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16 床磨き



 今日は彼と共に登校しました。

 剣術部の朝は早く、同じく早い運動部の生徒しか周りにはいませんので、昼間よりは静かな廊下を歩きます。


「もう少し学校生活に慣れてから、マネージャーの仕事をしたほうがいいと思うけどね。朝だって早いし。」

「グレットと一緒に登校できてうれしいです。」

「・・・そう。ずいぶん懐かれたものだね。」

「それは、仕方がないと思います。だって、いわば命の恩人ですから!」

「命の恩人は大げさだよ。別に、車にひかれそうになったところを助けたわけでもないし、崖から落ちそうになっているところを、手を掴んで引き上げたわけでもないし。」

「随分具体的な話ですね。このような普通の生活を送らせてもらえるのは、すべてグレットのおかげですから、本当に感謝しています。」


 グレットがいなかったらどうなるのか、と私は考えて顔を青ざめさせます。

 もしかしたら、人間に殺されていた未来もあるのですから。




 剣術部の活動拠点である武道場に着くと、彼はマネージャーの先輩に私を預けて自分の準備をしに更衣室へと行ってしまいました。

 彼を見送った後、私は先輩に向き直って改めて挨拶をします。


「今日からマネージャーになった、リリです。よろしくお願いします。」

「ヴィヴィよ。あんたは、グレット様とどういう関係なの?」

「はい。私は、グレットの従者である兄の妹です。なので、幼いころからよく遊んでもらう仲でした。」

「ふーん。まぁ、それならマシね。あんたがどういう目的で入ったかは興味がないけど、マネージャーの仕事はしっかりとやりなさいよ。でないと、私から先生に言って退部してもらうから。」

「そうですか。わかりました。」

「・・・あんた、変わってるわね。」

「そうですか?」


 今の会話で、私の何が分かったというのでしょうか?


「まぁ、変わり者の方が続くかもね。マネージャーは、今のところ私たち2人だけだから。剣術部の部員数は、私たちを抜かして28人。私たちは2人でその人数の面倒を見ないといけないの。わかった?」

「はい。・・・マネージャーが2人とは、少ないのですか?」

「私が入った時は6人で、それから先輩がやめて4人になって、色々問題があって私一人になったの。一人になってからは、2、3人くらいまで増えたけど、みんな一週間ももたなかったわ。」

「・・・厳しい仕事なんですね。」

「人数が少ないから確かにそうね。でも、それが原因ではないわ。」

「え?」

「はい、無駄話は終わり。あんたもすぐやめる可能性だってあるし、仲良くする気はないわ。さっさと仕事にうつるわよ。」

「わかりました。」


 やめる気などありませんが、そう説明しても彼女は納得しないでしょうし、私はここに彼女と話すために来たわけではありません。

 気にはなりましたが、私は仕事にうつりました。



 マネージャーは、裏方の仕事のようです。

 備品の整備、部費管理。部員たちの個々訓練メニューの進歩状況把握、指導。模擬戦の審判。部員たちの体調管理。部員交流会の幹事。


 色々と説明されましたが、とりあえず今朝は部員たちがミーティング中に、武道場の床磨きの仕事を与えられました。

 ざっと全体を掃き掃除した後、拭き掃除をします。残った時間で特に汚かった個所を念入りに掃除するように言われました。


「バケツに水をくんどいたわ。後でお湯の出るところも教えるから、明日からは自分でやるのよ。」

「・・・あったかい。」

「・・・寒いからね。」


 バケツの中に入っているぞうきんを取るため、バケツに手を入れました。程よいあったかさのお湯に、私はなんだか心があったかくなります。


「ありがとうございます。」

「・・・ちゃんと礼が言える子は嫌いじゃないわ。私もミーティングに参加するから、何かわからないことがあったら呼びに来なさい。」

「はい。わかりました!」


 いいところですね。


 魔物園でのことが、頭をよぎります。

 汚れた冷たい水。汚れた空気に汚い部屋。いくら頑張って掃除をしても、汚れたものでは大してきれいにできず、自分の無力が嫌になりました。


 汚れた空気は、病人に毒だと聞いたのに、私は何もできなかったのです。


 思い出すのは、ベッドから起き上がれなくなってしまった、リスフィ。外で見世物になれば、多少はいい空気を吸えるのに、病のせいでこんな汚い場所に入れられて、その汚れが病を悪化させます。


「悪循環ですね・・・」


 これも報いだと、あなたは笑うのでしょうか?

 病床に臥せったリスフィは、私に秘密の話を聞かせてくれました。その秘密は、普段は忘れるように努めているもので、ふとした拍子に思い出しては、私は人間が憎く思えてくるのです。


 興味がある人間・・・興味、それはきっと人間が憎いから。




「・・・仕事をしなければ。それにしても、いい世界ですね、ここは。」


 憎いと思っていた人間が、あたたかいって知ることができる、そんな世界です。ここに来てよかったと思います。




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