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42話 対 臺與 前編

「!」


薙刀同士がぶつかった。

首を狙ってきたものを卑弥呼さまの薙刀で庇い、同時に術式を行使する。

彼女を拘束するための縄だ。


日向(ヒムカ)兄様の力を勝手に使うな!」

「!」


あっさり縄が壊される。

さくらさんがやっていたように舞の足取りを踏みつつ、臺與さまの接近を防ごう。

呪が見えない以上、近づくのは危険…母の身体でもあるから傷つけもしたくない。

最もさっきのやくの薙刀の投擲を見る限り傷はつかないのは明白なのだけど。 


なにより今一番困るのは呪が見えないこと。

見えて認識できないと浄化をするという行為に入れない。

祖父母のように内側にあることがわかれば、神器を使って呪を浄化することもできるだろう。

呪のないところを切れば神器はどこにでもある武器の役目を果たして肉を切るだけ…これでは意味がない。


巫女同士の戦いとも違う。

浄化すべきものが見えるまであぶり出すしかない。

足捌きは浄化の舞、神器はこのまま使って対巫女と同じ戦い方…動きを止める形で動こう。


「日向兄様の力を奪って!」

「いえ、奪っては、」

「煩い!」


駄目だ、契約した上で力を授かっていることは臺與さまも分かっているはずだし、今さっきに彼女自身もうそう言ってたのに、どうしてか私が悪者であることに変換されてしまう。

真っ直ぐな殺意が消えることがない状況、拘束も難しいなら舞を続けるしかないだろう。


呪いに浸食され黒く染まった薙刀が私に向かって投擲される。

真っ直ぐ刃を向けて飛んでくる薙刀を左に避けて距離をとろうした時。


「!」


ぐんと薙刀が曲がった。

そのまま刃を私に向けたまま勢いを殺さずに追跡される。

地を爆ぜて目くらましをしても、薙刀は迷いもなく私に辿り着いてくる。


「…っ」


たまらず手に持つ薙刀で返すが、硬さは変わらない。

ぐにゃぐにゃ曲がりながら、速度を落とさず私を追いかけてくる。


「え」


背後に臺與さまが迫っていた。

挟まれた。

急いで上へ飛んで逃げるが、下を見た時には臺與さまはいなかった。

薙刀だけが下から同じように飛んでくる。


「桜の守護守の方がマシだわ」

「!」


やはり臺與さまは私の頭上にいた。

再度の挟み撃ち。

そこは分かっていたので、術式をすでに発動していた。

やくの力を使った雷を臺與さまに落とす。

私は自身の薙刀で追跡してくる薙刀を叩き落として、大地に逃げ果せる。


臺與さまは雷を避けなかった。


「日向兄様の力…」


小さく呟くその様子からするに、やくの力がある術式は避ける気がないということだろうか。

それとも再度驚いて動けなかった…いやさすがに避けられないということもないはずだ。

どちらにしろ、私の術式で臺與さまは傷1つついていなかった。

雷による火傷は一瞬で元通りに回復する。


「腹立つ…」

「……」


私がやくの力を使えば使うだけ、臺與さまの気持ちを逆撫でるのだろう。

さくらさんが致命傷を負っている以上、その力の授かりはない。


「そしたら…炎か」


薙刀に炎の力をこめる。


臺與さまはその場にとどまっていた。

怒りで体を震わせてはいたけど、動いていないのはチャンスだ。


さらに雷を落とすと、次はそれを素手で掴んだ。

掴めるような実体を伴うものじゃないのに掴めているということは臺與さまの認識が雷は手に触れられるものということか。

丁度良かった。

雷を炎に変換する。

途端、臺與さまの身体を炎が飲み込み姿が見えなくなる強さで炎柱があがる。


「よし」


足取りは舞を続けたまま、未だ曲がりくねって私を追いかける薙刀に相対する。

今は炎の力が充分に浸透しているから出来るはずだ。

何度か刃を交えて、受けて抑え込んだところに、術式を使い網を張る。

そこに臺與さまの薙刀を投擲して、網に引っ掛ける。

素早く網の拘束を切っていく薙刀に駆けて、上から自身の薙刀を振り下ろした。


「!」


思っていた通り、炎の力を宿した薙刀は臺與さまの薙刀を真っ二つに切り落とした。

軽い音を鳴らして地に沈む薙刀は、炎にうっすら包まれ呪が浄化されていく。

炎が静まることには元の薙刀に戻るだろう。


ほっと一息、そのまま臺與さまへ向きなおろうと振り返ると、炎を纏ったままの臺與さまが目の前にいた。

その存在を視認した時にはもう、彼女の燃える手が私のお腹に迫っていた。

避けられない。


「生意気」


ただ殴られただけだ。

それなのに何かの鈍器で叩かれたような衝撃だった。

胃の中が圧迫されると同時に、受け身をとれないまま吹っ飛んでしまう。

八岐大蛇よりも硬くて重いなんて。

見えない呪はどれだけ彼女を蝕んでいるのだろう。


すぐに膝を立たせて相対するが、臺與さまは地下の天井を見上げながら笑っていた。

術式を特段行使してもいないのに、ここまで速く強いのは呪の力で底上げしているからなのか。

舞は中断してしまったけど、まだ有効だ…引き続き舞えば彼女の呪が見えるはずだ。


「あは!じっくり嬲って殺すのもいいわね!」

「……っ」

「結稀」

「やく」


見下ろすやくに表情はない。

ただどうするかだけはきかれてる気がした。


「…まだやれるから」

「そうか」


変わらぬ殺意を目の前にして、私は再度駆けた。

まだ足掻く。

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