14話 守護守 対 守護守
「久しぶりだ、楽しませてみろ」
「貴方という人は…」
勝手に始まってしまった。
守護守さま同士は大方面識があるが、この二人、何かあるのだろうか。
さくらさんとやくとの関係よりも何かありそうな感じはする。
最も、相性がよくなさそうな印象だけど。
この結界の中、大きな水の渦を巻き沈静の守護守さまに攻撃するが、見たことないことが起きた。
飲み込もうとした渦が、沈静の守護守さまに触れる前に、真っ二つに割れてただの水面と変化した。
緩やかなどころじゃなく制止した水。
荒々しい水が完全に鎮静化した。
これが沈静の守護守さまの力。
「結稀さん」
さくらさんに呼ばれ我に返る。
一瞬頭に過ぎったよくない思い。
やくと相性が悪い、分が悪いという考えを頭から急いで消す。
私が恩恵を受けると同時に、少しであれ私の心のあり方が守護守さまに影響する。
守護守さまの期待を裏切れば、結果が裏目に出てしまうことも有り得るから。
「さくらさん」
「私は貴方を守ります。災厄は沈静の相手をするでしょう。貴方のやるべきこと違えないで下さい」
「はい…!」
必ず浄化を。
姉兄は人として浄化したかったからなるたけ傷を負ってほしくなかった…だから浄化だけに特化した神楽鈴を使ったけど、祖父母については姉兄より手遅れだ。
挙句、姉兄より熟練の巫女である祖父母をさくらさん1人に任せて神楽鈴や榊の枝を使うには余裕がない。
私も前線に出て攻撃という手段で祖父母を浄化していくしかない。
「破魔矢を使います」
「わかりました、お手伝いします」
破魔矢は相手の動きを止めることと浄化することを同時に出来る。
巫女術も抑えることが出来るので私のような駆け出しの巫女には助かる神器だ。
まずは祖父母の動きを止め、呪術や祝詞を使えないところまで持って行って、そこから最適な浄化方法に変更する。
私では到底敵わないと言っていたやくの言葉が気にかかる…今回はよく考えて選択していかないと。
矢を番える。
さくらさんは私の背後に。
狙いを定めて放てば、光の矢となって祖父母へ向かって行く。
当然のことながら、祖父母はそれを避けようとその場を駆けて離れる。
あれは陰陽術の足捌き…にしても異常に速い。
私がかろうじて目で追えているのは2人の守護守さまの力だろう。
矢は2つに分かれ祖父母それぞれを追跡する。
その途中いくつにも矢が枝分かれし、四方からそれぞれを貫きにかかる。
それを冷静に軌道を把握し、素手で落としていって掠り傷すらつけさせてくれない。
呪によって染まった黒い手はそれだけで力があるのだろうけど、このスピードで矢を落とされていかれるとまずい。
距離は縮められ、祖父母に攻撃の余地をより与えてしまう。
さらに矢を放つ。
光の矢から雷が放たれるが、それすらも素手で掴んで逆に吸収された。
一瞬で呪に変換して取り込むなんて…なんとか速さでは追いつけているものの2人の守護守さまの力を借りていても、浄化のスタートラインに立てないなんて。
「!」
祖母が光の矢に追いかけられながらも、私に真っ直ぐ向かってきた。
「――」
高度な術式、そしてその中身から確実に私の息の根を止めようとしているのがわかる。
器を回収すると言っているのことに、私の生死は関係ないのか。
祖母の攻撃に対し、さくらさんがすぐさま間に入って私の安全を守ってくれる。
桜の花びらが舞う。
私は頭上に矢を放った。
全方位の形で分かれ地に降り注ぐ光の矢。
それすらも祖父母は簡単に避ける。
これが呪に澱み塗れた故の強さの差なのか…単純に祖父母の方が姉兄より巫女として強い力の持ち主だったからか…どちらにしろ守護守さまなしでは先に進めない。
やくの方の様子を見る。
今の段階では沈静の守護守さまは攻撃してきてなく、ただやくの力を沈めてるだけだ。
この守護守さまの攻撃がどんなものかわからない。
学んだ中での記憶がないということは抹消された守護守さまということだろうか。
単純に私が忘れてしまっているのか、これから学ぶ守護守さまだったのかもしれない。
「……」
未だ矢は祖父母を捉えられない。
立て続けに矢を放ち続けるけど、いずれも祖父母には軽く虫を叩く様に矢を消されていくだけ。
破魔矢で祖父母の動きを止め、そこから神楽鈴や榊の枝で浄化だけに特化した方法で鎮めるつもりだったけど、やり方を変えるべきだ。
なるたけ最短でいきたいし、このままだと祖父母の攻撃から私を守るさくらさんの負担も増してくる。
「…!」
けど浄化させてくれない。
結界の中、圧倒的に私が有利なのに。
このままだと守護守さまに直接お願いするしかないけど…それは禁じられていることだ。
巫女同士の戦いだって禁止されているのに…いや、そもそもあの呪の状態で巫女と判断していいのだろうか。
姉兄同様、浄化対象なのであれば、あれはもう呪と同義…となれば、守護守さまにお願いして祖父母を弱らせる形をとることも可能…けど、さくらさんも私の守りを行いながらさらにもうひと手間かけるのは難しいし、互いに知り合ってるようだったからその手前、手の内が知られてて平行線だ。
やくはやくで時に空中戦を繰り広げながら大舞台を繰り出している。
その全てがなぎ払われているけど、彼自身はとても楽しそうだ。
自分が不利だとは思っていない。
彼にとってみればまだ前座なんだろう。
「いい加減わかりませんか」
貴方の力は私には敵わない、と沈静の守護守さま。
「うむ、そろそろ飽きたな」
やくの攻撃がぴたりと止んだ。




