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21話 三条の洞窟。

「叔母さま…」

「三条か」


姉兄が最後に着任していた場所。

少ないやり取りの中で覚えているのは、ここは刀や金物で有名な土地でその加護を受けている。

叔母が転送してくれたのは洞窟の前だった。

確か気を高めるのに洞窟があって最深部には泉もあったはず…姉兄はそこで力を高めていたと言っていた。

ここに入れということだろうか。


「そういう事か」

「やく?」

「美智子様はこちらにと」


叔母の計らいはこの洞窟。

ここに何をしに行けばいいかわからないけど、巫女ご用達の場所なら大丈夫だろう。


「入ってみましょうか…」

「うむ」

「はい」


二人の守護守さまも付いてきた。

制限はないし呪の気配もない。

やはり巫女のために用意された練度錬成場所のようなものだろう。


「……」


洞窟の中は薄暗く、水が滴る静かな場所だった。

奥深く進めば、聞いた通り泉がある。

外、洞窟の近くに涌き水があったのはこの泉のおかげだろう。


「…すごい」


強く神聖な気を感じる。

富士の結界内も強い力に満ちていたけど、洞窟という限られて狭い空間だからか、全然違うものになっている。


「ふむ、やはりか」

「どうしたの、やく」


彼の方を向こうとしたら片手で両頬を挟み掴まれ持ち上げられる。

いやいやすごい痛いんですけど。


「ちょ、や、く…!」

「こういう事だろう、桜」

「………」


さくらさんを脇見れば複雑な表情をしていた。

やくのしたいことを理解してか、首を横には振らない。

苦しいからどうにかして…首をしめられてないだけマシだけど。


「行ってこい」

「っ!」


投げ捨てられた。

ひどい、扱いが雑過ぎる。

投げ捨てられた挙げ句、泉の中へダイブだ。


思いのほか深い。

水の中、目を明け水面を見上げれば僅かに輝いている。

下を見れば深く底が見えない。


そして正面を見て、驚きに息を吐き尽くした。

姉と兄がいたからだ。

笑っている。

記憶の片隅にある笑顔そのまま。

手を差し出す二人に手を差し出す。

そのまま姉と兄は私を連れていく。

息が出来なくて苦しいということはなくて、あるはずのない眩しい光の方へ連れていかれる。


「…ここは」


何もない光の中。


「「結稀」」


二人に呼ばれる。

いるはずのない姉と兄…どうしてここに。


「ここに来たということは私達は駄目だったのね」

「え…」

「僕達はただの記憶だ。この地に結稀が来たとき力を得られるようにいるだけだよ」

「力…?」

「叔母様に頼んでおいて良かった」

「え」


叔母はこのことを知っていたんだ…でも、記憶を残す術式なんて知らないし、記憶とこんな明瞭に会話が成立するのは難しい。

そもそも力を得るとはどういうことだろうか。


「ここの光を取り込んでいくの」


光を浴びつづけて身体に入ってくる。

すごく心地がいい。


「ここを出たら試練がある。あくまで準備という形しかとれないけど」

「結稀なら大丈夫よ」


記憶の姉と兄はそこにあるかのように話をしている。

生きているようだった。


「姉さん…兄さん…」


触れようと手を伸ばして、そのままするりと抜けてしまう。

やっぱり触れることが出来ない。

さっきの手を握った時も感覚がなかった…力によって引き寄せられ導かれただけで、実際の目の前の姉兄に実体はない。


「あぁ…」


私を呼ぶ姉兄は悲しそうに眉根を寄せて私を呼ぶ。


「叫んでいいよ」

「姉さん」

「悲しいときは悲しいって言っていいんだよ」

「兄さん」


あたたかい光の中、私は遠くの光に向け叫んだ。

子供の頃のように泣き叫びたかったのに、姉と兄が目の前で消えて、ただ茫然としていただけだった。

祖父母の襲来もすぐで余裕なんてなくて…でも姉兄がいないという喪失感だけはずっと残り続けていた。

不の感情を増やしてはいけないと、その一心でなかったことにしていだけど。

やっぱりそれはダメなんだ。

そうだ、姉と兄を失って辛い、辛いなんて悲しいなんて言葉では表せないけど、そんな言葉でも私の気持ちであることに変わりはない。


悲しい辛いと散々叫んだ。

叫んで叫び続けた、ふとした瞬間に叫ぶ必要も泣く必要もないぐらいに落ち着いてしまった。


「…………あれ」

「…大丈夫そうね」

「姉さん」

「光もよく馴染んでる」

「兄さん」


私達はこれでいけると笑う。


「え、」

「…結稀、私達が見せたこと覚えていて」

「きっと後で役に立つ」

「見せたものって…?」


それに応えず微笑むだけ。

思い出せるのは、姉兄が私を守るために奔走した過去、呪に飲まれた姿、結界…たくさんある。


「……災厄の守護守さまは守護守の中で強く異質なのはわかってるわね?」

「うん」

「だから本来なら私達の結界内で幻術にかかるはずがないのよ…例えそれが力の欠片でもあっても」

「え…」


それはどういう意味。

わざとかかっていたの?

確かに私の名前を知っていた…かといって、わざと知らない振りをしてるようにも思えない。

あの姿、不機嫌さ、力の抑制…あれは全て真実だった。

あの時は余裕がなくて気づかなかったけど、本来規格外の強さを持つ彼に、呪という強大な力を得た巫女だったとしても敵うはずがない。

災厄の守護守とは私達の想像を超えた先に存在する。

他の守護守とも違う、圧倒的優位な立場におり、その力に敵うものはそういないはずなのに。


「…どういうこと…?」


姉と兄はこれ以上話す気はないようだった。

困った顔をしたまま私の手を取り薄く微笑む。


「結稀…祖父母がまた貴方のとこにくる」

「うん…」

「巫女として強くなるしかないんだ」

「私達は敢えて言わずにいたから貴方は何も知らない……だから祖父母を知りに行きなさい」

「知る?」

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