2話 黒い何かに襲われる。
私にしか見えない人型の何かは後ろについてきてる。
城の中は人もいるだろうから、なるたけ話さないようにしようと心に決めて入った。
ちょうど人の多い時間と重なっていたからか賑わってる。
城の中を堪能するのは後でもいいかも。
そう思ってきびすを返したとこで、急に場が静まり返る。
同時に背後の傍若無人が短く言った。
「待て」
「?」
静まり返ったと同時にぴりついた空気をだす広間。
おかしさに少し眉根を寄せて、彼を見ると不快ですと言わんばかりの顔をして中央を見ていた。
声をかけたのは私で間違いなさそうだけど、彼はなにをそんなに嫌がっているのか。
彼の目線を追って見やると気持ち悪さに言葉を失った。
人がいたはずだ。いや、今も確かに人の形をしている。
…全身真っ黒になってたけど。
「…っ!」
「成程、ここまでとはな」
わらわら動き出した黒色の人型はゆっくり立ち上がりこちらに近づいて来る。
「え、なに?!」
「いけません、早くここを離れましょう」
外に出ようかとさっき入った扉の方を見れば外からも同じような人型が扉を割って入ろうとしていた。
隙間から見える黒い部分がその数の多さを物語っている。
「扉を閉めさせて頂きましたが…さすがにもう破られましょう」
「え、じゃ、どうすれば…」
むしろなにをどうしてできたのかわからないけど、そこまでサポートしてくれてた彼女に感謝だ。
あとはこの変な状況をどうにかしないと。
「ひとまず上に!」
「はい」
「何か策でもあるのか?」
「考えます!」
城の階段は狭く急で、登りにくいところを走り抜ける。
私たちが動くと、黒色の人型も動き出した。
追いかけて来る。
人の動きというよりは動物の動きだ…四つん這いに近い形で追いかけて来る。
「てか、貴方方なにかこうやっつける技とかないんですか?!」
階段を駆け上がりながら提案する。
そもそも存在が見えない何かで、扉も閉めてくれる…つまり実際存在している物を触れられるなら幽霊ではなさそうだし、なにかしらの不思議な力があってもいいのでは。
「ありますが…」
「あるの?!」
なら早くあいつら蹴散らせてくださいよ!と言っても、微妙な顔をされる。
「使えても大した事は出来ないだろうな」
「どういうことですか?!」
「私達の普段の力の10分の1もだせないからです」
「え?!ますますわからないんですけど?!」
曰く、何かの制限がかかっているらしい。
それはやっぱり名前を忘れているからとか。
私だけじゃない、彼彼女も自身の名前を思い出せないようだった。
階段を息を切らしながら登る。
最上階天守閣だ。
誰もいなかった。
格子状の窓が大きく外の自然が見渡せる…旅行できてたら最高の思い出になるような場所。
「どうしよう」
扉を閉めきったけど、こじ開けられそう。
というか、あの人型はなにを目的に私たちを追いかけてきてるのか。
「あれらの的はお前だぞ」
「え?!」
私なの?なんで?思い当たる節はない。
「ついでに俺らがやられれば、それでも良いのだろうな」
「えぇ」
なに、二人は理解してるの?
「私にわかるように説明してください!」
「出来ぬ」
「はあ?!」
「私達は感覚でしか理解してないのです。理屈をお伝え出来ません」
人に見えないと言動とかそういうのが違うわけ?
私、置いてけぼりじゃない。
標的は私、ついでに一緒にいる見えない存在もどうにかしたい。
「仕方あるまい」
「はい、一か八かやってみましょう」
「え?!」
扉が蹴破られた時、二人は戦うことを決めたようだった。
私は置いてけぼりだ。
狙いは私、二人は戦う力がいつもより低い。
いろいろわからない。
「?!」
なにをしたかは見えなかった。
見えるはずなのに、そこだけ見えない。
さっき彼が彼女を呼んだときと同じで、そこだけぽっかりあいている。
そのかわり、黒い人型が数人倒れた。
その後黒い霧になって形が消えていく。
すごい。
「やはり力が思うように出せんな」
「えぇ、でもこの程度でも充分のようです」
見えない戦いで彼らは優勢。
入ってくる人型を次々に霧にしている。
と、彼が私に向かいあった。
驚くと同時に背後で壁ごと割れ散る盛大な音で危機を感じた。
「外からも…」
格子状の窓は跡形もなく、遠く空と森が良く見えた。
外側から登ってきた人型が彼の力で消えていく。
少しほっとするものの、次につんざく音がした。
音の方を見たら、二人の胸から血が飛んだ。
「え?!」