10話 結稀、足掻く。
神楽鈴をだす。
鈴を鳴らしながら舞う。
巫女術でも神器を使うでもない、純粋な浄化だけの舞。
祝詞を献上し、呪を浄化に至る為のただの舞だ。
集中すれば、やくの力が体に満ちていくのがわかる。
彼は私との約束通り、力を授けてくれている。
その姿に姉兄は何をするかすぐに悟り、人のものとは思えない腕を振り上げて襲ってくる。
「…つまらんな」
「そう仰いますな」
やくとさくらさんがそれを阻んだ。
おかげで私はまだ鈴を鳴らし舞い続けている。
浄化の仕方は様々だ。
刀や弓矢等の武具を用いて呪を消し去る浄化方法もあれば、今回のように巫女が浄化の舞によって浄化する方法もある。
舞によって浄化する場合、巫女は舞を続けなければならない。
当然防御は出来ないので、阻む障害は守護守さまに守って頂く形をとる。
その際、守りを強化する守護守さまもいれば、攻撃的な守護守さまもいて、戦い方は多岐にわたる。
やくは圧倒的な後者なのだろうけど、今回は私の様子を見る為か、ただ姉兄の攻撃を阻むだけに徹してくれていた。
なにせ、攻撃は直接的なものだけに留まらない。
「――」
元は巫女だ、すぐさま呪術で対応してくる。
浄化の術式や固有結界以外に、私達は守護守さまに対する術式も学ぶ。
それはどうしても守護守さまに留まってほしい時や、ないことだろうけど守護守さまが先走ってしまった時に、落ち着いてもらうためのもの。
使うことのないものとして学ぶけど。
兄はそれをやすやすと使ってくる。
暗闇のあらゆる方向から、守護守さまをとどめようと鎖が出てきた。
それを鼻で笑うのはやくだ。
「そんなもので俺を捕らえようなどとは笑えるな!」
雷が降り注いで、すべての鎖を焼き切った。
同時に兄の腕にもその雷が当たり、大きく飛んで後退した。
なるたけ姉兄の身体に攻撃をあてないようにしてもらいたいけど、それも難しいだろうか。
身体と精神の消耗は呪の浸食具合に影響しかねない。
「――」
(え?)
次に姉が使った巫女術に、舞を続けつつも驚いた。
だってそれはきいたことがないもの。
知らない…さっき兄が使った、使ってはいけないけれど、どうしてもという時使うものとも種が違う。
その内容は明らかに守護守さまに対する攻撃だった。
呪術の通り、黒い呪が形になって、守護守さまを襲ってきた。
見たことがない。
呪の根源である姉兄が生み出した人型とは違う。
守護守さまを打つ為に放たれた、ただの攻撃そのもの。
そんな術式は存在しないのに。
「結稀さん、心を静めて」
「……」
心の乱れはそのまま私の浄化する力に出てしまう。
姉が使った術式のことは後だ。
私は舞を続けないと。
「成程な」
結局、姉と兄が使う私の知らない攻撃は、2人の守護守さまに通用しなかった。
霧散していくだけ。
掠ることもなかった。
その術式が気になったけど、今はそれを気にしてる時ではない。
浄化が最優先だ。
「……!」
2人の守護守さまが守ってくれてる間にただただ舞を続け、そして。
その中で、私はやっとこの暗い呪の中で、灯をともすことができた。
「結稀さん」
「……」
軽く頷く。
やっとここまできた。
灯がともるということは、浄化できるスタートラインに立てたということ。
元は私の結界内、私の力が強く行使できる場所だ。
ここまで呪にまみれ、深く結びついていると浄化は難しい。
やくの言う通り、人間に戻れず人としての死を迎えて消えるのだとしても、最後まで浄化を諦めるわけにはいかない。
この浄化を成功させる、まずはここを自分で決めて、最後までやり続けるしかない。
私は彼彼女を救う。
巫女としての尊厳だけでも救ってみせる。
「結稀」
やくが私の名前を呼べば、力が沸く。
それが灯に直に影響する。
灯の中にある光が一際強くなる。
灯はそれぞれ、兄と姉を囲み、私達巫女が作り出した特殊な文字を作り出す。
こうなると、呪は身動きできなくなる。
ここまでくればいける、姉と兄の攻撃が止む、はずだった。