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21 噂



「リリちゃんっ!?」


 カシャーンっ!

 静かな中庭に響いたのは、花瓶の割れる音。


 私から3歩ほど離れた場所に、花瓶だったものの破片が散らばっています。

 私は、兄の腕の中にいました。


 兄は、花瓶が落下を始めてからすぐに、それに気づいて私に手を伸ばしました。もしかしたら、辺りを警戒していたのかもしれません。


「お兄ちゃん・・・」

「怪我はないか?」

「はい。」

「よかった。」

「・・・」


 ほっと安堵の息を漏らして、兄は私から離れます。私はそれを見て、悪いことをした気分になりました。気づいていたのに兄に伝えなかったことが、罪悪感を募らせます。

 ですが、なぜ気づいたのかなどの説明を求められたとき、私は自分が魔物であることを隠して説明しなければなりません。そのようなことができる自信が、なかったんです。


「・・・校舎の中へ入ろう。そうだ、図書室に行こうか。」

「お兄ちゃんがじんましんだらけになってしまいます。」

「俺はこのことの後始末を付けるから。」

「あと始末ですか?」

「片付けないといけないからな。学校の備品だし、先生に説明もしないと。」

「なら、私も手伝います。」

「気持ちはうれしいけど、こんなものが頭上に降ってきたんだ、気持ちを落ち着ける時間が必要だろ?」

「大丈夫です。お兄ちゃんに仕事を押し付けるよりは、一緒に片付けたほうが気も休まります。」

「・・・なんて、かわいいんだ!さすが、マイシスター!」


 興奮状態に陥った兄と共に、中庭に散らばった花瓶を片付けることにしました。兄が掃除道具を持ちに行き、私は先生に状況を伝えることになりました。

 先生には、いきなり花瓶が上から降ってきた、とだけ話をし、私の頭に花瓶を落とそうとした人のことは話しませんでした。


 誰かはわかっているんですけどね?


 後から、窓際の机の上に置いてある花瓶が、風に吹かれたカーテンに巻き込まれて、窓の外へと落ちた・・・という、しょうもない話を聞かされました。

 本当に調べる気はあるんですかね?




 私の頭の上に花瓶が落ちたという噂は一気に広まりましたが、どれも面白おかしく話されるばかりで、心配してくれたのは彼と兄だけでした。

 そんな噂も、次の日には耳にしなくなります。


 締め切った窓から、あたたかい日差しが差し込みます。

 彼と兄は、例のごとく生徒会の用事で教室におらず、私は一人本を開いていました。読んではいません、ただ開いているだけです。


「彼ったら、最近手紙の返事がそっけないの。」

「確か、カーレイスニアの方でしたっけ?あちらは、戦火の影響がこちらよりも出ていると聞きましたわ。」

「そうなの。だから、何かあったのではないかって・・・すぐに会える距離ではないのが不安をつのらせますわ。」


 カーレイスニア・・・確か、現在いる国よりも魔国、魔物の住む地域が近いそうです。魔物と戦争しているのは、魔国と人間が住む地域の境と聞いています。魔国に近ければ近いほど、人間の国は戦火の影響を受けることになりますね。


 本当のところはどうかわかりませんが、ただ一つ言えるのは・・・人間は話を次から次へと変えますね。今度は、聞き手だった側が話し手に回り、その婚約者ののろけ話。


 私はじっくりと一つの物事を話すほうなので、気が合いそうにないですね。




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