27 担任
貴族と平民、そこには圧倒的な差がある。しかし、それを理解していないものが多すぎる・・・というのが、リリの担任が常に思っていることだった。
つまり、平民を物のように見ている、貴族至上主義だ。
そんな彼が受け持つクラスは、やはりえこひいきがあり、平民は肩身の狭い思いを、常識のない貴族は増長している。常識のある貴族は、冷ややかな視線を担任に送るのみ。
そんな彼のクラスにやってきたのは、田舎臭い平民臭の漂う一応貴族のリリ。下級貴族と彼が呼ぶ部類に入るドーナルド家。その養子である元平民の娘というのが、彼にとっては下に見る対象として十分な理由だ。
さらにリリは、婚約者がいるアルソート家の子息をたぶらかしている節があり、現実を教えなくてはならないと彼は息まいた。
別に、彼に世を正したいという意思はない。ただ、自分の下を作ることで安心し、下をなぶることで顕示欲を満たしている。
だから、彼がやることはただの嫌がらせ、いじめのようなものだ。
グレットの婚約者、マーレイフィが自分のクラスでダンスの授業を受けたいと言えば、グレットとペアになれるよう後押しをした。リリというペアがいるにもかかわらず、しかもリリの代わりのペアを探すこともない。無責任だが、悲しみ困る平民をみたいのだ。
転校してきたばかりのリリに、雪見会について必要最低限の説明もせず、ドレスの貸与があることすら伝えなかった。ドレス貸与についてのプリントも平民の分のみを係の先生から受け取って、リリの分は用意しない。
本当は、平民の分すらも用意したくなかった彼だが、流石にそこまですると周りの目が気になるところなので、そこだけは用意した。
「平民がドレスなど、分不相応と思わないのか、全く。」
ちょうど人がいなくなった職員室で、彼はつぶやく。
そのあとすぐに職員室の扉が開いて、彼はドキリとした。ここは、今の世は平等が当たり前。それに沿わない言葉は咎められる可能性があることは、彼にもわかっている。
聞かれたか?誰なんだ?
疑問と共に振り返った彼は、人物を確かめて胸をなでおろした。
「なんだ、ドーナルド妹か。」
「先生、少しいいですか?」
「・・・」
ほっとしたのもつかの間、彼の内から怒りがわき出てきた。なぜ、このような平民に驚かされなければならないのか?怯えたのが平民相手だと知って、彼の苛立ちがつのる。
「なんだ?」
「実は、ドレスの貸し出しがあると聞いて・・・」
誰か余計なことを教えたようだ。彼があえて教えなかったことを、この平民に教えた者がいる。イライラとするが、天啓のように面白いことを思いついた彼は、リリとの会話を続けた。
「なんだ、ドレスが用意できなかったのか?」
「あの、もしかしたら間に合わないかもしれないのです。なので、一応借りたいのです。」
「・・・別に貸すのは構わないが、もういいドレスは残っていないだろう。ボロのようなドレスかもしれないが?」
「かまいません。制服で出るよりはいいですから。それに、予備のようなものですし。」
「わかった。ならもってこよう。」
ここで待つように伝え、彼は口元に嫌らしい笑みを浮かべて、彼が顧問を務める演劇部の部室へと向かった。
今、演劇部は次の公演のために猛練習をしている。衣装は完成しているが、練習中は着ないので、その衣装でいいだろう。
「シンデレラ・・・灰かぶりのドレスで雪見会、さぞ目立つだろうな。」
部員達には、当日哀れな平民に衣装を貸したことを伝えればいいか。
軽い気持ちで、彼はリリに衣装を貸した。リリがそのドレスを何に使うのかも知らずに。




