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第5話 ちっちゃな魔王様

 私はテラスから1人の少女と小さな女の子を観察した。


 1人の少女は、学校の制服にメガネをかけた、私と同じ歳くらいの子。

 小さな女の子は、黒いドレスにマントを揺らしたかわいい子。


 謎すぎる2人に対し、ルフナは隙を見せないよう剣を構えたまま、淡々と声をかける。


「これは幻影魔法か?」


「……ええ……この子の、幻影魔法……」


 想像していたよりもずっと弱々しいメガネの子の返答。

 それでも油断せず、ルフナは言葉を続ける。


「幻影魔法ならすぐに消せ」


「……分かった……ほら、魔法を消して、あげて……」


「うん」


 女の子はコクリとうなずき、妙に禍々しい杖を振った。

 すると、あれだけ巨大な影が一瞬にして消え失せる。

 どうやらシェフィーが考えた通り、あの影は幻影だったみたい。


 なぜ小さな女の子が、大規模な幻影魔法を使えたのかは分からない。

 だからこそルフナの口調は鋭いまま。


「武器になるものは捨てろ。魔法の杖も例外じゃない」


「……魔法の杖を、地面に置いて……」


「でも……」


「……言われた通りに、しよう……」


「そうだ、早く捨てるんだ」


「わわ……」


 ルフナの鋭い口調に驚いたのか、女の子は杖を放り投げ、メガネの子の背中に隠れた。

 メガネの子は女の子の頭を優しく撫で、「……大丈夫、だよ……」と励ましている。

 なんだか親子みたいな2人だね。


 ちなみにルフナは、女の子を驚かせちゃったのが申し訳なかったみたい。


「そ、そこまで怯えることはないぞ! な、なな、何もしなければ、私たちも酷いことをするつもりはないからな!」


 ルフナは必死に言い訳している。下着姿で。


 さて、緊急事態っぽい緊急事態は去ったみたい。


 ホッと一息ついた私は、ここでようやく気がついた。

 メガネの子の制服、見たことがある。


「ああ! その格好って『サイエンス・マジック』のヒロインが通ってる学校の制服!」


 わりと好きなアニメの登場人物の格好だ。

 この私が見逃すはずがない。


 対してメガネの子も、私をじっと見て言った。


「……わ、分かるの……?」


 これは正解だね。

 どうしよう、異世界で元の世界のアニメのコスプレしてる人に会っちゃった。


 というかこれってつまり……。


 スミカさんも私と同じことを思ったらしい。


「もしかしてあの子、私たちと同じ世界から来た子なのかしら?」


「たぶんそうだよ!」


「だとしたら、イの勇者さんかもしれないですね!」


 シェフィーの言う通りかも。

 これは2人と話をしないといけないね。


 ということで、ルフナはメガネの子と女の子を自宅に連れてきた。


「……はじめまして……私の名前は、イチノタニ=ルリ……」


 静かに自己紹介して、メガネの子――ルリはリビングのソファに座る。

 女の子はルリの腕に抱きついたまま離れない。


 こうして近くで見ると、ルリはすごく美人で、コスプレのクオリティも高く、アニメの世界の住人みたいだ。

 女の子は、くりくりとした赤い瞳と、頭に生える2本の小さなツノがとてもかわいい。


 そんな2人に最初に話しかけたのは、微笑むスミカさん。


「はじめまして。私の名前はスミカ=ホームよ。こうして人間の姿で2人に話しかけてはいるけど、本体はこのおウチなの」


「……もしかして、ジュウの勇者さん……?」


「大正解! そう言うルリちゃんも、もしかして私たちと同じ世界から来たのかしら」


「……ええ……わたしはイの勇者と一緒に、この世界に転移、したの……」


「やっぱりね! フフフ、私たちは勇者仲間だわ!」


 これは運がいい。

 最初は魔王に出会っちゃったかと思ったけど、私たちが出会ったのはイの勇者だったんだ。

 イの勇者を手伝え、がアイリスのお願いだから、ここでルリに会えたのは嬉しい。


 ただ、きっとルリは勇者本人じゃないはず。

 いつもなら人見知りするところだけど、ルリはアニメキャラにしか見えないので、私は普通に質問した。


「ルリは私と同じ、勇者のおまけなんだよね」


「……おまけ、と言えば、おまけ……間違ってはいない……」


「じゃあ、隣のちっちゃな女の子がイの勇者なんだね」


 ちらりと女の子を見つめる私。

 女の子はぴくっとしながら、プイッと顔を背けた。

 なんか傷つくよ。


 何も答えてくれない女の子の代わりに答えてくれたのはルリだ。


「……この子は、勇者じゃ、ない……イショーちゃん――イの勇者は、ここにはいない……」


「あれ? となると、その子は?」


「……ほら、自己紹介、してあげて……」


 ルリに背中を押された女の子は、今にも泣きそうな顔で私たちの前に立つ。

 そして小さな声で、一生懸命に口を開いた。


「まおー、です。500歳、です。うう……ルリ!」


「……よく、できました……」


 胸に飛び込んできた女の子――まおーちゃんを優しく撫でるルリ。

 まおーちゃんはルリにギュッと抱きついて、離れようとしない。

 完全に親子な2人に、私たちは癒されていた。


「おお~! まおーちゃん、かわいい~!」


「ふ~ん」


「はわわ、天使さんです!」


「幻影魔法のことなんか忘れてしまいそうだな」


「フフ、いつか私の胸にも飛び込んできてほしいわね」


「美人なルリとちっちゃいまおーちゃんのツーショット、尊い」


 リビングがほわほわ空間と化してる。

 それでもやっぱり、私は引っかかった。


「ところでさ、500歳ってなに? あと、まおーって魔王のことじゃないよね?」


 単純な疑問。

 たぶん、みんなも抱いてるであろう疑問。

 ルリはあっさりと答えた。


「……まおーちゃんは、『ヤミノ世界』の王……つまり、魔王で、間違いない……」


 どういうことだろう。

 ずっとルリに抱きついている、ちっちゃな女の子が魔王って。

 これはアイリスパターン? それともシュゼパターン?

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