43話 対 臺與 後編
「ほら、痛いわよ!」
いつの間にか私が炎で浄化したはずの薙刀を持っていた。
あれなら完全に浄化できたと思っていたのに、あっさりと呪に黒く染まり直している。
薙刀は邪魔だ、引き離すしかない。
薙刀を抱えたまま、破魔矢を射る。
炎を纏わせた矢は最中に分裂して複数になったことに加え、炎を纏って鳥になる。
「鬱陶しいわね!」
臺與さまが怒り、薙刀を振り回せば、空高く炎の鳥は舞い上がる。
それにさらに苛立ちを見せた臺與さまが薙刀を空へ投げた。
先程と同じように薙刀が炎の鳥を追いかける。
鼻を鳴らして、こちらへ居直る臺與さまの瞳が少しだけ変わる。
「なによ」
桜の根だ。
さくらさんが最初に臺與さまを拘束した時の簡易結界がまだ生きていたから、その力をそのまま取り込んで、生きている根を使って臺與さまを拘束した。
同時に駆けだした私を視界から一瞬外した。
死角から迫り、薙刀を振り下ろすもあっさり片手で捕らえられた。
「腹立つ」
薙刀が軋む。
折れも欠けもしないけど、あまり長く掴まれてはいけない。
私は急いで隠していた矢を出し、そのまま臺與さまの胸に刺した。
瞬間燃え広がる。
「…鬱陶しい!」
緩んだ隙に薙刀を持って離れる。
次に地下に貯まった水を使った。
臺與さまの足をすくい動きを封じるつもりだった。
けど、臺與さまは足をとられるどころか、その足は水の上にあり平然としている。
「この私に水もので向かうなんて愚かね!」
それでもいい。
私の足元から稲光を放つ。
水に当たればそのまま広範囲で雷が大地を染める。
「兄様の力…」
雷のよって燃え焦げた彼女の表情は読めないけど、声音は怒りをはらんでいた。
再度迫る。
動こうと足を踏み出した臺與さまは一瞬足が重くなって動きが硬くなった。
水で柔らかくなった土に足をとられている。
もちろん術式を行使して動けないよう拘束しているのだけど。
ここで切りこむ。
「…浅い」
「あんた程度に傷なんてつくわけない!」
天を仰ぐ臺與さまはそこで気づいてしまった。
でももう間に合わない。
「なによ」
薙刀が降って来る。
炎の矢によって浄化された薙刀が炎の鳥に先導されて。
彼女の身体を、胸のあたりから真っ直ぐに切り裂いた。
「ぐ…」
そこに来てやっと見ることが出来た。
切り開かれた胸の奥、呪が見える。
その呪は見たことがなかった。
四角い形に鉱石のような硬さと煌めきが見て取れる…掌に収まる程度の大きさなのに、その実今まで見た中で1番の強さを感じた。
「こんな傷」
「!」
駄目だと思って、思わず手を伸ばし呪を掴んだ。
傷が塞がれば、浄化の1歩に立てても先に進める方法が見えなかった。
1番いいのは、私がこの手で呪を直接浄化することだった。
普段ならやらない。
けど、今は条件が整った。
「なにする気!?」
舞の足運びは大きな浄化の印を踏んだ。
今さっき完了した浄化の印、姉兄の時と同じように灯が灯る。
同時、踏んだ印の中で臺與さまを拘束する術式を行使する。
「…こいつ」
動けないはずの腕が振り上げられ殴られる。
なんとか踏ん張って手を離さずに済んだ。
ここまで耐えれば大丈夫。
「なに!?」
灯が消えないのがいい証拠だ。
呪をより強力に浄化できる舞、神器は薙刀でずっと逃げ果せながら3周印を踏んだ。
力は3倍、そこにやくから授かった力、炎の守護守さまの力、さくらさんの残った力を織り交ぜている。
しかも私を媒介に直接手で触れ叩き込んでるわけだから、浄化されないわけがない。
「!」
なのに浄化の力が押し戻される。
指の先に呪を感じて、祖父母よりも姉兄よりも深く濃い呪であることが初めてわかる。
ここで手を放したらいけない気がした。
浄化とこの結晶体の呪へつながる道筋は私が触れることで出来上がった。
灯りが灯り、すでに舞は浄化の始まりに立っているから、後は舞を続けるだけでも浄化へ辿り着けるだろう。
なのになぜかざわざわする。
「邪魔!」
何度も食らうわけにはいかない彼女の素手の攻撃をぎりぎりで避ける。
けどその隙に手が離れ距離をとられた。
胸の傷が塞がり、呪が見えなくなる。
「やく!」
呼べば彼の力を感じ、そのまま足取りは舞を続ける形で臺與さまに迫る。
破魔の矢を放ち、やくの力を使った稲光と先ほどまで飛んでいた炎の矢を戻して、祖父母の時のように両者から追われる形をとる。
「こんなもの!」
炎の矢を掴み、そのまま臺與さまの呪によってかき消される。
その隙にやくの矢が足に刺さり、大地に縫い止めた。
「そんな兄様…」
やく本人が直接矢を放ったわけでもないのに、臺與さまは驚いたように瞠目している。
彼女はさっきからやくの力を使ったものに限って反応が違う。
それでも今がチャンスだ。
足元に刺さった矢から黒い槍が溢れ、彼女の前身を貫いた。
そこから浄化の道筋として繋いで、一度に3周分の浄化の力を注ぐ。
「!」
やっとその成果が現れる。
じわりじわりと霧状の黒色が彼女の身体から出てきている。
呪が粒子になっている…浄化が成功している。
灯は消えていない、このままなら大丈夫だ。
「ああぁ…」
呪が浄化されていく臺與さまを見ると母の身体ごと粒子となっていた。
なぜだろう、どことなくあの時と同じ気持ちを感じている。
祖父母の時か姉兄の時か…身体は母だから、そう感じるのかもしれない。
「ふふ…」
臺與さまの様子が変わる。
呪が浄化する中で天を仰ぎ笑いはじめる。
じわりと悪寒が走った。
「許さない!」




