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13話 新手

私に目線をよこした老婆の瞳は黒かった。

正確に言うなら人の瞳の白黒が逆転している。

それでも冷えた目で見てることだけはわかった。


「我が一族の中でやっと生まれた器だ」

「一族…」


その言葉はつまり、目の前の2人と私に関係があることを証明している。

眉根を寄せたやくが静かに口にした。


「お前達は自分の孫を物呼ばわりするのか」

「孫だからこそ、どう扱おうと私らの勝手ではございましょう」


目の前にいる、姉兄を貶めたのは私の祖父母ということ…?

写真でしか見たことない…今目の前にいる時よりも若い祖父母の写真しか知らないし、誰からも祖父母の話は聞かなかったから、早い内に亡くなっているものだとばかり思っていた。

姉と兄の話ですら巫女として学ぶ立場になってからよく聞くようになったぐらいで、姉兄についてはそんな深くまで知ることはなかったし、両親なんてもっと知らない…うすらぼんやりした記憶と早くに亡くなっていることぐらい。

実感がわかないし、現実味もない。

知らない人が急に、今日から貴方の家族ですって言ってきてるような、そのレベルの話だ。


「本当に私の…?」

「血筋から見たらその通りだねえ」

「…姉と兄に何をしたんですか?」


考えていたほぼ確定的な仮説。

姉と兄が私を守るために向かった相手はおそらく祖父母。

案の定、祖父母は僅かに口角を上げて、それを認めた。


「年長者を敬わず手に掛けようとする不届者に制裁を加えただけさ」

「…まさか…父と母も」

「あぁあぁ、最低の子だったねぇ」


唯一器を産んで仕事したのにと急に声を荒げた。

私を産んだことだけがよいことをしたと。

それを富士の結界の中に閉じ込めて手だししないようにしてきた挙げ句、姉兄と同様刃向かってきたり、と文句を延々と続ける。

自分の子供をその手で亡き者にして、挙句孫にあたる家族も同じ目に遭わせても不平不満を言うなんて…この2人にとって家族とは何なのか。


物心ついたとき、父も母もいなかった。

亡くなったとだけ聞かされていた。

姉と兄は優秀だから先駆けてさまざまな場所で最善を尽くしてると聞いた。

だから呪にまみれてるなんて信じられなかった。

全部目の前の祖父母と名乗る二人が関係しているなんて。


「結稀」

「やく」

「お前はどうしたい?」

「……」


私がここで祖父母をどうにかしたいと言うのはただの復讐だ。

それにはなにも意味がないし、不の感情でしかない。

私は呪を自ら生み出すことはしない。

それがせめてもの巫女としての矜持だ。


「…器がどうとか気になるけど…私は私よ。祖父母の物じゃない」

「ほう」

「祖父母は呪に侵されている。なら私は巫女としての仕事をする……浄化します」

「成程」


やくは笑う。

ならば次は俺も動くぞと前に出る。

姉兄の件は、やくにとっては物足りないものだったと思うけど、それでも最期まで見届けてくれたのは私の意思を尊重してくれたからだろう。

終わりまで見届けて彼が自身の力を授けるに値するか見ていたのかもしれない。


「私もお力になりましょう」

「さくらさん…」


守護守さま2人と私、2人並んで祖父母と対峙する。

器が何かは浄化した後考えよう。

結界内、私は私のやることを決めるだけ。

変わらない…巫女として行うことは1つ、浄化だ。


「交渉決裂というやつだな」

「災厄の守護守…何故そこまでこの器に肩入れするのかね」

「お引き取り頂けませんか」

「桜の守護守、一際多くの巫女を育てたなら分かるだろうに」

「冬籠、もうよい。あれをお呼び」


祖母が祖父に言うと、短い祝詞を祖父が献上する。

身体に悪寒が走る。

外部からの侵入に見せて、その実最初から内側に入ってきていた何かを感じる。

祖父母の足元に黒い穴ができてゆっくりと登り出てきた人型。

黒い呪を纏いながらも形はそのまま。


「沈静の守護守」

「はい」

「災厄と桜を退け、器を手に入れる」

「お前は災厄を1度消しなさい」

「はい」


沈静の守護守さま。

初めて見る守護守さまだ。

やくと同じ、幅が広く、形で見えたりもするけど、力が強いとされる状態や事象に対する守護守さま。

その姿を見て隣の傍若無人は笑った。


「はっ、落ちたものだな」

「…貴方のような狂人にはわからないでしょう」


私がやくに声をかける前に、2人の戦いは始まった。


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