表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/39

33 平和の終わり



 すべての授業が終わり、剣術部のマネージャーの仕事も終えた私は、グレットを待っていました。

 そう、女子生徒に呼び出されて、屋上へ向かったグレットを待っているのです。


 一人、武術場の出入り口の前で、冷たい風にさらされて待っています。中に入っていればいい?早く、グレットの姿を見たいので、ここでいいのです。私は、人間ではないので、寒さに負けたりなんてしません。


 それにしても、屋上に呼び出しとは・・・手紙で呼び出されたと聞きましたが。


「婚約者がいる方に、告白とは・・・貴族の方ではないのでしょうね。おそらく、平民・・・いや、勇気のある方がいるものですね。」


 屋上に呼び出すイコール告白!まさか、実際に目にするとは思いませんでしたが、容姿端麗、文武両道、家に財あり、位あり・・・こんな完璧な人間がいるのですから、物語でしかないような出来事も起こりえるのですね。


 なんてことを考えていた私の耳に、私を呼ぶ声が届きました。その、噂の完璧人間の声が。


「グレット・・・」


 屋上にいるグレットが私を呼んでいます。特に鬼気迫ったものはないので、私は走ったりはせずに歩いて屋上へと向かいました。




「来たか。」


 屋上の扉を開けると、逆光になっているグレットが、嬉しそうに呟きました。私の登場で喜んでくれているのだとしたら、私も嬉しいです。

 自然とほほが緩みました。


「本当に耳がいいんだな。正直、この距離で聞こえるとは思わなかった。」

「・・・グレットの声ですから。グレットの声なら、どんなに遠くにいたって聞いてみせますよ。」

「さすがにそれは無理だろう。ふっ。お前も面白い冗談を言うようになったな。」

「冗談ではありませんが・・・それで、どうしたんですか?」


 ここに呼び出された理由を問えば、彼は私を手招きしました。私はそれに首をかしげながらも、彼の傍に行けることに嬉しくなって、駆けました。

 彼の隣に立つと、彼は夕日に向かって指をさします。


「いい景色だ・・・これを見せたくて呼んだ。」

「そうだったんですか・・・確かに、下から見るよりここで見たほうが・・・綺麗ですね。」


 夕日・・・前の世界では嫌いでした。だって、夕日は夕方の象徴。夕方の次には夜が来ます。私は夜が大嫌いなのです。


 夜は、辺りを暗くします。冬の夜なんて、多くの仲間たちの命を奪うほど、寒くなります。夏は少しだけ過ごしやすいですが、汗をかいた身体を必要以上に冷やして・・・そのせいで死んだ仲間もいました。


 そんな夜が来ることを感じる夕日が、私は嫌いでした。


 でも、ここで見る夕日は、こんなにも綺麗なものなんですね。

 彼が、いい景色だと言ったせいでしょうか?夕日の苦手意識が、無くなったような気がします。


 微笑んで夕日を眺める私の耳に、不届きな声が聞こえるまでは、本当にそう思っていました。


 上から、降ってきたその声は、全身に注がれたように感じるほどの強大な咆哮。以前なら、足が震えて動けなくなったかもしれません。


 顔を上げれば、私の予想通りの魔物が、上空を飛んでいました。


「魔物が、なぜこんなところに!」

「・・・ワイバーン。この世界にもいたのですね。」



 リスフィは鑑賞に適している魔物ですが、ワイバーンは戦争の兵器としても育てられているという、実践向きの魔物です。


 そんな魔物が今、目の前にいました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=89365467&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ