6 お茶
今まで見たこともない寝床。
寝床といえば、固い床の上に潰れて固くなった藁入りの布袋を敷いて、着ているワンピースよりは分厚い布をかけて寝るというのが普通でした。
ソファも驚きでしたが、このベッドも驚きです。雲の上で眠っているかのような柔らかさで、逆に不安になってしまいました。熟睡しましたが。
そんな寝床から起き上がって、用意された朝食を食べました。
軽く用意したと出されたものは、パンに野菜と卵、ハムが挟まったものです。私が今まで食べていた固いパンとスープより豪華ですね。
朝食を終えて、庭でお茶をしようと誘われたので、もちろん頷きました。断る理由もないですから!
花の香だと思いますが、とっても甘い香りのする庭で、メイドが用意したお茶とお菓子を挟んで彼と話をすることになりました。
話をすること自体は望むところなのですが、一つ問題がおこってしまいました。
「・・・」
「どうかしたか?」
どうかしました。
先ほど朝食を食べたにもかかわらず、お腹の虫が鳴きそうです。ですが、食いしん坊と思われるのは嫌です。
私は待てができるリスフィなので、彼がすすめるまでは決して手出しはしません。
ただ、じっとテーブルの上に置かれたお菓子を見つめます。
「くくっ。おいしそうなマフィンだろう?食べたらどうだ?」
「マフィンというのですか。いただきます!」
許しを得たので、素早くマフィンを手に取って、口に運びます。
「甘いです!」
「菓子だからな。甘いものは好きか?」
「はい!これほど甘いものは食べたことがありません。おいしいです!」
「・・・それはよかった。お茶も飲め。マフィンだけだとのどを詰まらせるぞ。」
「はい!」
確かに、口が渇きました。お茶を飲むと、このマフィンとこのお茶が合うことがよくわかりました。さらにマフィンをおいしく感じることができます。
「マフィンに夢中なところ悪いが、いくつか聞かせて欲しい。」
「はい、どうぞ。私にわかることなら、何でも答えます!私・・・あなたに出会ってから幸せにしてもらってばかりですから!」
本当に何でも答えるつもりで、そう口にしました。だって、これほどまでに良くしてくれる人間は初めてですから。人間自体、飼育員様しか知りませんけど・・・あと、ここに来る前に見たお客様くらいですね。お客様は見たことある程度ですけど。
「お前たち、リスフィという魔物について、教えて欲しい。一体、どんな魔物なんだ?今隠している翼以外は、ほとんど人と変わらない容姿をしているようだが。」
「つばさ・・・?あぁ、羽ですね。そうですね、俗に天使と言われる魔物です。魔物園での人気も高くて、人間的に見て容姿がすぐれているようですよ。」
「天使・・・言われてみれば、そう見えなくもないか。金の髪に青い瞳、白い羽・・・容姿も確かに整っているな。」
「あなたも、容姿が整っていますね。」
「あぁ、貴族だからな。貴族は容姿の整った者と結婚することが多いから、自然とその子供は容姿が整ってくるんだ。」
容姿が整っている人の子供は、容姿が整って生まれてくるのですね。もしかしたら、スタートの貴族はヒキガエルのような容姿だった・・・そうだったら面白いですね。
「お前は、何か攻撃手段を持っているのか?」
「!」
「持っているようだな。」
攻撃手段を持っているか?その質問に答えるのは、少し勇気のいることですが、もう心は決まっていました。
「常識として、リスフィに攻撃手段はありません。温厚で、見目がよく鑑賞用に最適というのが、世間のリスフィ像です。」
「実際は?」
「温厚ですが、人間と比べれば能力に優れていて、ただの鑑賞用の魔物というべきものではないですね。例えば、視力や聴力などといった感覚が人間よりも優れています。攻撃手段はいくつかありますが・・・やはり特徴的なのは、マギでしょう。」
「マギ・・・」
「魔物の技と書いて、魔技です。人間が魔法なら、魔物はマギを使います。魔物によってマギはそれぞれ違い、リスフィも固有のマギを持っています。」
「・・・サラマンダーが火を噴くとか、か。そういうものだと思っていたから疑問がわかなかったが・・・そうか、マギか。確かに魔法のようなものだな。」
人間が呪文を唱えて魔力を変化させて使用する魔法。人間が口から火を噴くことはありませんが、魔法で火を生み出して敵をその火で攻撃することができます。
魔法とマギは同じようなものですね。
「それで、お前たちのマギはどのようなものなんだ?」
「・・・」
リスフィに受け継がれている技。それは、飼育員様には内緒にしなければならなくて、誰にも見せてはいけない技。
もし見られたのなら、見た者を殺しなさいと約束させられました。
約束は、守らなければなりません。