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移動要塞自宅~勇者に選ばれたおウチと旅をすることになりました~  作者: ぷっつぷ
16けんめ はじめてダンジョンに潜ってみる話
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第7話 仲良し姉妹

 ダンジョン探索を済ませて、私たちは一目散に『山の上の国』に戻った。


 空はもう暗くなっている。

 チルとは街の橋の上でお別れ。


 シェフィーの実家に到着すれば、シュゼはテラスから外に飛び出す。

 同時に、シェフィーたちが玄関から自宅に入ってきた。


「ユラさん、もう日も沈んじゃいましたけど、どこに行っていたんですか?」


「ええと……ちょっとシュゼを連れて散歩に……」


「そうでしたか。シュゼのわがままに振り回されませんでしたか?」


「まあまあ振り回されたかな。でも、楽しかったよ」


 ウソは言っていない。ただ事実を曖昧にしただけ。


 一方のミィアは、ミードンを頭に乗せ、新しいマフラーを首に巻きながら、満面の笑みでスミカさんに話しかけていた。


「ねえねえスミカお姉ちゃん! 見て見て~! ほら、新しいマフラーだよ~! お散歩中にね、ルフナに買ってもらったの~!」


「ふ~ん!」


「あら、ふわふわでかわいいマフラーね。よく似合ってるわ」


「えへへ~」


 マフラーに顔を埋めて、にっこり笑うミィア。

 その姿に、下着姿のルフナは崩れ落ちた。


「私がプレゼントしたマフラーを首に巻いて微笑むミィア……なんだこれは!? 神秘の世界が俗世を侵略しているのか!? あまりに神々しい……!」


 なんか、ルフナがシュゼっぽいことを言い出した。

 やっぱり厨二病って感染するのかな?


 さて、さっきまでアクセサリー作りを頑張っていたシュゼは、リビングにいない。

 だからシェフィーは尋ねる。


「ユラさん、シュゼはどこにいるんですか?」


「シュゼならシェフィーと入れ違いで家に帰ったよ」


「え!? そ、そうですか……」


 あれ、シェフィーがちょっとだけ残念そうな顔をしてる。

 もしかして妹に無視されたみたいで寂しいのかも。


 でも大丈夫。

 シュゼは作っている最中のアクセサリーをシェフィーに見られたくないだけなんだから。


 それに、勘違いからくるシェフィーの寂しさも、スミカさんの言葉で吹き飛んだ。


「みんな! ちょっと遅くなっちゃったけど、ご飯にしましょう!」


「あ! それなら手伝います!」


「ミィアも~!」


「ふ~ん!」


「私もできる限りのことはしよう」


「フフフ、助かるわ」


「じゃ、みんな頑張ってね」


「この流れでダラダラできるユラさんの図太さはすごいです!」


 ダンジョン探索の後とは思えないくらい、あっという間に日常が帰ってきたね。


    *


 なぜ私たちは『山の上の国』にやってきたのか。


 答えは、幼女帝ちゃんアイリスの依頼があるからだ。

 私たちは北の地方にある『いろんな島がある国』に向かっている最中なんだ。

 だから『山の上の国』は途中下車をしているだけであって、あんまりここに長居をするわけにもいかない。


 ということで、ついに『山の上の国』を出発する日がやってくる。


「う~、もっと『山の上の国』で遊んでたい~!」


「私もファンタジー感の強いこの街に、しばらく住んでたいよ」


「2人の気持ちはよく分かるわ。私もしばらくここにいたいもの。でも、アイリスちゃんのお願いを叶えてあげるのが最優先よ」


 ですよね。

 あんまりアイリスの願い事を無視してると、アイリスが怒り出しそうだし。


 それにしても、名残惜しいなぁ。


 自宅は今『山の上の国』の出入り口に腰を下ろしている。

 そして自宅の周りには、シュゼとチル、シェフィーのお母さん、そして魔法学校の生徒のみんなが揃っている。

 こんなに優しいみんなにお別れを言わなきゃいけないなんて、すごく寂しいよ。


 寂しさのあまり何も言えないでいると、みんなの方が先にお別れの挨拶を口にした。


「スミカさんたちと一緒にいるシェフィー、とても楽しそうで安心した。これからもシェフィーをよろしく頼んだよ」


「みなさんは伝説よりもすごい人たちなのです。短い間だったけど、みなさんと一緒にいられて楽しかったのです。ありがとうなのです」


「「「楽しい授業、ありがとうございました!!」」」」


 うう……うう……お別れってツラいね……。


 泣きそうな私と対照的なのは、満面の笑みで手を振るミィアだ。


「みんな〜! ミィアもみんなと一緒にいられて楽しかった〜! またいつか会おうね〜!」


「最後まで笑顔を絶やさないミィア……まさに王女の中の王女だ……!」


 この2人は本当にいつも通りだね。


 みんなが別れの挨拶をする中で、シュゼだけは黙って自宅に乗り込んできた。

 自宅に乗り込んだシュゼは、微笑むシェフィーの前に仁王立ち。


「宿敵女神よ」


「どうかしましたか?」


「ククク、ククハハハハ! お前は今日より、この私に支配されるのだ! さあ、この腕輪を受け取れ!」


 マントをひるがえし、ポケットの中からシュゼが取り出したのは、銀色の腕輪。


 腕輪には魔法陣のような模様が刻まれていて、シェフィーにぴったしのデザインだ。

 そして何より、緑色に透き通った綺麗な石の飾りがとても綺麗。


 シェフィーは目を輝かせた。


「もしかしてこれ、シュゼが作ってくれたんですか!?」


「当たり前であろう。気をつけるのだな。この私の強い思いが込められた腕輪だ。この私の支配から、簡単には逃れられんぞ」


「逃げるつもりなんてありません! 大切にします!」


 受け取った腕輪を、シェフィーはさっそく大事そうに腕につける。

 そして、シュゼの頭を優しく撫でた。


 姉に撫でられたシュゼは、満足げな表情で大笑い。


「ククク、ククハハハ、ハーハッハッハ! そうだ、この私はこの時を待っていたのだ! ハーッハッハッハ!!」


 影の支配者が本当に支配したかったのは、シェフィーだったんだね。

 なんとなくシェフィーの方がシュゼを支配してる気がするけど、そこは気にしない。


 さて、みんなとのお別れの挨拶は済んだ。

 泣いて馬謖を切れば、いよいよ自宅は動き出し、『山の上の国』を後にする。


 窓から離れようとしないミィアは、早くも未来のことで頭がいっぱいだ。


「アイリーのお願い叶えたら、また『山の上の国』に行こうよ〜!」


「ミィアはあの街をずいぶんと気に入ったみたいだな。それは私も同じことだが」


「だね。全面的に同意」


 ところで、やけにスミカさんが静かなような。

 なんて思っていれば、スミカさんは床の上で丸まっている。


「スミカさん?」


「うわああ〜ん! 寂しい! 寂しいわ! もっと『山の上の国』にいたかったわ! どうせならあの街の家になりたかったわ! うわああ〜ん!」


 どうやらスミカさんが一番、『山の上の国』を離れるのが寂しかったみたい。

 そんなスミカさんを、ミィアとルフナが慰めてあげる。


 私は、ずっと窓の外を眺めているシェフィーに話しかけた。


「シェフィーは、寂しくないの?」


 スミカさんがあの状態なら、シェフィーだって。

 そう思ったのだけど、シェフィーは優しい口調で答えた。


「もちろん寂しいです。でも、シュゼのプレゼントがいつも一緒にいてくれます。ユラさんもいつも一緒にいてくれます。だから、寂しいのは一瞬だけです」


 にっこり笑うシェフィーと一緒に、腕輪の飾りがきらりと輝く。

 窓の向こうでは、手を振るシュゼの胸元で、ネックレスの飾りがきらりと輝く。

 私のスマートフォンにぶらさがるネックレスの飾りも、きらりと輝く。


 それはきっと、緑色に透き通った綺麗な石の飾りを通して、〝私たち姉妹〟が繋がっている証なのかもしれない。

今回で第16章は終わり、次回からは第17章『海の上でぷかぷかする話』がはじまります! どうぞ続きもご覧になってください!

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