20 水よりも
もうすぐ、1年に一度行われる雪見会という舞踏会が行われます。
貴族の学校だった名残の一つで、社交の練習という名目で行われます。平民も学ぶようになってからは、ダンスができない平民のために新しくダンスの授業が加えられました。
そのダンスの授業を来週に控え、今週は雪見会の役割分担を決める日です。
雪見会は、立食形式の食事、ステージで随時行われる出し物、締めのダンスを行うという縛りはありますが、他は自由に生徒たちが決める、生徒主体の会です。
ちなみに、出し物は後に追加されたもので、平民の意見を取り入れて行われたようですが、貴族の方がノリノリで出し物をやりたがるそうです。
雪見会では、生徒は3つのグループに分かれます。
主催者側が2つに、招待される側が1つ。招待される側は、もちろん招待客ということで、その日までにすることは衣装の用意と作法、ダンスの勉強のみです。
主催者側は、企画側と実行側に分かれます。
企画側は、会場の内装、食事、イベント・タイムスケジュール管理、接客などを行います。実際貴族がお茶会などを開く場合に必要なことを勉強します。
実行側は、企画側の指示に従い、会場の内装や招待状を作り、調理師志望などがいれば料理を自ら作り、会場に並べます。貴族の屋敷に仕える者の仕事を体験できるということで、庶民だけでなく貴族にも意外と人気な役割です。
私は、入って間もないということで、招待される側になりました。まずは雪見会の雰囲気を楽しみ、次回自分の役割を決めればいいと。
彼と兄も同じで招待される側になります。これは、慣例にならったことで、生徒会、学級委員など通常リーダーをしている者は、主催者側にまわらないことになっています。
この会では、普段活躍できないものに活躍の場を与え、経験させることも目的としています。なので、主催の企画は普段みんなを率いる人間はできません。
そして、実行側に普段のリーダーがいると企画側がやりにくいため、招待される側にまわります。
「役割が決まったから、招待客の役割になった者は教室から出るように。次の時間まで、招待客は自由時間。ただし、主催者の邪魔をしないこと・・・以上、解散。」
彼の言葉で客側になった生徒は、教室出て行きます。
これから主催者側は、雪見会で行う出し物を考えるようで、客側はその話し合いに参加してはいけないようです。
どんな出し物になるか楽しみですね!
自由時間となった私は、彼と一緒にいようと思って彼のそばにいましたが、彼は悲しそうな顔をして用事があると言って、兄を置いて行ってしまいました。
私は、兄と共に中庭に出て散歩をします。一人なら図書室へ行きたかったのですが、兄は本が大の苦手のようで、本を見るとじんましんが出るそうです。仕方がないですね。
それにしても、彼の用事は生徒会のものではないのでしょうか?生徒会の用事なら、兄が一緒に行くはずですし。
「お兄ちゃんは行かなくていいんですか?」
「俺まで行ったら、誰がマイシスターを笑顔にするんだよっ!可愛いマイシスター、俺がいるから寂しくないぞー。」
「・・・寂しいです。」
「素直なところも、かわいい!だけど、ちょっとだけ傷ついた!」
「嘘ですね。お兄ちゃんの顔、笑っています。」
「冗談っていうんだよ。まぁ、知っていたからな。やっぱ、あいつがいないとリリちゃんの満面の笑みは見れないよな~」
「・・・にこっ!」
「・・・っ!?」
見世物として覚えた、無邪気な笑顔。
兄には効果絶大だったようで、兄は膝を床について頭を押さえていました。
「ヤバイ・・・」
「何がですか?」
「マイシスター・・・俺の妹がかわいすぎるんだよ。本当に、俺の妹でいいのか、俺!?」
「妹でいいのかって・・・妹ですから。妹以外に何になるというのですか?」
「・・・だなっ!マイシスターは、俺の妹だ!それ以外の何者でもない!俺の!妹だ!」
勝手に盛り上がっている兄を放置して、私は耳を澄ましてあたりをうかがいます。
あぁ、また悪意を見つけました。
それは上から。中庭に面した、校舎の窓。そこに悪意を持つ人間がいます。
「駄目だわ、ガゼル様がいる。ガゼル様を巻き込むわけにはいかないわ。」
「ホント、もう少し離れてくださればいいのに。妹だからって、少し引っ付きすぎではなくって?」
「水は駄目ね。ガゼル様も濡れてしまわれるわ。」
「なら、これならどう?」
「それは・・・」
「さすがにまずいんじゃ・・・」
どうやら、中庭を歩く私に水を掛けようとしている感じですね。ですが、ガゼル様がそばにいるせいでできないと。
次に提案した落とす物は、水ではなく物体のようです。提案した者以外は、戸惑いの様子がうかがえますが、本気で止める様子はないようですね。
さて、どういたしましょうか?




