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53話 ぶれない自分であること。

そこにきて両隣の守護守さまが口を割った。


「俺たちはどうする?」


応えは変わらなかった。


「よければ貸してください。器として」

「もう大丈夫ですか」

「そうですね…やっぱり私、契約する守護守はやくとさくらさんだけみたいです」

「結稀さん…」


守護守は呪を浄化するために巫女に力を授ける存在だけど、私はそれだけを理由に契約するのではなく、そこに確かな信頼を置いて築いた守護守と契約したいと思う。

だから今回は器として力を授けてもらいたい。


臺與イヨ様は、ずっと苦しんでおられました」


鎮静の守護守さまはゆっくりと静かに話す。


「臺與様が多くの呪と結びつき根源となってからも傍で控えていました。元々私は彼女に仕える侍従でしたので」

「はい」


難升米ナシメの過去、彼は臺與を救うべく駆けつけた者の一人だった。

彼もまた彼女の浄化をすべく尽力し、彼女と共に地下へおりていき、おそらくそこで存在が変化したのだろう。

憂いを帯び瞳を伏せている姿は難升米の記憶の中では見たことがない…今の彼がこうした顔をするのは守護守になってからか。


「臺與様を…苦しみから解放して頂けますか」


沈静の守護守という名をもってしても、その力で臺與の呪を静めることは出来なかった。

それにその役目は私しかいない。

私にしかできないことだ。

たとえ彼女を慕う多くの者が同じことを試みようとも、それを成し得ることは譲れない。


「私はやれるだけのことをするだけです。それが沈静の守護守さまが望む結果かはわかりません」

「……そうですね」

「ただ、まぁ…」

「…?」

「難升米から言わせるなら、“お任せください”ってとこですかね」


それだけ巫女として力がある人だったし、元よりそのつもりであの時、臺與に向かっていってたのだから。

私は難升米ではないから、彼女の考える臺與を救うことをできるかはわからない。

ただ臺與を救う、止めるために動こうという気持ちは難升米と同じ。

業を解消しようというわけじゃなく、たまたま業と自分のやろうとしたことが合致しただけだから、難升米がこれを聞いたら笑うかもしれない。


「貴方は難升米と似てるようで全然違いますね」

「はは、そうですね」

「いいじゃないか!」


楽しそうに笑うのは炎の守護守さまだった。


「先代の記憶を見ても揺るがないとは中々男前だ!」

「あ、ありがとうございます?」


女性に男前は褒め言葉なのだろうか…まま思ったことを言ってるようだし素直にお礼を伝えた。

炎の守護守さまは一瞬遠くを見たけれど、次にいつもの調子でうんうん頷いて明るく発する。


「俺も見習おう」

「え、何をです?」


炎の守護守さまは二人目だと言っていた。

どうやらそこで一人目の記憶を受け継いだらしいけど、その影響で自分が自分である確信がなかったらしい。


「先代は災厄とも沈静ともよく知る仲だったからな…災厄に頼まれたとはいえ、先代の気持ちに引きずられて君を助けていたのではと思っていたんだ」


炎の守護守になってやくと死闘を繰り広げていたのも、自分であることを証明したかったからかもしれないと。


「君の顔を見て理解したぞ!俺が俺と決めるのは俺次第だと!」

「…そう、ですか」


先代を知らないからわからないけど、この人はやくと同じで唯一無二な気がする。

最も二人目として悩むのは守護守ならではだろうし、私も難升米の影響を考えないわけではなかったから、同じような立場であれば通る道なのかもしれない。


「結稀さん」

「はい」

「私たちの力、受け取ってください」

「はい、お願いします」


力の本流を感じながら瞳を閉じた。

炎龍を身に取り込んだ時とは違う。

三人が少し距離を置いたところに立ち、その三人を繋ぐ形で円陣が大地に刻まれ光る。

その中心に私が立ち、そこに力が集まっていく。


私は器だ。

その事実は変えられないし、守護守として永劫を生きるつもりもない。

けど器であることが不幸であることには決して繋がらない。

むしろ器だからこそ、守護守さまたちの力を授かりやりたいと思うことを試みることができる。


「……ありがとうございます」

「結稀さん、私は共に行けません」

「大丈夫です、さくらさん。私一人で行くつもりでしたからから」


これは私が勝手にやりたいことをしにいくだけ。

それに臺與は外野なく私とだけ対面したいだろう。


「俺達も行かなくていいのか?」

「はい、ご自身の社で待っててください」

「しかし、器の巫女」

「沈静の守護守さまの気持ちはわかりますが、ここは私に譲ってもらえませんか?」


黙る沈静の守護守さまに葛藤が見えた。

薄く揺れる瞳には臺與の安否と彼女自身の幸いを想うのが見て取れる。


「………分かりました。お二人の話が終わった頃に参ります」

「はい、ありがとうございます」


さて全てを腹の底におさめて迎えに行くとしよう。

きっと彼女は泣いている。

私がやくを探して富士の木々の間を走りつづけたように。


「臺與はどこにいるかわかりますか?」

「今は天安河原にいます」

「わかりました。炎の守護守さま」

「おう、任せろ!」


さくらさんに向き直る。

ゆっくり瞼を閉じ、一息ついてからゆっくり目を開け、いつも通り笑ってさくらさんを見つめた。


「いってきます」

「……はい、お気をつけて」

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