24話 嫌な予感。
「おっと」
刀を封じた途端、空いてる片手で巫女術を行使しようとするので、両手問わず全体的に拘束した。
不格好で申し訳ないけど、確実に動かない方法をとるにはこれしかない。
その様子を見て、もう1人が奥で術式を行使しようとしていたところを取りやめ、助けるためかこちらに駆けてくるので、あらかじめ張っておいた網に丁度良くかかってくれた。
もちろんやくの力だからその網は簡単にとれることもなく、意外な程簡単に2人の動きを止めることが出来た。
「よし!」
叔母のように瞬時にして拘束を解くことは出来なさそう…どうにか動きを止められた。
あとはやくだけだ。
「やく!」
見れば疲弊の色が見える刀の守護守さまと、いったん動きを止め様子を窺うやく。
刀の守護守様にいたっては、もう一振りしか刀を持っていない。
2人の巫女が私の拘束を解けないのは、刀の守護守さまの疲弊具合も影響してるだろう。
やくは思っていた以上に冷静になっている…これなら私の言葉も届く。
「やく、終わりにして!」
彼の手を掴むと心底嫌そうに睨み付けられた。
「終わりを決めるのは俺だ」
「いやいや、こっちは動きとめたし、もう戦う理由がないから」
「何を、」
「だめね、終わり」
刀の守護守さまがきっぱり言い捨てた。
もちろん隣の傍若無人は納得いかない。
「まだ動けるだろう」
「戦える程の力はないわよ」
いかにもつまらないですと言わんばかりのやくに対し、少し息を上げている刀の守護守さま。
結界内だからか、大きく激しく戦っていた分、消耗も大きいのだろう…戦い方も物量重視で後のことを考えて戦っているようではなかった。
「刀の守護守さまもああ言ってるし」
「結稀、」
「誰もがやくみたく元気にずっと戦えるわけじゃないから」
「…ほう」
やくの有り余る力はなんなのか。
そんな物言いよくできるなと軽く睨まれてるけど、もう必要がないことをもう1度伝える。
小さな可愛い女の子いじめてるみたいだから、見た目もよくないし早く諦めてもらおう。
「やくはあんな可愛い守護守さま見て良心痛まないの?」
「俺たちは見た目と過ごした時が比例しない」
「そうなんだけど、単純な見た目の問題で!それにやくより強い守護守なんていないんだから、少しくらい大目に見てあげてもいいじゃない」
「…ふむ」
「指導的な立場なら程良いところで引くと思うし、その方が断然格好いい!」
「成程」
いいだろう、と首を縦に振った。よし、納得してくれた。
自分が圧倒的優位な立場…指導な立場で気を良くしたようだ。
そんな私とやくの様子を見ていた刀の守護守さまが手にしていた刀を振った。
「!」
ざすっと音を立てて私の足元に刀が突き刺さった。
「……あげる」
「え?」
不服そうなのは変わらず刀の守護守さまは鞘も軽々しく投げてよこした。
「これと戦うの止めてくれたし……だからあげるわ」
「え…これって…」
破魔の力を宿した刀だ。
こういう由緒ある刀はその地の管理者とか、守護守さまに認められた巫女しか授けられないというのに。
「よいではないか、結稀」
「やく」
「もちろん返してもらうわよ…しばらく貸してあげるだけ」
「…あ、有り難く」
「畏まらなくていいわよ」
「え……ありがとう?」
不服そうな態度とは裏腹に優しい守護守さまだ。
有り難く刀を授かります。
「で?お前はさっきから何を隠れて見ている?」
「ばれていたか」
「また俺に消されたいのか?」
「消されたくはないが、是非戦いたい…それにあの時のは消えてないぞ!ギリギリだったが」
結界の天井から顔を出す男性…守護守さまだ。
にこやかに笑ってこちらに手を振る。
結界を破ってまでして何をしに来たのだろう…何か嫌な予感しかしない。
発言が隣の傍若無人と被っているからだ…ああもうそれだけでやっぱり嫌な予感しかない。
そんな守護守さまは明るく笑顔で私に手を振ってくる。
「よう!話には聞いていたが良い女だな!」
「ど、どうも…」
場違い感が半端ない守護守さまだな。
すると結界が解かれ、守護守さまがゆっくりおりてくる。
「お、いいのか?」
「御随意に」
二人の巫女は丁寧に場を譲る。
お手本のような対応だな…刀の守護守さまは眉間の皺がひどくなってる。
嫌いなタイプなのかもしれない。
やくを前にした時より不服さ割り増しだし。
「どうせ、君達うちの方へ来るだろ?折角だから迎えにきたぜ」
「え?」
「奴の管轄は秋葉山だ」
姉と兄に伝えられた場所だった。
足元が光る。転移の術式だ。
私の答えなんて関係ない…この勝手さ、やくと似ている…というか予感通りだ。
「また?!」
三条の方々に挨拶も出来ず、富士の結界内へも戻れず、私はまた場所を移した。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「さて」
場所を確認する間もなく、目の前の守護守さまが放った炎が私を包んだ。
「!」
巫女術を行使して、纏わり付くのをどうにか振り払うも炎は私を囲んでいる。
炎の先にいる守護守さまたちは見えない。
「君はそこで炎の相手でもしててくれ」
「え?」
「災厄と戦いたいんでね」
「ふむ、まあ良いだろう」
そりゃいいでしょうね、貴方は。
まさかの戦闘狂が二人…あの場に居合わせてるさくらさんが可哀想でならない…たぶん黙って見てるだけなんだろうけど。
私をあえて隔離した意図はわからないけど、言われた通り炎をどうにかするしかない。
「…やく、すぐ戻る」
「は、俺の方が早い」




