38 天使
「リリ、君の本当の姿を見せてあげて。」
学者と向かい合った形で立っているグレットは、私に向かって優しく笑いかけました。周りに人がいるとき、グレットは別人のようになります。最初はなれませんでしたが、今はもう慣れたグレットのお貴族バージョンで微笑まれれば、笑いをこらえるのに必死になります。慣れたせいで、笑う余裕ができたんですよ。
ちなみに、グレットに微笑みかけられた女性のほとんどが、顔を赤くします。マーレイフィ様は、流石婚約者で慣れているようですが、それでもうっすら赤くなりますね。
全く反応しないのは、ヴィヴィくらいでしょうか?流石、マネージャー・・・
さて、私の正体を見せるように言われましたね。
「わかりました。」
私は素直にうなずき、グレットの言うとおりにする意思を表しました。これで、私の手綱がグレットに握られているというアピールができるかと思っています。
彼のいうことを聞くので、私は無害な魔物ですよ・・・人間の皆さん。
首輪型の魔道具のスイッチを切り替えて、白い羽を周囲に認識できるようにします。つまり、何も隠していない、リスフィの私の姿です。
金色の長い髪、青い瞳・・・白い肌にさらに白い羽。見世物として育てられた私は、見せるための微笑みを教えられていたので、それを使いました。
見世物の笑顔はいくつかありますが、先ほどグレットが素直過ぎると言ったので、無垢な笑顔を向けます。
「これが・・・」
「天の使い・・・」
「なんて、美しい。」
さすが、天使と呼ばれる魔物ですね。私のことですが。
先ほど向けられていた侮蔑の視線が嘘のように消えて、犯しがたい何かを見るような視線が向けられます。
まぁ、変わらない視線もありますが。
「リリ、ありがとう。」
「いいえ。グレットのためですから。」
貴族バージョンのグレットは、こちらに笑顔を向けながら周囲をそっとうかがい周囲がこちら側に有利な心境になっているかを確認しました。
笑みを深めたので、上手くいっているようです。
「リリ・ドーナルド・・・」
痛いほどの憎しみのこもった視線をたどれば、やはりあなたの視線があるのですね。マーレイフィ様、思った状況になっていないようですが、あなたはこれからどうするのでしょうか?
「魔物なんてとんでもない。彼女は・・・天の使いだ。」
ほう、と吐息をこぼしながらこちらを見てそう言ったのは、台の上に立った学者でした。ありがたい援護、感謝します。
ですが、わからないものを断定するのは危険ですよ?
私は天使ではなく、魔物のリスフィです。自分の知識にない魔物だからと言って、魔物ではないと断定するのは早計ですね。
ま、今回はそれに救われたのですけど。




