5話 月映結稀は巫女である。
私は巫女だ。
家系からずっと守護守さまに仕えてきた。
面白いことに生まれは東京、幼少期の数年はここ天神、そして学びの期間にあがる頃からは富士にいた。
守護守とは、仏さまや神さまでもなく精霊でもない、人とも異なる存在。
私達巫女以外は見えない存在。
ここ日本において、私達巫女は独自のネットワークをもち、あらゆる守護守さまに全国を周り仕える。
私はまだまだ半ば…学びの期間中だ。
この富士の結界の中、学びの期間中契約した守護守さまに力を授け頂きながら、一人前になるのを今か今かと待っていた。
「来たか」
「あ」
「ご無事でなによりです」
「桜」
桜の守護守さま。
畏まった場ではフルでそう呼ぶけど、私はついつい略したり、さんづけで呼んでしまう。
隣の傍若無人は置いておいて、目の前の美しい守護守さまにお礼を伝えた。
「さくらさん…ありがとうございます」
「いいえ、現在の貴方を守護しているのは私です。お気になさらず」
着物の綺麗な女性。
学びの期間とはいえ、巫女である以上守護守さまと契約し守護を授かる。
もちろん相応にお仕えした上で恩恵を授かるのだけど。
「私は全国に咲いております故、まだまだ貴方のお力になれましょう」
あぁ、もう本当優しくて美しい…隣とは大違いだ。
複数守護守さまから力を授かるのはなくはないから、私がやくと契約したからといってさくらさんと解消することはない。
さくらさんは多くの巫女に恩恵を授けているし…一方で、やくは現在誰とも契約してなかったはずだ。
今回了承を頂けたのは奇跡なのかもしれない。
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巫女である私が学びの期間にあがる頃から、目の前の守護守さまの元でお世話になっていた。
富士山という強力な結界と力の元で私は巫女としての力を養い、この世の巫女としての役割を教えられてきた。
もうすぐ学びの期間を卒業して新たに全国をまわって各地の守護守さまに仕え力を高めようという時。
自身の力の高まりも実感していた私にある悪意の話が来たのは3日前。
私がここに来る前にいた場所、天神でとある巫女が怪しい行動をとっているという内容だった。
私達は守護守さまに仕えることで、守護守さまから御贔屓を頂ける。
もちろん、それに見合ったお仕えをして守護守さまに目をかけてもらって初めて成し得る話だけど、その守護守さまに呪をかけようとした巫女がいたと。
呪とは人しか持たないもの。
時には破壊を、時には争いを、時には死を…まぁつまるとこ人間の中であまり良い印象を抱かない不の感情といったところのものが私達巫女たちだけが見える闇として現れる。
巫女の力がない一般的な人は極自然に呪を生み出し育ててしまうから、私達は守護守さまの力を借りてそれらを浄化したり変換したりする。
その呪を悪用したら、人をたくさん死なすこともできるし、世界を傾かせることも簡単…人は簡単に絶滅するだろう。
けど、それをしないで私達の使命である人間たちの呪の浄化をきちんと修業で学び、私達巫女が間違った方向へ行かないようなシステムになっていたはずだ。
だから、呪を守護守さまに使おうなどと考えてる巫女がいるなんて思いも寄らなかった。
私はそこへ行くのに、それなりの理由があった。
全国への移動が可能なさくらさんに無理行って天神に行かせてもらった。
全国に存在する桜がある限り、桜の守護守さま…さくらさんはどこにでも行ける。
こと日本においては力の上位に立つ守護守さまだ。
そこで久しぶりに再会したあの守護守さまはなにも変わってなかった。
『結稀か』
『ご、ご無沙汰しております。災厄の守護守さ』
『畏まるな』
『は、はい……あの、狙われてるの…わかってる?』
『当然だ。俺を狙おうなど不敬極まりない。俺に敵うわけでもないのにな』
『そう…』
『まあ良い。暇潰しぐらいにはなろう』
厚顔不遜、傍若無人。
狙われているのにこの余裕さときたら。
暗い気持ちに傾いていたのが少し浮上する。
この守護守さまがいるとなんでも出来る気がしてくるから不思議なものだ…それが守護守の中で最も力が強く、現存する守護守は誰も敵わないと言われる所以なのかもしれない。