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54話 臺與の叫び。

天安河原は川の向こうの洞窟で神々が話し合った場所だ。

この場所に守護守さまはいない。

神々が舞い降りた、それだけで結界と同じ強さの力を持つ。

今の臺與イヨはこういった場所を避けると思っていたけど、それも関係ないというぐらい呪が強いということだろうか。


「臺與」

「………」


川の真ん中、清流の上でぼんやり流れを見ながら立つ臺與は姿をさらに変えていた。

立つ姿はかつての記憶と同じで母の顔や身体の面影は全くない。

身体の部分部分を黒龍の鱗が纏わり付き支配していて、仙骨から龍の尾が伸び、手足は龍そのもの。

半分人で半分龍といった形が当て嵌まるその姿は難升米ナシメのどの記憶にも見当たらない。

鮫、龍等さまざまに形を変える異質を持っていたけど…これは呪の影響だろうか。

相変わらず見ただけでは呪が表面化してない。

けど胸の中心にあるのは変わらないようだ。

それだけは今の私にも見えるから。


「…兄様がいない」

「臺與」

「兄様のいない世界にいても意味ない!」


川が急に氾濫し、津波のように大きく膨れ上がる。

その色は黒く濁った濁流…この土地の呪の浸蝕が早い。

私を飲み込んだ黒い流れはすぐにおさまり清流に戻る。

手には扇。

水の中で軽く舞うだけで鎮静化できる。

扇に宿る破魔の力もさながら、沈静の守護守さまの力も格が違う。


「お前のせいね!」


臺與は濁流の中から現れた私を睨み叫ぶ。


「いいえ、これは貴方が決めたことでしょ」

「違う!私は兄様を助けたかっただけよ!」


咆哮が空気の圧となって私の頬を掠る。

血が少し滲んだ。


「殺してやる!」

「うん、全部吐き出していいよ」


そう返して、私は破魔矢を3種放った。

臺與は背中から大きな翼をはためかせて飛び上がる。

矢はそれを追う。

1つは炎の鳥になって、1つは桜の花びらを纏って、1つは色はそのまま静けさを称えて彼女を追いかける。

水柱があがり炎の鳥を飲み込むが、その柱をもう1つの矢が貫き、しんとした水に変化する。

その間に桜の花吹雪が臺與を覆う。

簡易的な結界だけど、やはり彼女には通じないようですぐに花びらが散らされる。


「いつもいつも兄様の隣を独り占めして!」

「…うん」


難升米は政の中心にいて自然と日向ヒムカの側近として傍にいることが多かったから、小さい頃の臺與にはそう見えたのかもしれない。

彼女が物心ついた時には難升米と日向は想いを通じ合わせていたから、その親密さも臺與には見えていたのだろう。

公私混同することはなくても、卑弥呼と日向との関係とも違う特別な情は鋭く感じる者には知れてしまう。

臺與はもれなくそういう質を持った子だ…その力の強さ故、色々なものに敏感だった。

人の感情にももちろん…だからこそ呪にも気づいた。


「ずるいのよ!あんたばっかり!」

「…そう」


扇を2柄放つ。

巨大な尾によって叩き落とされるも、飛翔している矢に救われ再び臺與を追う。

付近を呪が浸蝕していたのか扇が通る所に黒い霧が霧散していくのが見える。

扇はこのまま矢と共に彼女を追跡させつつ、周囲の呪も浄化し続けよう。

呪が付近を覆うことで、臺與にとっての結界ができかねない。


「あんたなんかいらない!」

「本当に?」

「煩い!」


臺與からかたい音が出たかと思うと、体を覆っていた鱗の一部が剥がれて龍の形をとった。

最初に見たときよりも小さい龍ではあるけれど、力が強大であることがわかる。

3匹、それぞれ違う方向から私に向かってやってくる。


「臺與にとって、難升米は本当にいらない人?」

「黙って!」


刀を出しそこに炎の力を宿す。

口を開けて突っ込んできた龍を受け止めるも、歯が立たない。

続けざまにもう片方から龍が迫って来るのを扇で跳ね返す。

3匹目がくる前にその場を陰陽道の足捌きで離脱しつつ刀を投擲した。


「ああもう煩いわね!」


自身を追跡する破魔矢と扇が鬱陶しいのか臺與が叫ぶ。

私への怒りを顕わにし続けながら。


「私の方が兄様を好きなのに!」


投擲した刀は1匹の尾に刺さりそのまま大地へ縫い止め、次に薙刀を大きく振り回して迫る2匹を遠ざける。

大地に刺さる龍は桜の木によって浄化し、大地から私の元へ戻ってきた刀がそのまま私に迫る龍をもう1匹貫いた。

貫くだけでは浄化は完了せず、もがいているところを至近距離で破魔矢を放った。


「!」


最後の1匹が弓を奪ってそのまま噛み砕いた。

そこに一瞬気をとられた隙に薙刀で両断、蠢く2つの身体を扇を両手にし舞を踏んで一気に浄化した。


「ずっと頑張ってきたのに!」

「…そうだね」


川の水が渦になって頭を垂れた。

そのまま私を再度飲み込もうとしてくるのを、かわしてその中心を薙刀で切り捨てた。

鎮静の守護守さまの力を使って再び水を清らかな水面に戻す。


「次代の王としてきちんと振る舞ったのに!」

「そうだね」


水の柱がいくつもあがる。

退路を塞いだ上で私の真下から勢いよく柱が上がる。


「難升米は臺與に幸せになってほしかったのよ」

「そんなわけない!いつも厳しくて!会えたって…何も…!」


手に持つ扇を2柄さらに遠くに投げた。

水柱に飲まれれば、私を絞め殺そうと強く圧迫してくる。

柱の隙間を矢と扇がすり抜けながら彼女に接近するもかわされ叩き落とされる。

それでもまだ完全に落ちない、まだ飛べる。

刀を手にして私を覆う水の柱を切り落とした…この柱に長く飲まれていては厳しい。


「…っ…言わなかったからね…臺與がわからないのも無理はないよ」

「偉そうに何を!」


後追いで放った扇と私で囲んだ範囲に簡易的な結界を作りその中だけ炎の柱をあげた。

水は蒸発しあたりは柱が消え霧が立ち込める。

途端、霧が黒く染まり、複数纏まり水の固まりができた。

それが私に向かって投擲される。


「だから今言葉にしてるの。難升米は臺與が大切だった。だからあの時、一緒に呪を浄化しようとしたのよ」

「違う!」


扇を、2柄手元に戻す。

その最中、水の固まりをいくつか浄化して戻らせる。

進路に桜の木を生やすが水の固まりは刺を出し勢いよく桜の木を破壊して進んでくる。

倒木される桜の木から枝を発出させて水の固まりに刺して相殺した。

残った固まりを陰陽道の術式で移動しつつ手に持つ扇で浄化する。


「誰も私を見てくれない!兄様でさえ!」

「難升米は見てたよ」

「違う!」

「だから1番に臺與のとこに来たんじゃない」


刀に再度力をこめて投擲した。

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