33話 卑弥呼=
「光だ」
「結稀さん、いかがしま」
「桜」
「…何でしょう」
「黙って見ていろ」
社を背にして、湿地帯と向き合う。
光が差し込んでいる…この光を使えばいい。
ここにある全てが幻術だというのなら、私は器の力を使って術の力で作られた光を動かせるのではないだろうか。
光を取り込むのは、三条の洞窟で経験済みだ。
幻術は守護守の力ではないから、動かせるかは定かではないけど、やってみる価値はある。
炎の時と同じ、洞窟で光を受け入れた時と同じ。
その感覚を呼び覚ます。
「…光」
呼んでみるが、反応がない。
空を見上げ、雲の合間から降りてくる光の筋を追って、水溜りに至る所まで見届ける。
再度、光の中心を見る。
前に炎に飲まれたように、こちらに来てもらおう。
そしてその光を内側へ受け入れる。
「光」
天使の梯子の1つが僅かに動いた。
そこに意識を集中させる。
私の元に光が来るように呼び続ける。
「…来て」
光が私の元へやって来た。
私を通って社も照らされる。
社に向き直れば、まるまる光に包まれ暫く、独特の巫女文字が浮かび上がった。
術式が発動し光が瞬く。
硝子が割れるような音の次にバラバラと割れたものが落ちていくような音が耳を通っていく。
眩しさに瞬き、その後、そこは綺麗な湿地帯から地下の土壁に戻った。
「…やった」
見下ろせば、丁度大木があった場所に大きな国が見えた。
当時のまま、色褪せることも朽ちることもなく現存された力を保持した大国。
見ただけで分かる、その力の強さ。
あの場所にいるだけで、巫女は通常の倍の力を得るし、行使することができる。
「遅い」
「え…褒めてくれないの」
「そもそも罠にかからなければ時間はかからなかっただろう」
「そ、そうですね…」
やらかしたのは事実だから仕方ない。
しょんぼりしながら坂を下り、邪馬台国へ足を踏み入れた。
目的は神殿、卑弥呼さまが祈祷を行い政の中心だった場所だ。
学んだ通りであれば、ここに数多くの巫女に関わる文献と文化財がある。
それにしても、いくらそのまま地下に隠したとはいえ保存状態が良すぎる。
どこにも風化や劣化は見られない…これが大国に残り続ける強大な力の恩恵なのだろうか。
「おぉ…」
神殿の奥は広い玉座と思われる空間だった。
その奥はまだ続いてそう。
そもそも卑弥呼さまは表には出てこず、自身の部屋に籠り、必要なことは全て弟と侍女が行っていたと史実にはあるから、ここから奥に進めばそういった部屋があるのかもしれない。
そしてこの神殿の近くに宝物庫のような保管場所があるはずだから、そこも探して歴史文献を確認してみよう。
「じゃぁ、ここから別れて巫女に関する物を探しますか?」
そう提案したところで、全く別の声が上がって私は肩を鳴らすことになる。
「あらお客様?」
「え?」
玉座の後ろの簾から人が出てくる。
管理者はいないはず。
こちらへの警戒心もなく敵意もない…私達に驚いてる様子もなかった。
「最近はここにくる巫女が多いのね」
「?!」
現れたのは綺麗な女性だった。
さくらさんとはまた違う、柔くまったりした雰囲気の中に強い芯を感じる。
彼女は私達を順繰りに眺めて小首を傾げた…綺麗な美女が首を傾げると破壊的だな…というか守護守さまとも巫女たちとも服装が違う。
身につけている数多くの装飾は学んできた中で知り得た高位の巫女に必要なもの。
まさか…生きてるはずがないけど、外見が知識と一致してしまっている。
「…ひ、人違いだったらすみません。卑弥呼さま、ですか?」
「えぇ」
にっこり笑顔で頷かれる。
予想が当たってしまって戸惑う…卑弥呼さまと直に会えるなんて聞いたことがなかった。
「………」
まさかのことで言葉を失う。
ここで器と守護守について何かを掴めればと思ってきたはいいけど…まさか最初の巫女に会えるとは思っていなかった。
私が絶句してるのを不思議に思ったのか、卑弥呼さまはもう一度小首を傾げた。
「私に会いにきたのではなくて?」
「え?」
なんで生きてるの?と出会った瞬間は思ったけど、よくよく見れば生きた生身の人ではないことがわかる。
霊体に近い形で存在している。
ここが恐山か黄泉國ならまだしも、ただ地下に埋まった大国に生身の身体なしでこんなしっかりした形を持って存在できるのだろうか。
最初の巫女である卑弥呼さまは今のどの高位の巫女でも敵わない程の力を持っていると学んできたけど、その強大な力で人としての生死を超えることができているのか…知られていないだけで今の卑弥呼さまの状態でいられる術式があるのか。
卑弥呼さまをもう1度よく見る。
ぱっと見た姿は私たち人と同じ。守護守さまとも在り方が違う。
「あ、でも貴方はもう卑弥呼に会っているものね。私にわざわざ会う必要もなかったかしら」
「え?…どういうことですか?!」
「あら、貴方言ってないの?」
卑弥呼さまの視線が私からずれる。
隣の傍若無人をとらえていた。
まさかという思いで卑弥呼さまに視線を戻すも、おっとりにこやかに笑ってすごいことを言ってきた。
「貴方の隣にいるのが本来の卑弥呼よ」
「…え?」
「今は災厄の守護守と名乗っていたかしら?」
突然の暴露にやくを見ても眉間に皺を寄せて不機嫌そうに卑弥呼さまを見てるだけだった。
何も言わないし、こちらも見ない。
守護守であるやくが卑弥呼?
本当の卑弥呼?
目の前の卑弥呼さまはどうなるの?
「え、ええ?!」




