34話 本来の史実。
「やくが…卑弥呼さま?」
「貴方言ってなかったの」
「言う必要もないだろう」
不服そうなやくは変わらず卑弥呼さまを見据えている。
卑弥呼さまは頬に手を当てあらあら言いながら困っている。
卑弥呼さまがここに存在してるのもさながら、やくが卑弥呼で、二人が旧知の仲のようなことも気になって…割と頭がこんがらがってくる。
「え、そしたら目の前の卑弥呼さまは?!」
「私も卑弥呼よ」
「え?!どういう?!」
「おい、これの頭がついていかんぞ」
頭を掴まれわしゃわしゃされる。
さくらさんを見ても驚いてない…ということは、やくが卑弥呼で、卑弥呼さま(女性)が邪馬台国に存在しているのは事実であり、当然のことなのか。
「私は本当の事しか言ってないわ」
「最初から分かりやすく説明してやれ」
そうなのと頷き、私を見る卑弥呼さま。
頼むから分かりやすくお願いします。
「私達双子なのよ。私が姉、この子が弟。二人で卑弥呼として邪馬台国を統治していたの」
「双子…」
「史実では私が卑弥呼だけど、祈祷や政はほとんどこの子がしていたわ」
卑弥呼さまはほぼ篭っていて姿を知るのは弟だけと聞いたことがある。
仕えていた侍女は多くいたけど、誰も部屋へ通さなかったとも。
「あ、でも当時私が弟になりすまして神殿を行き来してたの。この子は篭ったふりしてしょっちゅう外へ出てたわね」
「え?」
「祭事や政の重要なとこはおさえてもらっていたけど、ほとんど国にいなかったんじゃないかしら。争い事にこの子がでると一人で事足りるって、その力の強さ故に他国では脅威になっていたわ~面白いわよね」
ややこしい。
史実では卑弥呼さま(女性)が卑弥呼で、でも実際引きこもってたのはやくで…でも卑弥呼さまの言い方ではやくが卑弥呼だと周りは知らなかったようだ。
思えば、彼の色が金と黒だと認識してた時点で卑弥呼であることは確定的だった。
魏と金印のやり取りをしたのは卑弥呼さまだ。
災厄が黒、卑弥呼としての色を金とするなら、金と黒が彼の色と思っていた私の思考は彼が卑弥呼だと知っていた。
どこでその認識を得たのだろう…思い出せない…そもそも彼から卑弥呼だと言われたことがないのに。
「卑弥呼さまはなぜ、ここに存在してるんですか?」
「私達ちょっと人を逸脱してたみたいなの」
「逸脱…」
「巫女としての力が強すぎたみたいで。延命も結構長い間してたし、死んでもそのまま還ってきたし、肉体失ってもこの通りだし…この子は守護守になったけど、私は守護守と霊体の間みたいなものになったかしら」
卑弥呼さまは続ける。
なんことない風に行ってるけど、歴史が捏造されてることを認めてるし、そもそも巫女としてもおかしい。
「この子は4、500年は全国で暴れ回ってたわね~荒れてる時期だったのよ」
「どういう言い分だ」
「事実じゃない。今の巫女達が必死になって歴史上なかったことにしてるけれど」
「…あ、だから…」
ふと、双子が忌み子だなんだ言われるのはここが元じゃないかと考え至る。
強大な力を破壊に使い、人々に恐れられるなら双子がよくないものだと言い伝えられてもおかしくはない。
しかも巫女の間でしかその言い伝えはないわけだから尚更。
「今はある程度平穏を保っている倭国だけど、私達が生まれた時代はあちこちで争いばかりだったの」
「はい」
「だからかこの子は常に争いの中にいたわね。おかけで邪馬台国はすぐにその一帯を統治できたのもあるんだけど」
「…どうして、そんな力が」
そもそも急にそんな突出した力のある巫女が生まれるだろうか。
私が器として生まれたのは祖父母の術式によってだった。
もしかしてという思いがよぎる。
けれど卑弥呼さまはからから笑っていた。
「私達、神託を受けて生まれたから」
「え」
「天鈿女命様から倭国統一を命じられて」
「え、ちょっと、え!?」
「落ち着け」
やくから手刀を脳天にくらう。
この人、本当私の首から上に手刀落とすな。
まぁおかげで落ち着いてはいる。
神様の名前が出てきて驚いたけど。
「えと、あと何を話せば繋がるかしら?私達が卑弥呼であることは話したし、神託を受けて生まれたことも話したし…あぁ」
この子のことね、と卑弥呼さまはのんびり笑う。
そんな軽く話せることじゃない気がするのに。
「私はいくらかの延命と3度の甦りで、今の姿としてこの世に留まる形になったけど、この子はもう少し違うわね。7度ぐらい甦ったかしら…8度目の死を迎え、その後になって新しい存在になったわ」
「…まさか、守護守…」
「そう。長い争いの中で、人々から呪が生まれたの。元々その基礎になるものは概念としてあったのだけど形になってしまったのよ。その不の認識が災厄を齎して、彼自身を別の概念へと変えてしまった」
「それって…」
祖父母の言う、不の産物が争いを生むのではないということ。
呪が争いを生むんじゃない、争いが呪を生んだ。争いが不の産物を作り上げた。
災厄の色が黒であると認識していたのはここからきているのだろうか。
それでも金色と同じく私はその認識に至った経緯を覚えていない。
「天鈿女命さまはこの事態に心砕いて、呪という概念を消し去るよう新たにこの子に命じられたわ」
「でも、今も呪は残ってる」
「だから守護守と巫女の関係は解消されないのよ。この子が呪を倭国から消し去らない限り」
「……」
「私がここに存在してるのはこの子が成し得るのを見届ける為よ。それが姉として…共に神託を受けた者としての責任だと思ってるわ」
「卑弥呼さまは…やくと一緒には」
「天鈿女命さまから命じられたのはこの子だけよ。私はそこに介入できない」
手は出せない。
神託の条件を反故にすればさらなる怒りを買う。
それはやく自身に降りかかるから卑弥呼さまも手を出さないのだろう。
「この子を発端に守護守という存在が他にも生まれていったわ。それだけ多くの巫女がいたというのもあるけど」
「…巫女が」
「人々の認識が守護守を作ったということよ。守護守になれるのは巫女のように力のある者だけ」
「あの、器というのは…」
そういえば、落としていた。
やくは生前卑弥呼でその後長い延命と何度かの甦りの後、人々が生み出した不の認識により災厄の守護守になっている。
ということは、今まで学びできかされなかった守護守さまとは。
「器は次の守護守になれる者。候補者よ」




