37話 卑弥呼、天鈿女命様を呼び出す。
思えば、叔母は後ろにいると言っていたし、イタコは誑かされたと言っていた。
何か外部からの要因で祖父母が器巫女と守護守について知り得たのでは。
「祖父母に管理者の経験は?」
「ありません」
「どこから器のことを」
「んーそうねえ」
頬に手を当て悩む卑弥呼さま。
さっきまで存外なんでも話してくれてたのに、ここに来て話そうか悩むなんてどういうことだろうか。
「もしかして、私以外は全員知ってます?」
「んー……」
「……」
「……」
全員無言。
ちょっと、私よりはるかに長生きしてる人たちがこんなにも分かりやすくていいのだろうか。
違和感ない程度に誤魔化せるはずでしょうに。
「守護守さまは箝口令とか関係ないですよね?」
「そうだな」
「ならなんで」
「今、話すべき時ではないからだ」
珍しくやくが言い切った。
瞳が揺るがないところを見ると、これはどう足掻いても今は話してもらえないということか。
「…管理者なら知ることが出来ますか?」
「管理者の中でも選ばれた者しか知り得ません」
ということは叔母はその少ない内の1人になるのか。
ほんの一部しか教えてもらえなかったけど、器についてあれだけ話せるということは知っていて言葉を選んでいたということだ。
となると卑弥呼さまのことまで知ってる可能性もある。
何故今話せないかはさておき、今知り得た情報の中では、どうしてもやくから私に引継ぎ私が守護守となって呪を消滅させるか。
もしくは守護守にはならずにやくが災厄の守護守のままであり続けるか。
でもそれは長くやくが神託に縛られ、責務を全うしなければならない…それをよしとできるかと問われると私は助けたいと思ってしまう…何か力になりたいと。
だから私の中の選択肢は私が災厄の守護守になるかどうかか、今呪の消滅を考えるか、そして新しい選択肢を生み出すかだ。
「呪を消滅すれば…」
「待て」
「え」
「それは俺の持つ範囲だ。勝手は許さん」
こんな長い間、ほっといてる割に自分の物だと主張するのか。
なかなか勝手なことを言ってくる。
応えはわかりきってるけど、念のためきいておこう。
「呪の根絶をしたいけどいい?」
「俺が何故今の今まで呪を消さなかったか理解してから再度問うてみせろ」
「ええ…」
理由を教えてくれもしない癖に。
そう言われたら何から手を付ければいいだろう…呪を消さない理由をひたすら考えては言ってみる…それはかなりの持久戦になりそう。
「頑なよねえ」
「卑弥呼さま」
「私は全ての巫女が知ってもいい事だと思ってるのよ?けど結局貴方より偉い巫女達が悉く良しとしないのよね」
「やくが制限されるようには見えません」
「そうそう、だからいつも怯えてると思うわ~。ただこの子が言わないのは約束してるからよ」
「おい」
余計なことを言うなとばかりに止めてくる。
やくは誰かと約束して言わないままだと…なにかちょっともやっとしたけど、それは置いておこう。
これ以上は平行線だ、長引かせても同じだろう。
先代から今に至る巫女がこの事実を隠したのも致し方ないのかもしれない…人を、巫女を犠牲にして永年を生きながらせ呪の浄化という戦いの道を強いる。
それは想像できない…いつしか終わりが来るのかもしれないけど縛られたままだ。
そこに自由はない。
「卑弥呼さま…私やっぱり器の仕組みをどうにかしたいんです」
「貴方も結構粘るわね」
「……あの」
祖父母も姉兄も卑弥呼さまから言われ、内容を理解したらすぐに引き返したらしい。
自分たちでどうにかしてみせると言って。
残念ながら私はその努力をした結果として呪に飲まれた姿を見てしまった。
もっと核心的な決め手が欲しい。
このままでは私は災厄の守護守になるかという選択を決めるだけになる。
呪の消滅についてはやくがああ言うのであれば考えるしかないけど、私自身が器としてどうするかはもう少し情報が欲しいし、あってもいいと思っている。
「あ!」
「?」
卑弥呼さまが閃いたわと笑う。
おっと、あまりいい感じがしないとなると、これは嫌な予感というやつか…前にもあったな。
「天鈿女命様にきけばいいんだわ!」
「え?」
「卑弥呼はああだし、案外進言してみれば卑弥呼通り越して許して下さるかも」
「いやいや、伺える相手ではないですよ!」
「大丈夫、今丁度出雲にいらしてるから、ついでによってもらえばいいんじゃない?」
「軽々しく言ってますけど、それはダメでしょう!」
相手が相手だ。
そもそも立場のある本部の巫女ですら謁見はかなわない。
もし相見えることが可能だとしても、あちらを呼び出してきてもらうなんてのはおかしい話だ。
しかも卑弥呼さま曰く、卑弥呼さまたち以降、会ったことのある人間はいないとかどうとか…増々簡単に話に出していい方じゃない。
天鈿女命様は卑弥呼様より前の巫女の始祖だ。
そんな気軽に友達呼ぶみたいな感覚でいい相手ではない。
「あ、大丈夫みたい」
「へ?!」
卑弥呼さまの後、玉座を囲うように円陣が現れる。
それが光輝き、光の柱を作って、あたり一面光に満ちる。
「嘘でしょ…」




