38話 既視感。
「あれ?」
あたり一面光にあふれている。
姉兄と会った洞窟の泉に近い。
天鈿女命様は見たところいない…いや違う。
「いらっしゃる…」
卑弥呼さまの言う通り、こちらにいらしたのはわかるけど、形として見えはしなかった。
話す事も出来ない。
代わりに目の前に見える景色。
秋葉山の祖父母と同じように過去が見えた。
「ふん、つまらんものを見せて何になる」
「やく」
隣にやくが立つ。
嫌そうにしているけど、止めるものではないということは、一応彼の中で良しとされるものか。
きっと私にとってはつまらないものじゃないんだろう。
「…あ、やくだ」
「……」
見た目は変わらないが、着てるものが違う。
場所も見たことあるような気がするのは、今立つこの場所だから…邪馬台国だ。
邪馬台国、側には卑弥呼さま。
卑弥呼さまも姿が違う…話にあった通り弟として過ごしている。
過去を見ている…祖父母の時も見たけど、どうしてこんなにも私に過去を見せたがるのか。
そこに意味はあるのか…今回なんて随分時代を遡っている…またどうしてこの時代のことを?
やくは思ってた以上に卑弥呼としてよりよく国を治めていた。
見える邪馬台国は物も豊かで、人々は平穏な心であることが見てとれる。
争いの多い世とは無縁の場所、それが邪馬台国だ。
しかも邪馬台国は卑弥呼さまが行使した結界の術式に守られていた…なんて規模の結界を常時維持し続けているの。
しかも通常の政や祭事は同時にこなしているのだから、力の持ちようが全然違う。
卑弥呼さまの言う通り、彼はしょっちゅう邪馬台国の外へ出て、出向くところは争いばかりだった。
この頃から彼は今私たちが当たり前のように使っている術式を使いこなしていた。
挙げ句、その時代になかっただろう神器も所持している。
これが事実なら史実はとうにひっくり返ってるだろう…だから邪馬台国ごと隠したのか。
戦場では恐れられつつも、その場が平になると感謝と尊敬が生まれていた。
やくを卑弥呼とわかる者は戦場にいない。
彼は自由に戦い、おさめて、その後他の巫女が安定を構築する。
本当にずっと争いの最中にいた。
となれば、やはり人々の認識が変わっていくのも有り得なくはないのだろう。
行く場所行く場所でやくを知らない者が減り、ただただ争いすなわち彼、彼すなわち恐ろしい存在であることだけが伝わっている。
それをやくは理解していたけど、誤解を解くことはしなかった。
ただそのままにし、争いだけを終わらせるだけだった。
「やくは、」
「……」
「神託を受けてかなえるつもりだったんだね」
「……」
「やくがきちんと王様して、国の人のことを考えて、それに倭国を統一して争いをなくすことも本当はできたよね」
「ああ、そうだな」
争いの中、ついに認識が変わり呪が生まれた。
黒く形を成して大きくなっていく呪は邪馬台国に狙いを定め、飲み込もうと進んでくる。
騒がしくなってきたところに、やくが国の民を救うべく動いているのが見える。
お前も行けと言われるけど、それを拒んだ。大事な人の元へ行くと言って振り払って。
本当はやくの隣で支え、自分の出来得る限り助力したかったけど、今自分がやることは違うと思って、やろうと思うことの為に彼から離れた。
「あれ、なんだろう…?」
知っていると思ってしまった。
何かの媒体越しではなくて、この目で見てきたという確信がある。
どうしてかはわからない。
この既視感は学んだからくるもの…いや今見てる史実は学びの範囲外だ。
別にある。
「それは自身で決めろ」
「んん?」
何を、と問おうとして、やくの目線が私の手元を見てきたから言葉を飲みこむ。
自分の手元なのにそれを見て軽く驚いた。
いつの間にか齎されてる。
「…これ」
光の中、いつの間にか手元に扇が4柄授けられていた。
言葉で表せないレベルの破魔の力が宿っている…巫女の中でも授かったことがある者がいるだろうか。
これ、何もせずに使ったらどんな術式も跳ね返せる。
学びで手にする神器なんて交えた瞬間に粉々になるだろう。
「丁度いい。貰っておけ」
「やく、言い方…」
さすがにちょっと諫めておこうかと言葉を続けようとした時、足元から大きく縦に揺れた。
胃が上下するとともに、急にやって来た何かに対しての気持ち悪さが湧き出てくる。
この感覚は呪だ。
「!」
「結稀さん!」
「さくらさん!」
光がすっと消えて、玉座の前に戻る。
気配が完全に消えたようだから、神様は去られたということだろう。
同時に大きい呪…強い力の奔流を感じる。
「…?」
地響きと同時に笑い声が聞こえた。
地下だとより響く、そして地響きと共鳴して耳鳴りが起こる。
声の主は女性、どこかで聞いたことあるような…。
「来たのね」
卑弥呼さまが眉を寄せ1つ静かに瞬きをして私たちの向こうを捉えた。
それに促されて振り向くと1人の女性がこちらにゆっくり歩いてくる。
笑い声の主はこの人…未だ笑い続けながらこちらに向かってくる。
「え…?」
地響きが続く中、やっと顔を視認できて言葉を失う。
聴きなれた声、思い出せる記憶。
「お母、さん…?」




