場所に行こう。

ここから最短最速で向かえる所。


「天神へ」


彼の社。

巫女術の行使と守護守さまの力を上乗せして走った。

呪は私の想像を超える速さで浸蝕が進んでいた。

空が黒く染まり日が陰る。

舞い落ちてくる霧は大地や木々を浸食していく。


「やく…!」

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