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26話 秋葉山、深部。

「山の深部へ案内しよう」

「え?」

「君の祖父母について知りたいんだろう?」

「そうですが…なんで…」

「おいおい話そう。じゃ、行くか!」


意気揚々と先を進む炎の守護守さまに続いてやくが無言で進む。

さくらさんに目線を寄越せば小さく頷かれる。

私はやくの隣に立って炎の守護守さまに続いた。


扉の奥は整備された洞窟で、石階段を下っていく。

山の最奥は社だった。

炎の守護守さまの居場所。

社の前に炎が燈っているのは、守護守さまの力か。


「これは君の祖父母が残したものだぜ」

「…祖父母が?」


長きにわたって術を残せることはそうない。

では最近この地に来たということ?


「いつだったか…月日を数えるのは苦手でな…」

「少なくとも呪を内に入れる前だろう」

「そうなりますと、おおよそ80年前程でしょうか」

「あいつら少し長生きだからな…その前もいたにはいたんだが」


守護守さまたちで会話が進む。

どうやら祖父母の若い頃の任地が秋葉山だったようだ。


「最初に会ったのは150年ぐらい前だったか」

「ひゃ、150年前?!」

「奴らは術式やら呪やらを使って人より延命しているぞ」

「そう、なの…」

「まあ祖父母であり曾祖父母でもあるわけだな!」


面白いと炎の守護守さまは笑う。

笑いごとでもない。

延命の術式なんてきいたことないし、150年前から生きてたとして母はどうなるのか…。


「まあ座れ。炎があるうちは君と会話してくれるだろ」

「は、はい…」


言われるまま炎の前に座る。

小さく揺らめくだけで何もない…となれば、祈ってみようか。

座ったまま柏手を二回、手を合わせたまま静かに目を閉じる。

炎が揺らめくのが見え、その中で風景と人が見えてくる。

祖父母だ。

会った時よりも幾分若く、呪の欠片もなかった。


『多くを記憶する事は身体の負担にしかならない』

『だから置いていくのか』

『必要ないことをね』

『…私達は器になれると思っているのか』

『やってみる価値はあろう』


炎は祖父母の記憶…泉の姉兄のように会話は出来なさそうだけど、見ることはかなっている。

器は自分の意思でなれるものなのだろうか。

私はどこかで器になるなんて思ったことはない。その存在を最近知ったぐらいだ。

次にすぐ場面が変わったようだけど、祖父母は年を重ねてないように見えた。


『…置いていくのか』

『私達がいくら努力しようとも手に入らなかったのであれば必要ない…器の事と延命術だけ知っていればそれで良いのさ。過程は必要ないね』


一度に流れてくるのは全国を巡り、多くの守護守と契約と解消を繰り返していた祖父母の姿だった。

器のことを知る為に多くを模索していた。

器については記憶としてここに残さなかったのか、肝心な部分が抜け落ちていたけど、行き着いた先だけは残されていた。

祖父母が器になれないということだけが。


『器を作るしかない』

『そうか』


ぶつりと記憶が切れてしまう。

どうして祖父母は器にこだわるのだろう。

延命術をどこで知ったのかは置いてても、使ってまで生きたい理由は何?


『犠牲になるのは私達まででいい』

『しかし生まれる器に業を課すのか』

『致し方あるまいよ。終わらせる為の痛みだ』

『…そうか』

『さて』

「…?」

『これ以上はお前に見せるものはないよ』

「!」


目線は合わせず、向こうの世界のままなのに、私に向かって話しかけてきたのがわかった。

祖父母はそのまま続けた。


『お前が動けば、自ずと知れる』

『どうせ私達とまた会うのだからね』

『今の状態の私達だと幾分骨が折れるんじゃないか』

『そうだね、ああなるつもりはなかったからね…そしたらこれをやろう』

「え…」

『古の上物だ』

「破魔矢…」

『ずっと炎の守護守に預けていたが、まぁいい頃合いだろう』

「い、いいんですか?」

『使う使わないも自由だ』

「………」


姉兄の時とは違う、見るだけに特化した記憶の保管場所の祖父母と話せるのは、祖父母が相当な練度の巫女だったからだろうか。

何を終わらせたいのか、業を課したのは私なのか。

きいても応えてくれないだろう。

私はもう1度呪に塗れた祖父母と対面して、そこで直接きいてみるしかないんだ。


「……有り難く、頂戴致します」

『私達が器であればこんな手間はかからなかったのに』

『それを言っても始まらん』

『知っているさ…仮定の話は意味を成さない』


器よ、と呼ばれる。

最後までこちらを向かずに最後に祖父母はよく聞く言葉で終わりを示した。


『精々器として足掻くがいい』


やくがよく私に言う足掻く。

祖父母のそれは意味合いが全然違うけど、破魔矢をもらった身だしその言葉も受けとろう。

足掻き続けることは目に見えてる…その結果私は私の納得するところへ行きつけるだろうから。


「……」


目を開くと、炎はほとんど見られず小さく燻っている程度になっていた。


「直に消えるだろうな」

「…そうですか」

「まあ話せたようでよかったな!」

「はい…」


背後から名を呼ばれ振り返る。

やくが無表情でこちらを見下ろしていた。


「何も得ずに帰って来なかっただけマシだな」

「え、あぁこれ?」

「流夏さんが使っていた物ですね」

「あ、はい。頂いたので」

「よしよしじゃあ次へ行くとするか!」


いきなり混じってきたぞ、炎の守護守さま。


「さっき連絡があってな。君と話をしたい人間がいるそうだ」

「え?…誰ですか?」

「イタコだ」


巫女の中でも選ばれた者しかなれないイタコ。

イタコに知り合いはいないし、全国を巡るようになったとしても任地に恐山は入らないから、そもそも会う機会がない。


「冬籠と流夏のか」

「あぁ、同期ってやつだな!」

「え、祖父母以外で生きてる人がいるんですか?」

「イタコは特殊な巫女です。本来一介の巫女が知り得ない延命術を唯一行使できるのがイタコです」

「そうですか…」


何の用なのかは置いても、祖父母が延命するための巫女術を知る為には誰かが知っていないと始まらない。

祖父母はイタコから学んだなら、どうやって恐山へ立ち入ったのだろう。

敷地内に入れても巫女としてそこで学ぶことは出来ないはず。


「じゃ行くってことでいいよな!」

「はい」

「ここで何もせずにいるのも飽きた。さっさと行くぞ」

「…次のとこではあまり暴れないでよ…」

「何を言う。こやつとのは暴れる内にも入らんぞ」

「うわ…」


消されかけた炎の守護守さま可哀想。

それを聞いても笑ってるだけだから、炎の守護守さまも結構図太いもの。


「俺が送るぜ!」

「ありがとうございます」

「君も死なないよう気を付けるんだぞ!」

「はあ…」


よくわからないことを言うなと思いつつ足元が光る。

炎の守護守さまの転送に従って私は秋葉山を去った。

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