表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/62

25話 器は守護守の力を取り込むことが出来る。

今回はやくもさくらさんもいない。

炎によって遮断されている。

ここの守護守さまの力なのか炎の力なのか、契約を断ち切るほどではないにしろ、二人の守護守さまの力を授かる感覚がない。

純粋な私の力が求められてる。

時間をかけてあちらはあちらで戦うためなのか。


(ぬさ)を使おう。

炎はさっき少し退けて距離は多少あるものの、いつ私を飲み込もうかと躍起になっている。

隙あらば最初のように私ごと丸呑みにして燃やす気だろう。


両手で構えて振れば炎も同じように揺らめく。

足を捌いて舞えばついて来る。

楽しんでいるようだ…主の性質に似るのか。


「!」


突然炎の塊が襲ってくる…油断できない。

戦うことが嗜好なら、幣でおさめられるか否かの瀬戸際を味わいつつ、私を燃やす為に出し抜くことを駆け引きするというひりついた線を行き来するのが目的だろうか。

炎が龍の形をとり、うねりを帯びて私の周りを取り囲む。

舞は止めないまま、龍の口から放たれる炎を諌め鎮静化する。


「……」


巫女として強くならないと祖父母がまた来たときに何も出来ない。

やくは沈静の守護守さまの相手をして、さくらさんに直接一緒に対峙してもらっても、私が足手まといになる。


叔母と戦っても自分の未熟さはよくわかった。

あそこまで叔母と戦えたのは、やくの守護守としての規格外の力と運、叔母の優しさがあったからだ。

最後、叔母は戦うことを止めたけど、そこからいくらでも私を退けることが出来た。


刀の守護守さまの時も同じだ。

あの二人の巫女は殺気こそ本物だったけど、本気ではなかった。

あんなあっさり捕われてくれたのは…なにか他に事情があったからだろう。


今までは運よくうまくいった。

今自分に出来ることを考えるなら、巫女として出来るだけ早く力を得ることだ。


『器は守護守の力を取り込むことが出来ます』


叔母の言葉を思い出す。

私は器で、その器というものは契約なしに守護守の力を取り込み使えると。

相手の許しを得て授かるものじゃなく、端的に言えば奪うことができるようなものだろうか。

もしそうなら…やってみるのもありかもしれない。


「炎」


声をかけると炎の龍が身体を起こして向き直る。

舞をやめ立ち止まる。

幣はそのまま両手で構えて、龍と目を合わせる。


「……きて」


龍が大きな口を開けて私を飲み込んだ。

逆だ、私が炎龍を飲み込む。

そしてそれを私の力にしてみせる。


「…っ!」


熱い。

皮膚が焼ける、息をすれば炎が喉を通って身体の奥から燃えて熱さが私を蝕む。

留めろ、この熱さをなくしてはダメだ。

熱さを持ったまま内側に残す。


「…!」


まだやれる。

守護守さまの力は強大だ。

秋葉山の守護守さまは炎を守護している。

四大元素、炎…やくほどでないにしろ、強さは格別。


「…炎よ」


包む炎が、囲む炎が揺らめく。

炎は私の表面を焼いて苦しいけど、内側の炎の熱さは痛くない。

内側の炎は取り込めたのか。


そしたら。

表面を焼く炎を内側に持っていく意識を持つ。

ジワリジワリと染み入っていく。

姉兄の記憶と出会った場所の光と同じだ。

外側から張り付いて少しずつ内側に浸透していく。


「これだ!」


幣を片手に両腕を広げる。

全身から私の内側へ…炎龍がもう一度生まれ、遠く空へ登り私の元へ戻って来る。

今度は受け入れられるという自信があった。

勢いまま口を開けた炎龍にのまれ、そのまま私は炎を内側に飲み込んだ。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「結稀さん!」

「……」


あつい。

身体のどこも燃えていないし火傷もない。

かわりに腹の底から熱い気持ちを感じる。

取り込んだ炎が私の力になって燻っている。

これが器…私が持つ特別な力というものなのだろうか。


「飲んだか」

「…やく」


微笑んでいたやくの表情に少し違和感を感じる。

なんだろうと思う前に、はっとして彼の周りを見るけど、当たり一面焼け野原…あぁ結界なしでやるから…。

そして相手の守護守さまがいない…遅かった。


「炎の守護守さまは?」

「俺を差し置いて他の心配をするのか」

「やくは傷一つないでしょ」

「そうではない。お」

「おー、俺はここだぜー!」

「え?」


あたりを見回してもそんな姿はない。

どこだろうとさらに見回せば、また呼ばれ、地面から片手だけ出てひらひら手を振っていた。

手首だけしかないけど、そこから出てる声から察するに。


「炎の…守護守さま?」

「ああそうだ!」

「だ、大丈夫です?」

「危うく消されかけたがな!問題ないぞ!」


笑っている。

するすると炎が縦にたち、丸くなったと思ったら火の玉になった…綺麗なまん丸、なんかちょっと想像と違うけどよしとしよう。

やくに相当やられたようだし。

消されかけたというのは嘘ではなかったようだけど…なんでこんなに明るく笑ってられるのだろう。


「意外に早かったな~。どうだ?レベルアップした感じは?」

「レベルアップ…?」

「んー、思ったよりうまくいったな!さすがだ!」

「あ、ありがとうございます?」

「いや本当いい女になった。どうだ、俺と契約するか?」

「その必要はない」


ぐいぐいくる炎の守護守さまに対し、やくは無表情に返している。

しかも私が断る前に先に断ってきた。

炎の守護守さまが楽しそうに笑っている。

この人、素で笑い上戸だな…。


「いいね、災厄。面白いぞ!」

「本当の意味で消されるか?」

「ああ、まだ戦いたいところだが、お嬢さんが炎から出てきてしまったからな。タイムオーバーだ」


パチンと指を鳴らす音がした。

地響きを伴って炎の守護守さまの背後に大きな扉が地面から沸いて現れた。

ひとりでに扉が開く。


「山の深部へ案内しよう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ