第7話 仲良し姉妹
ダンジョン探索を済ませて、私たちは一目散に『山の上の国』に戻った。
空はもう暗くなっている。
チルとは街の橋の上でお別れ。
シェフィーの実家に到着すれば、シュゼはテラスから外に飛び出す。
同時に、シェフィーたちが玄関から自宅に入ってきた。
「ユラさん、もう日も沈んじゃいましたけど、どこに行っていたんですか?」
「ええと……ちょっとシュゼを連れて散歩に……」
「そうでしたか。シュゼのわがままに振り回されませんでしたか?」
「まあまあ振り回されたかな。でも、楽しかったよ」
ウソは言っていない。ただ事実を曖昧にしただけ。
一方のミィアは、ミードンを頭に乗せ、新しいマフラーを首に巻きながら、満面の笑みでスミカさんに話しかけていた。
「ねえねえスミカお姉ちゃん! 見て見て~! ほら、新しいマフラーだよ~! お散歩中にね、ルフナに買ってもらったの~!」
「ふ~ん!」
「あら、ふわふわでかわいいマフラーね。よく似合ってるわ」
「えへへ~」
マフラーに顔を埋めて、にっこり笑うミィア。
その姿に、下着姿のルフナは崩れ落ちた。
「私がプレゼントしたマフラーを首に巻いて微笑むミィア……なんだこれは!? 神秘の世界が俗世を侵略しているのか!? あまりに神々しい……!」
なんか、ルフナがシュゼっぽいことを言い出した。
やっぱり厨二病って感染するのかな?
さて、さっきまでアクセサリー作りを頑張っていたシュゼは、リビングにいない。
だからシェフィーは尋ねる。
「ユラさん、シュゼはどこにいるんですか?」
「シュゼならシェフィーと入れ違いで家に帰ったよ」
「え!? そ、そうですか……」
あれ、シェフィーがちょっとだけ残念そうな顔をしてる。
もしかして妹に無視されたみたいで寂しいのかも。
でも大丈夫。
シュゼは作っている最中のアクセサリーをシェフィーに見られたくないだけなんだから。
それに、勘違いからくるシェフィーの寂しさも、スミカさんの言葉で吹き飛んだ。
「みんな! ちょっと遅くなっちゃったけど、ご飯にしましょう!」
「あ! それなら手伝います!」
「ミィアも~!」
「ふ~ん!」
「私もできる限りのことはしよう」
「フフフ、助かるわ」
「じゃ、みんな頑張ってね」
「この流れでダラダラできるユラさんの図太さはすごいです!」
ダンジョン探索の後とは思えないくらい、あっという間に日常が帰ってきたね。
*
なぜ私たちは『山の上の国』にやってきたのか。
答えは、幼女帝ちゃんアイリスの依頼があるからだ。
私たちは北の地方にある『いろんな島がある国』に向かっている最中なんだ。
だから『山の上の国』は途中下車をしているだけであって、あんまりここに長居をするわけにもいかない。
ということで、ついに『山の上の国』を出発する日がやってくる。
「う~、もっと『山の上の国』で遊んでたい~!」
「私もファンタジー感の強いこの街に、しばらく住んでたいよ」
「2人の気持ちはよく分かるわ。私もしばらくここにいたいもの。でも、アイリスちゃんのお願いを叶えてあげるのが最優先よ」
ですよね。
あんまりアイリスの願い事を無視してると、アイリスが怒り出しそうだし。
それにしても、名残惜しいなぁ。
自宅は今『山の上の国』の出入り口に腰を下ろしている。
そして自宅の周りには、シュゼとチル、シェフィーのお母さん、そして魔法学校の生徒のみんなが揃っている。
こんなに優しいみんなにお別れを言わなきゃいけないなんて、すごく寂しいよ。
寂しさのあまり何も言えないでいると、みんなの方が先にお別れの挨拶を口にした。
「スミカさんたちと一緒にいるシェフィー、とても楽しそうで安心した。これからもシェフィーをよろしく頼んだよ」
「みなさんは伝説よりもすごい人たちなのです。短い間だったけど、みなさんと一緒にいられて楽しかったのです。ありがとうなのです」
「「「楽しい授業、ありがとうございました!!」」」」
うう……うう……お別れってツラいね……。
泣きそうな私と対照的なのは、満面の笑みで手を振るミィアだ。
「みんな〜! ミィアもみんなと一緒にいられて楽しかった〜! またいつか会おうね〜!」
「最後まで笑顔を絶やさないミィア……まさに王女の中の王女だ……!」
この2人は本当にいつも通りだね。
みんなが別れの挨拶をする中で、シュゼだけは黙って自宅に乗り込んできた。
自宅に乗り込んだシュゼは、微笑むシェフィーの前に仁王立ち。
「宿敵女神よ」
「どうかしましたか?」
「ククク、ククハハハハ! お前は今日より、この私に支配されるのだ! さあ、この腕輪を受け取れ!」
マントをひるがえし、ポケットの中からシュゼが取り出したのは、銀色の腕輪。
腕輪には魔法陣のような模様が刻まれていて、シェフィーにぴったしのデザインだ。
そして何より、緑色に透き通った綺麗な石の飾りがとても綺麗。
シェフィーは目を輝かせた。
「もしかしてこれ、シュゼが作ってくれたんですか!?」
「当たり前であろう。気をつけるのだな。この私の強い思いが込められた腕輪だ。この私の支配から、簡単には逃れられんぞ」
「逃げるつもりなんてありません! 大切にします!」
受け取った腕輪を、シェフィーはさっそく大事そうに腕につける。
そして、シュゼの頭を優しく撫でた。
姉に撫でられたシュゼは、満足げな表情で大笑い。
「ククク、ククハハハ、ハーハッハッハ! そうだ、この私はこの時を待っていたのだ! ハーッハッハッハ!!」
影の支配者が本当に支配したかったのは、シェフィーだったんだね。
なんとなくシェフィーの方がシュゼを支配してる気がするけど、そこは気にしない。
さて、みんなとのお別れの挨拶は済んだ。
泣いて馬謖を切れば、いよいよ自宅は動き出し、『山の上の国』を後にする。
窓から離れようとしないミィアは、早くも未来のことで頭がいっぱいだ。
「アイリーのお願い叶えたら、また『山の上の国』に行こうよ〜!」
「ミィアはあの街をずいぶんと気に入ったみたいだな。それは私も同じことだが」
「だね。全面的に同意」
ところで、やけにスミカさんが静かなような。
なんて思っていれば、スミカさんは床の上で丸まっている。
「スミカさん?」
「うわああ〜ん! 寂しい! 寂しいわ! もっと『山の上の国』にいたかったわ! どうせならあの街の家になりたかったわ! うわああ〜ん!」
どうやらスミカさんが一番、『山の上の国』を離れるのが寂しかったみたい。
そんなスミカさんを、ミィアとルフナが慰めてあげる。
私は、ずっと窓の外を眺めているシェフィーに話しかけた。
「シェフィーは、寂しくないの?」
スミカさんがあの状態なら、シェフィーだって。
そう思ったのだけど、シェフィーは優しい口調で答えた。
「もちろん寂しいです。でも、シュゼのプレゼントがいつも一緒にいてくれます。ユラさんもいつも一緒にいてくれます。だから、寂しいのは一瞬だけです」
にっこり笑うシェフィーと一緒に、腕輪の飾りがきらりと輝く。
窓の向こうでは、手を振るシュゼの胸元で、ネックレスの飾りがきらりと輝く。
私のスマートフォンにぶらさがるネックレスの飾りも、きらりと輝く。
それはきっと、緑色に透き通った綺麗な石の飾りを通して、〝私たち姉妹〟が繋がっている証なのかもしれない。
今回で第16章は終わり、次回からは第17章『海の上でぷかぷかする話』がはじまります! どうぞ続きもご覧になってください!
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