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32 種が増えただけ



 演劇部の衣装が、私のロッカーで無残な姿となって発見された事件は、特に大事になるごとなく収束しました。学校側からも、簡単な説明があって、ロッカーには常に鍵をかけるようにして、盗難被害を防ぐようにと、全生徒に呼び掛けて終わりました。


 担任が衣装を持ち出したというのは、あの場にいた生徒が広めたのでしょう、かなりの噂になっていて、担任に白い目を向ける生徒が増えて、担任は過ごしにくそうにしています。自業自得ですね。


 私は、特に何事もなく過ごしています。

 グレットや兄とたわいもない話をして、剣術部ではヴィヴィにマネージャーの仕事を教わったり、お茶をしながら話をしたりして。

 みんな私のことを心配していますが、私は特に何事もなく過ごしていると、返します。


 確かに、私が通るとこそこそと話をされたり、物を隠されたりなどはありますが、事件前にもあったことです。話のタネが増えたにすぎません。




 そんな私の耳に、事件の真相が届いたのは、至って何もない日でした。

 私は、兄と共に中庭で昼食をとった後、一人でクラスに戻っていました。兄が先生に突然呼び出されて、どうしても私を一人で帰すしかない状況だったのです。


 人目につくのが面倒だと感じた私は、なるべく人通りが少ない道を選んで、クラスに戻ることにしました。当然ですね。人とすれ違う度に、好奇の視線にさらされて、ひそひそと何事か話される・・・まぁ、内容は聞こえていますが・・・リスフィなので、人間より耳がいいので。

 内容はたいしたことがないもので、泥棒猫、恥知らず、尻軽女、田舎者などと侮蔑の困った名前で私を呼び、やれ婚約者がいるグレット様に色目を使っているだの、演劇部の衣装を盗んで担任のせいにしただの、ルーヴィス先生に色目を使っているだの・・・色目がいくつかあるのです。どれだけ私は色目を使っているのでしょうね?


 あぁ、もちろん兄の名前も挙がっていますよ?兄弟というのに、変な話ですね。


 まぁ、そんなものが煩わしく感じて、私は人通りの少ない廊下を歩いていました。渡り廊下と呼ばれる、校舎と校舎の間をつなぐ屋根があって壁がない廊下を通っている時です。

 外から、か細い悲鳴のようなものが聞こえて、物が落ちる音が聞こえました。


 私は何となく耳をそちらに向けました。


「あんただったのね!これ、どうしてくれるのよ!」

「ちが・・・」

「何が違うのよ!あんたが、この衣装をハサミで切っていたっていうのを、目撃した子だっているのよ!言い逃れできると思わないことね。」


 衣装・・・はさみで切る・・・


 聞き覚えのある単語ですが・・・まぁ、間違いなくあのシンデレラの衣装の話でしょうね。


「私、知らなかったの・・・演劇部の衣装なんて、知らなかったの!」

「知らないで済まされると思うの!?あんたのせいでね、私たちの3か月の練習は無駄になったわ!あの衣装の代わりなんて、数日で用意できるわけもなくって、結局古着を灰で汚したものを使ったわ。」


 別にそれでいいのではないでしょうか?劇が中止になったわけでもないのに、何をそんなに怒っているのか、私には理解できませんね。


「どれだけあの衣装が浮いてしまったか・・・あなた、劇は見た?」

「ごめん・・・見てない。」

「・・・あなたも、あの劇を見れば自分がどれだけひどいことをしたか、理解できたはずよ。」


 悔しそうにする演劇部らしき生徒。

 全く理解できませんが・・・衣装が無残な姿になって、泣いていた人がいるくらいですからね。それほど重要な衣装だったのでしょう。


「ごめん・・・なさい。」

「・・・もう、いいわ。」

「・・・私、知らなかったの。ただ、あの子を・・・雪見会に出られないように・・・しなくちゃって・・・」

「・・・そう。それは、スタードリア様のため?」

「うん。」

「やっぱりね。だとしても、私はあなたを許さないから。話はそれだけよ。」


 演劇らしき生徒は立ち去りました。

 詰られていた生徒は、そのまま泣き始めてしまったので、もうこれ以上何かを知ることはできないでしょう。


 スタードリア・・・グレットの婚約者、マーレイフィ様のことですね。


 彼女が命令したわけではないでしょうが、私が雪見会に出られないのは、マーレイフィ様にとって良いことだったのでしょうね。


 なぜでしょうか?別に、私がグレット様と踊るわけでもないのに。


「視界にも入れたくないほど、嫌われているのでしょうか?」


 だとしても、マーレイフィ様の視界から消えるつもりはありません。だって、あなたの隣にはグレットがいるのですから。


 グレットと婚約者でいる限り、あなたの目に映り続けることでしょう。




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