表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/39

36 訴え



 期待していたわけではありませんが・・・兄に思うことは一つです。

 本当に、何の力もないんだなと。


「リリっ!」


 遠くなる兄の声。叫び暴れる兄を、城の騎士が押さえつけています。そして、そんな城の騎士は私の左右にもいて、私を拘束していました。


 想定の・・・範囲内ですね。魔物だと分かれば、もてなし方も変わるのは普通でしょう。ですが、もう少し頑張れなかったのでしょうか、兄よ。


「離せ!リリは、ドーナルド家の娘だぞ!」

「魔物に魅入られたか。牢にでも入れておけ。」

「リリ!」


 なんだか鈍い音が聞こえて、私は振り返りました。すると、兄が力なく床に横たわっています。どうやら、騎士に殴られて気絶した様子・・・駆け寄りたいですが、それは許してくれないでしょう。


 あぁ、面倒な。


 苛立ちがつのります。ですが、まだ状況がはっきりとしていない段階で、この騎士を殺すわけにもいかないでしょう。


「お兄ちゃん・・・」

「さっさと歩け、魔物が。」


 強い力で押されたので、よろめきましたが、騎士たちはそんな私をかまうことなく、私を引きずるように先を急ぎます。


 魔物というだけで、この扱いですか。

 いいえ、向こうの世界でもこれが普通だったではないですか。忘れていました・・・人間としての生活に慣れていたので、こんな扱いをされることを忘れていました。




 騎士に連れていかれた場所は、なんと玉座の間でした。牢屋ではないのですね・・・あぁ、牢に入れられるのは兄の方でした。


 玉座の間には、一番奥に王族らしき人物が並んで座っています。出入り口から王族が並び座る場所までは赤い絨毯が敷かれていて、その左右に見物人のように人だかりができています。

 王族たちの前の赤い絨毯の上には、左右に踏み台のようなものが置かれていました。その上には机も置かれていて、すでにどちらにも人が立っています。


 両者はこちらに別の感情を持った瞳を向けました。


 決意の中に優しさを込めた瞳で・・・グレットが。

 厳しい瞳の中に、憎悪を込めた瞳で・・・


「マーレイフィ・スタードリア・・・」


 彼と対面する形で、彼の婚約者が立っていました。


「揃ったな。では、それぞれの主張を聞かせてもらおうか。」


 頭に王冠をのせた王らしき人物が、まずはマーレイフィ様を指名します。どうやら、これは裁判のようなもので、訴えを起こしたのがマーレイフィ様のようです。


 間違いなく、私が魔物であることと関係があるのでしょうね。


 長々と話をされるマーレイフィ様の訴えを簡潔に述べるのなら・・・


「私の婚約者、グレット・アルソートは、本日魔物と判明した、リリ・ドーナルドに魅了されています。おそらく、リリ・ドーナルドは、魅了魔法にたけたサキュバスであると、推測いたしました。」


 どこからツッコめばいいのでしょう・・・マーレイフィ様、あなたはまさか、婚約者を訴えるおつもりなのでしょうか?


それにしても、サキュバスですか。確かに、サキュバスならとっくの昔にグレットを魅了して、私なしでは生きてはいけないようにしますが・・・冗談は置いといて、私が危険な魔物であることを訴えるのはわかります。

ですが、なぜグレットが魅了されていると、彼まで貶めるようなことを?


その答えは、すぐに知ることができました。


「ですから、グレット様が魔物をかばうような発言をなさるのです。諸悪の根源はそこの魔物、リリ・ドーナルド!この魔物さえ処分すれば、丸く収まります。」


 あぁ、グレットを守るためだったのですか。驚きました・・・可愛さ余って憎さ百倍的な感じで、私もろともグレットを処分させる気かと。


 処分ですか。

 向こうの世界でも、人間に危害を食えた魔物は処分されますが、まだ私は人間に危害を加えていません。この世界は理不尽ですね。


「魅了・・・ですか。」

「黙れ。」


 嘲笑するように呟けば、騎士に叱責されました。

 魅了を使う魔物が、騎士にこんな態度を取らせると思いますか?魅了を使う魔物なら、ここにいる人間すべてを魅了してやりますよ・・・それも面白いですね。


 ですが、今はまだ動くときではありません。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=89365467&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ