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15話 対 祖父母

止まる。

そして息継ぎの時間すらなく、やくの背後の空間からさまざまな災厄が現れ、沈静の守護守さまに襲いかかる。


「お前が処理しきれない量と速さをくれてやればよいだけだ」

「…そんなもの、きくわけが」

「ないと言うのか?」


見くびられたものだと僅かに怒りをあらわにする。

その怒りがさらなる強さを孕んで災厄に現れる。

その僅かが沈静の守護守さまを飲み込みはじめたのが見えた。


「…私とて逃げているだけではありません」

「やってみるがいい」


沈静の守護守さまが返したのはやくと同じものだった。

呪に染まってるからそういうふうに見えたのかもしれない。

互いの力が交じりぶつかり周囲が混濁する。


「…これで終わりです」


大きな力がそれぞれの守護守さまを飲み込む。

その刹那。


「終わりを決めるのは俺だ」

「!」


やくの手に持つもの。

私が姉兄の結界から抜けるときに使ってくれた災厄を抱えた剣。

剣に災厄が纏いつき、沈静の守護守さまに向かって放たれる。

その形はかつてその剣を孕んでいた災厄の妖そのものだった。

そして互いの力に飲まれた状態では身動きができないし、鎮静化も間に合わない。

やくの斬撃は直撃し、全ての力が乱暴にぶつかって爆ぜた。

風が巻き起こる。


「!」


二人の守護守さまが見えて動揺した。

やくの左腕がごっそりなくなっている。

沈静の守護守さまは胸から腹にかけて切られた挙句、身体の部分部分が獣に食われたような形でなくなっている。

その傷口から黒い液体が止めどなく流れ出ていた。

けど、互いにダメージになっていないのか平気な様子で立っている。


「災厄!」

「桜、さがっていろ」


俺の獲物をとってくれるなよ、とやくは楽しそうに笑った。



「あ!」


祖父母の術式がさくらさんの守りをすり抜けて、私に届き破魔矢を奪った。

油断した。

宙に浮いた弓矢は呪に纏われ、次に粉々に砕け散った。

なんて強い呪。

清められた神器は呪が直接触れてもそう壊れるものじゃない。

それに加え破魔矢には触れるだけで浄化されるほどの力が宿っている。

それをいとも簡単に壊した。


「結稀さん!」


すぐにさくらさんが私の前に。

祖父母と対面する形で立ち塞がる。

やくも片腕を失っている。

次の浄化に入るにしても、疲弊してる状態で先に進めるか。


やれることはまだある。

私も一緒に動くとなれば、巫女術を組み合わせれば祖父母の速さにはついていけるだろうし、薙刀と刀、扇あたりならまだまともに向かい合えるはずだ。

そもそも祖父母が神器を出さず最低限の術式だけで対応しきれてる時点で、どうなのかというとこなのだけど。

そうなるとこちらもあまり手の内を出さない方がいいのだろうか…そう危惧したところに変化が訪れた。


「っ…!」


沈静の守護守さまは動きが急に止まったかと思ったら次に膝をついた。

眉を寄せ苦しそうにしている…守護守さまが動けない程の何かに見舞われる時は契約した巫女に何かあったときと自身が消滅の危機に瀕した時。

はっとして祖父母を見ると二人とも口から黒い液体を吐き出している。

呪だ。

内に貯めた呪が多過ぎて溢れてる。

このままじゃ祖父母自身、姉兄同様飲み込まれてしまう。


「どうした、立て」

「……」


やくは沈静の守護守さまを無表情に見下ろしている。

沈静の守護守さまは微かに震えながら立ち上がった。

契約者に影響されるとはいえ、私と守護守さまたちでは存在が違う…恐らくまだ戦える。

立ち上がった途端、やくは容赦なく攻めてくる。

攻撃は当たらずに静やかになってしまうところに明らかな変化がでた。

その半分が当たらず半分が当たる。

やはり祖父母の影響だろう。

呪で深く結びつけられているのだから、通常の契約よりも大きく偏りがでるのか。

片腕がなくても今はやくが有利。


「時間切れとはねぇ」


黒い呪を吐き出しつづけながら祖母が笑っている。

まだ動けるし、自我もある。

さくらさんが大地から桜の木を出現させ、祖父母を拘束する。

抵抗もなく桜の木に捕われる二人。


「結稀さん、まだやれますか?」


破魔矢を壊されたけど、大丈夫。

冷静に考えて私と祖父母の力量は歴然としているし、他の神器を使っても破魔矢と同じ道を辿る可能性もある。

けれど私の心はまだやろうと思ってる。

そんな私が新たに動こうとした時、祖父母が笑い出した。

同時に小さく祝詞を献上し、拘束していた桜の木が消える。


「仕方あるまいねえ」

「一旦引こうか」


たん、と一歩踏み込んだ祖父の足捌きは舞の踏みだし方。

身構えるが、その足音は沈静の守護守さまを呼び寄せるだけだった。

沈静の守護守さまはやくとの戦いで多少負傷して少し俯き気味に瞳を伏せていた。


「器として身を高めておくが良い」


来たときと同じく、黒い呪の輪が祖父母の足元に広がり飲まれていく。

とてもじゃないけど追えなかった。

私にはまだ到底辿り着けない…巫女として熟練度、守護守さまに最大限力を使って頂く力量も全て。


「ふん、つまらんな」


心底そう思ってるのだろう、やくは辟易した冷たい瞳で祖父母と沈静の守護守さまを見送った。

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