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50話 そして来世に至る。

「許さない!」

「!」


黒い霧が疾風になって私を食らった。

手が離れ吹き飛ばされると、日向が私を抱きとめた。


難升米ナシメ!」

「やだ!日向ヒムカ兄様を好きなのは私!」

臺與イヨ様!」


こちらに向かってくる彼女を呼ぶ多くの声が聞こえた。

巫女たちだ。

臺與に仕えていた側近や侍従の多くもやって来た。

そして彼女を救うべく浄化の祝詞を献上し始める。

彼女を囲い、浄化の円陣を浮かび上がらせて。


「臺與…」

「違う難升米違うの、難升米も大事なのでも好きなの!」

「…あぁ」


愛と憎しみの間で戦っている。

どこまでも孤独な臺與…小さい頃から淋しがり屋でよく泣く子だった。

だからなるたけ傍にいて1人じゃないことを伝え続けてきたけど。


「足りなかったかな…」


今更悔やんだところで彼女が浄化されるわけではないのに。

掠れる視界の中、彼女を見ると手で顔負い苦しんで叫んでいた。


「やめて!」

「臺與様!」


浄化に対して苦しみを感じ始めたということは、呪との結びつきが深くなってきているということ。

呪が臺與の叫びに呼応して周囲の巫女たちを跳ね飛ばす。

その力で命を落とすものも現れた。

巫女たちは事態を素早く察知し、地下に結界を作り、そこに臺與を取り込もうとしている。


「日向兄様!いや!」

「臺與様、私がおります!」


臺與が特に気に入っていた侍従が彼女に触れ弾かれる。

血を流しながらも共に地下へおりていくあの侍従もまた臺與の呪を浴びているようだった。

自身の浄化をしているのに、呪を強く感じるのは気のせいではない。

あの者もこのままだと変質してしまうだろう。


「臺與様!」


多くの声が彼女を呼ぶ。

臺與、貴方きちんと愛されてるじゃない…国の民に信頼だっておかれてる。

命を懸けて臺與を浄化しようと動いて、地下に結界を設けてそこで浄化を試みるなんて…こんな大きな力の行使を私は見た事がない。

臺與だけの為に多くが動いている。


「臺與…」


動けなかった…血が流れていくのを感じる。

巫女として多少の延命術は使ってきたが、さすがに甦ることはできないだろう。

それは卑弥呼様達の特権だから。


「難升米」


呼ばれ、抱きとめてくれた日向に向き直る。


「日向、お願いがあるの」

「…なんだ」

「私が臺與を止める。だからどうか待っていてほしい」


私が言う事を彼は分かっていた。

納得がいかないという顔をしている。


「……傲慢だな」

「ええ、私勝手だから」

「…はっ、お前はもう逝くというのに」

「そうね」


今生と別れを告げるのに、これからの約束をしようなんて私もなかなか図太くなった。

どこかの誰かに似たようだ。


「いつ戻る」

「いつかしらね…少し時間がかかるかもしれないわ」


口の中に血が混じる。

自身の中にあるものが薄れていく。

時間がない。

臺與は地下へ潜っていって、もう見えなくなった。

それでもまだ叫んでいる。そして彼女を呼ぶ声もまだ多くある。


「日向」


日向を再度見上げる。


「日向も臺與も好きなの…どちらかなんて選べない」

「知っている」


本来はそれぞれに向いている愛の感情は違うけど、どちらも大切であることに変わりはなかった。

恋慕の情と家族の情。

どちらも私には手放せない。


「結びつきをそのまま根源を打ち破れば、臺與は呪に感情を引きずられて苦しみの中死んでしまう……それだけは私が嫌なのよ…だから根源から離してみせる」

「なかなかのものを自分に課すな」

「えぇ…ねえ、だからまだ根源は消さないで。私が臺與をどうにかするから」


呪が襲うこの最中、日向が新しい神託を授かったことはなんとなく分かっていた。

彼の出生も加味すれば、天鈿女命アマノウズメノミコト様が何をお求めになるかも。

その証拠に彼の存在が変化している。

人としての肉体という力の源を元に新しく再構成された存在だ。


「日向は何になったの?」

「さあな。人でもなく神でもない…霊体でもないな」

「…新しい名前でもつけようか?」

「何を言う」

「………そうね、守護守しゅごもり、なんてどうかしら?」


笑いかけると彼は成程と面白そうにしていた。

よかった、思っていた以上にこの状況を受け入れてくれているよう。

最期ぐらい私のよく見るいつもの姿を見て終わりたい。それが叶いそうだ。


「私達を守ってくれる存在。神様よりも身近で霊体よりもよく見える」

「面白い」


ならばその名を使ってやろう、と彼は不遜に笑った。


「……そうね…次、私が生まれたら助けてあげてね」

「それは約束出来んな。俺が見極め決める事だ」

「ふふ、新しい私は日向とうまくやっていけるかしらね」

「………」

「わかるのよ、私の心を引き継がない、新しくきちんと歩いていける新しい私…いえ、もう私じゃないのね。まったく別人。なのに私の業を背負うのよ」

「迷惑だな」

「はは、そうね。大変だろうし」


たくさんの苦難を乗り越える姿が見える。

大丈夫、次の私の業を背負っても成し得る姿があるなら。

本当なら今ここで私自身が解消すべきで、それを課してしまうのはなかなか骨の折れる事だけど、それでも彼女は受け入れ進んでくれる。

彼には話さないけど、きっとお互い出会える事が出来たら恋敵になるわね。

最も、彼女からすれば私が好きな人と、彼女が好きな人は存在が違う認識になるみたいだけど。


「……なるたけ早く来い。遅れれば遅れるだけ臺與が苦しむだけだ」

「精々足掻いてみるわ……………じゃあね、日向」

「ああ」

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