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40話 桜の守護守 対 臺與

「遺言は終わり?」


拘束されていた臺與さまはあっさりそれを解いて身軽になる。

わざと捕まっていたようだった。


「面白い事言うかなって楽しみにしてたのに」

「……」

「私の目の前であれを殺してくれたら楽しくて踊っちゃうかも」

「……」


さくらさんは一切言葉を発せず臺與さまに迫る。

僅かに目を細めた臺與さまはぐっと地を押さえ翔けた。

呪に蝕まれて人の重さを超えてるのに、祖父母より速く一瞬でさくらさんの目の前に現れた。


「!」

「最近の巫女はつまらないわね」


その手がさくらさんの胸を貫いた。

けれど一瞬でさくらさんの体は桜の花に変わる。

次に現れたのは臺與さまの右手側、彼女の手によって首から飛ばされるけどそれもまた花に変わる。

背後に現れたさくらさんを追跡して手を振ろうとした臺與さまの首から血が噴いた。

その鮮血は呪に染まっていない…今まで呪に飲まれた者たちと明らかに違った。


「つまらない」

「!」


呪に染まった薙刀を手にした臺與さまはそれを振り上げ回し、周囲にいたさくらさんの分身を一度に消し去った。

さくらさんが網を被せる…姉兄の呪を閉じ込めてた強力な網だ。

一瞬の間があったものの臺與さまが網を破って起き上がる。

緩慢な動きなのに隙がない。


起き上がった彼女の背後に迫っていたのは桜の花びらでできた龍だった。

臺與さまが向き直ろうすると薙刀を持つ手が止まる。

破られた網を使って両手を縛り、それを手にしたさくらさんが何かを呟いた。

網を伝い、臺與さまの胸から上にかけて炎があがる。

立て続けに桜の龍が牙を向け臺與さまを飲み込んだ。

さくらさんの戦い方はとても綺麗だ。足の運びだろうか。


「桜の足運びは舞だな」

「舞?」

「浄化の舞だ」


臺與さまを飲み込んだ龍は結界の中、限りある空へ登っていく。

と、龍は真ん中から爆発し、桜の花びらが四散する。


「あは!この私に龍を向けるなんて!」


甲高く笑って花びらと煙の中から無傷で現れる。

こんな状況下で笑いつづけるなんて不気味だ。

炎の守護守さまのように戦闘狂でもなく、相手であるさくらさんが本気で向かっていて、それに応えているはずなのにどこかが噛み合ってない。

そんな楽しそうに笑う臺與さまに迫るさくらさんは多くの分身を共にし次の術式に入っていた。


「残念」

「!」


多くのさくらさんの中の一人の目の前に現れた臺與さまは口元を歪ませてまだ笑っている。

そして瞬時に顔を変えた。

私の知らない人だ。

間近でそれを見たさくらさんの肩が鳴る…動揺を感じた。


「へえ!」

「……」


さくらさんは躊躇わず、顔を変えた臺與さまの胸元を懐刀で貫いた。

破魔の力を宿す富士の刀の一つ。

そして刀で貫いた穴から桜の枝が次々と生えて臺與さまを拘束する。


「躊躇わないわね」

「……とうに超えましたので」


さくらさんが小さく呟く。


「けど残念」

「!」


何をしたかまったく見えなかった。

けどさくらさんは背中を右肩から腰まで深く切り付けられいた。

臺與さまがやったと分かるのに、いつ何をしたかわからないなんて。


「飽きちゃった」

「……っ」

「だからもういらない」


桜の花が舞い、さくらさんが見えなくなるも、臺與さまは目元だけつまらなそうに淀み、口元を歪ませ笑って、薙刀を放り投げた。

薙刀は真っ直ぐ落ちて見えなくなり、桜の花びらで結界内が満たされる。

花びらが舞い、おさまりつつある中で、さくらさんが見えた。

臺與さまの薙刀が背中から刺さり、膝を折るさくらさんが。


「最期くらい楽しませてね」

「さくらさん!」


咄嗟だった。

あのまま臺與さまの次の手がきたらさくらさんが危うい。

やくの力を借りてさくらさんとの間に土の壁を作った。


日向(ヒムカ)兄様の力…」


よくわからないけど臺與さまが動きを止めてくれた。

その間にさくらさんがこちらへ戻って来てくれた。


「さくらさん…!」

「……結稀さん」

「桜、下がっていろ」

「しかし、」

「動けまい」


やくは薙刀をさくらさんから抜いて、それをそのまま土の壁へ投擲する。

壁は崩れそのまま薙刀は臺與さまの額に刺さった。

けどそれが致命傷になるはずもなく、ぼんやり壁のあった場所を見つめたまま平然としている。


「……腹立つ」

「え…」

「日向兄様と契約してるわけ?」

「あの、」

「本当いつも図々しい…だから腹が立つのよ!」


声という音が風になって襲ってくる。

術式行使し守りに入っても切り刻まれ、頬から血が流れた。

ぎりぎりで避けることができたけど、想像以上の力。


「やっぱり回りくどいことしないで、すぐに殺すべきだったわ」

「え…」

「まぁこの身体が手に入ったからそこだけはよかったけど」


その言葉のニュアンスだけでわかってしまう。

私がここに至ることになった過程の人たち。


「まさか…祖父母が言ってたのは臺與さま?」


器と守護守のことも、呪のことも、それこそ延命術もイタコではなく臺與さまから知ることができてしまう。

この人だ、母の姿をした最古の巫女の一人。

臺與さまは機嫌悪そうに吐き捨てる。


「なに、あいつら喋っちゃったの?」


やっと、やっと大元へたどり着いた。

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