第3話 在宅海水浴
新しいスキルを使って、自宅は海の上をぷかぷか進んでいった。
もう家というより船と言った方がしっくりくる感じだ。
しばらく海を進めば、周りには大小様々多種多様な島が浮かんでいる。
大きな山がある島、木が数本だけ生えてる島、岩みたいな島、砂浜しかない島、小さなドラゴンだらけの島、難破船が乗り上げてる島などなど。
名前の通り『いろんな島がある国』だね。
難破船が乗り上げてる島の近くまでやってくれば、ミィアがこう言った。
「ねえねえ~! ここで海水浴しよ~!」
この提案にルフナが乗っかり、スミカさんが目を輝かせた。
ということで私たちは今、自宅にいながら海水浴中。
海の上では頭にミードンを乗せたミィアが浮き輪に乗っかり、その周囲をルフナが泳ぎ回っている。
「おお~! ルフナ、泳ぐのも得意なんだね~!」
「もちろんだ! ミィアを守るためなら、マグマの中だって泳いでみせるぞ!」
「えへへ~、ねえルフナ~、ミィアにも泳ぎ方、教えて~!」
「ああ、任せろ! まずは私と手を繋ぐんだ!」
「は~い!」
「溺れないよう、強く手を握るんだぞ! グヘヘ」
いつにも増して、2人とも楽しそう。
一方、部屋の中では水着姿のスミカさんがソファに転がりくつろいでいる。
自宅が海に浮かんでいるので、自宅そのもののスミカさんは、これでも泳ぎの最中なのだとか。
私とシェフィーはテラスに座り、足だけ海に浸からせていた。
「海、冷たいですね」
「だね」
「ユラさんは泳がないんですか?」
「うん。私、泳げないから。水怖いし」
だから水に足を浸けるだけで十分。
これだと水着に着替えた意味があんまりないけど、そこは雰囲気優先で。
シェフィーと一緒にテラスに並んで眺める景色は最高だよ。
海で遊ぶミィア、ルフナ、ミードンに、難破船が乗り上げる島、それにどこまでも続く青い空と海。
たまにはゲーム以外でのんびりするのも悪くないね。
ボーッと空を見上げていると、シェフィーが首をかしげ尋ねた。
「あの、どうして水が怖いのか、理由を聞いてもいいですか?」
「いいよ、別に」
そんな大した話じゃないしね。
「私が元いた世界、学校でプールの授業があったんだよ」
「へ~、そうなんですか」
「でね、私って全然泳げないから、いつもプールの授業でみんなに笑われちゃってて」
「…………」
「もうさ、夏になるたびプールの授業が怖くて怖くて。またみんなにバカにされるんだ~って。で、気づいたら水そのものが怖くなっちゃって。それだけ」
「……ごめんなさい!」
「うん?」
「ユラさんに嫌な過去を思い出させてしまいました! でも、大丈夫です! ユラさんは頑張りました!」
「あれ?」
「みんなに笑われた過去を、今ではそんな風に話せるんです! ユラさんはすごい人です! わたしは決してユラさんを笑いません!」
「あ、ありがとう……?」
謎に励まされちゃったよ。
私からすれば、この程度の学校のトラウマは腐る程あるから、もう気にしてないんだけど。
「じゃあ、私からも質問。シェフィーはなんでお魚が怖いの?」
「それは……」
一瞬だけ口ごもるシェフィー。
けれどもシェフィーは、足で水をパシャパシャしながら私の質問に答えてくれた。
「10年以上前のことです。わたし、そのとき『魚がいっぱい獲れる国』に出稼ぎに行っているお父さんに会いたいって、何度もお母さんに頼んでいたんです。でも、当時はシュゼがまだ赤ちゃんでした」
「赤ちゃんのシュゼ! まだ影の支配者になる前だね」
「いえ、シュゼは赤ちゃんの頃からククハハハハって笑っていましたよ」
「わーお。じゃあシェフィーのお母さんも苦労しただろうね」
「はい、お母さんはとても忙しかったみたいで、わたしをお父さんのところに連れていく暇はなかったようです」
赤ちゃんが影の支配者だったら、そりゃ遠出する暇なんてないよね。
「それでもわたし、ずっとお父さんに会いたいって言い続けていました。そこでお母さんが教えてくれたのが『ヒトザカナ伝説』です」
なんだか興味深い話が出てきた。
私はシェフィーの話の続きをじっと聞く。
「海にはお魚を従えたヒトザカナという魔王の手下がいて、人間を襲い大帝国を築き上げている。ヒトザカナは出会った人間を石化させて海に引き摺り込み、お魚の餌にしてしまう。だからお父さんみたいな強い人しかお魚と渡り合えない。それが『ヒトザカナ伝説』です」
「何その怖すぎる伝説」
「まあ、全部お母さんの作り話なんですけどね。ただ、小さかった頃のわたしは伝説を完全に信じてしまいました。以来、わたしはお父さんのところに行きたいと言わなくなったみたいです」
「シェフィーママの狙い通りだね」
「ただ、『ヒトザカナ伝説』が作り話だと知った今でも、お魚への恐怖心が抜けなくて。まさかわたしがここまでお魚恐怖症になるとは思ってなかったと、お母さんにもたまに謝られてしまいます」
「つまり、本当は魚が怖くないって知ってるけど、子供の頃の記憶が魚を拒否してると」
「そうなります」
全てを話し終えたシェフィーは、膝を抱えて空を見上げた。
思っていたよりもかわいくて、思っていたよりも深刻なお話。
私は少しだけ考えて、ぼそりとつぶやく。
「本当は魚が怖くないことを知ってるなら、魚嫌いを克服することはできるかもね」
「はい、克服できる可能性は――ひゃっ!」
何かを言いかけて、シェフィーは飛び跳ねる。
どうしたのかと思えば、テラスのすぐ近くにまでやってきていたミィアが、頭にミードンを乗せたまま、シェフィーに水をかけていた。
「え~い! ミィアのスキル『水バシャー』だぞ~!」
「ふ~ん!」
「つ、冷たいですミィア様!」
「えいえ~い!」
シェフィーは防戦一方だ。
ちょっと手助けしてあげよう。
「ほいっと」
「わわ! ユラユラが水攻撃してきた~!」
「ふ~ん!」
「ユ、ユラさん!?」
「ミィアが怯んでる今のうちに、反撃」
「は、はい! えい!」
両手を海に入れ、申し訳程度にミィアに水をかけるシェフィー。
水をかけられたミィアは、笑顔のまま後退。
すると、すかさずルフナが海の中から飛び出す。
「ユラ! シェフィー! ミィアの前に、まず私を倒してみせろ!」
「な、なんだかちょっとした争いがはじまってます!」
「ルフナ相手は勝ち目ないよ……」
と思ったけど、私たちには最強の仲間がいる。
「フフ、私の出番かしらね」
楽しげなスミカさんの言葉と同時、自宅がジャンプした。
自宅が再び海面に着地すると、とんでもない量の水しぶきが舞い、私たち全員がずぶ濡れに。
「チーム関係なしの全体攻撃です!」
「くっ! やはり勇者の力には勝てないか!」
「おお~! スミカお姉ちゃん、今のもう1回!」
「アンコールね! いくわよー!」
「待って! まだ心の準備ができてない!」
そして私たちは、またびしょ濡れに。
だけどみんな、とっても楽しそうな表情をしていた。
もちろん、私の表情もみんなと同じだよ。




