第6話 3人姉妹?
演劇が終わり、食事も終わり、パーティーの楽しい時間は過ぎ去った。
みんなはそれぞれ勝手に、自分のやりたいことをやりはじめる。
シェフィーとシュゼは魔法のお勉強、ミィアとルフナは寝室でカードゲーム、チルはアニメ鑑賞、スミカさんとシェフィーのお母さんはコーヒー片手に雑談中だ。
私はといえば、お湯いっぱいの浴槽で天国を満喫中。
浴室を漂う湯気を眺めながら、私はつぶやく。
「チルの脚本、良かったな~。また一緒に物語、作りたいな~」
ちょっとの私の修正も、そもそもチルの脚本がなかったらできなかったこと。
演劇が盛り上がったのは、チルの脚本のおかげだ。
こうなると夢は広がるばかり。
「みんな演技うまかったし、いつか映画とか作ってみるのもいいかも」
だとすると、カメラとかマイクとか照明とか編集ツールとかが必要かな。
でも、そういうのは通販でなんとなかなるはず。
わりと本気で映画撮影、考えてみよう。
なんて思っていれば、何やら洗面所から声が聞こえてきた。
「うん?」
浴槽から身を乗り出し、耳を澄ますと、聞き慣れた笑い声と話し声が。
「……ククハハハ!」
「ちょっとシュゼ……お風呂の……さんは1人で……」
「知らぬ……さあ宿敵女神……するぞ!」
「な、なんで……」
「……つべこべ……でない!」
間違いなくシェフィーとシュゼの会話だね。
会話ついでに、ゴソゴソと服が擦れるような音も聞こえてくる。
「嫌な予感がするよ」
その嫌な予感はすぐに的中した。
浴室の扉は勢いよく開かれ、湯気の向こうに2人の人影が現れる。
1枚の服も着ていないシュゼとシェフィーだ。
「氷の女王! 共に風呂に入るぞ!」
「ごめんなさいユラさん! シュゼを止められませんでした!」
小さな体で堂々とするシュゼと、何度も頭を下げるシェフィー。
私は特に驚くこともなく、けれども顎までお湯に浸かりながら、体を縮こませた。
正直まだ、私の貧相な裸を見られるのは、女の子相手でも恥ずかしい。
一方のシュゼは何のお構いもなしに浴槽に入り込んできた。
「ふわ~、異世界の風呂とは素晴らしいものだな」
「当たり前のように入ってくるね、シャドウマスターさん」
「当然であろう。この私は影の支配者なのだ。異世界の風呂も早く支配しなければならないからな」
「だからって一緒に入らなくても……」
とはいえ、私の隣で気持ち良さそうな表情をするシュゼを見ていると、なんだか幸せ気分。
シュゼを真ん中にしてシェフィーがお風呂に入れば、これはこれで天国だ。
「まあいいや。泣いて馬謖を斬ろう」
「クク、馬謖とやらを斬るとは、氷の女王もなかなか容赦がない」
こうして、私とシェフィー、シュゼの3人のお風呂タイムがはじまった。
「やっぱりお風呂は気持ちいいですね~」
「だよね~。しかも寒い場所で入るお風呂だから、格別だよ~」
「この風呂を世界にばら撒けば、人身把握も簡単であるな~」
ゆったりとした時間が流れていく。
シェフィーとシュゼの姉妹を見れば、2人は本当にそっくりだ。
目元はほぼ同じ、輪郭もほぼ同じ、髪色もほぼ同じ、髪を下ろしてるから髪型もほぼ同じ。おまけに胸の大きさまでほぼ同じ。2歳差なのに。
姉妹の姿に心まで癒されていると、シュゼがシェフィーに話しかけた。
「宿敵女神よ~」
「なんですか~?」
「この私の頭を洗うことを許可してやろ~う」
「もっと素直にお願いしてくれてもいいんですよ~」
気の抜けた口調でそう言いながら、シェフィーは立ち上がる。
そして浴槽を出ると、床に膝をつき、シャワーヘッド片手に手招きした。
「ほら、シュゼもこっちに来てください」
「なんだと!? ま、まさか宿敵女神、本当にこの私の頭を洗おうというのか!?」
「シュゼがそうお願いしましたからね」
「も、もうお前は大人なんだ、お姉ちゃん離れしろ、とは言わぬのか!?」
「久しぶりの一緒のお風呂ですから」
「……宿敵女神!」
嬉しそうにしながらシュゼは浴槽を飛び出し、お風呂椅子にちょこんと座った。
シェフィーは妹の背後に膝立ちして、優しく言う。
「お湯、かけますよ」
「ククク、言われずとも覚悟はできている。この私はもう――ふわ!」
目をつぶっていたシュゼがぴくりと驚く。
まるで刺客に襲われたみたいな反応だ。
ついでに刺客に襲われたみたいな口調で質問する。
「なんだこれは!? お湯がすごい勢いで飛び出してきたぞ!」
「これはシャワーですよ」
「シャワーだと? 一体、この魔王城にはいくつの秘密兵器が……!」
相変わらずの大袈裟な反応だね。
妹の大袈裟な反応も気にせず、シェフィーはシュゼの頭を洗いはじめた。
お湯でシュゼの髪を濡らし、シャンプーを泡立たせ、シュゼの髪をあわあわにしていく。
その光景を見て、私は思わず口を開いた。
「なんだかシェフィー、この家のお風呂にも慣れたみたいだね」
「もちろんです! だってこの家は、わたしの第二の自宅ですから!」
そうだね、シェフィーがこの家に住むようになって、ずいぶん経つもんね。
たくさんのお湯とシャンプーのあわあわに驚いてた頃のシェフィーが懐かしいよ。
過去を懐かしむ私の前で、姉妹の仲良しな光景は続く。
「かゆいところ、ありますか?」
「強いて言うのであれば、賢者の悩みがかゆいか」
「こめかみですね」
すっごくのほほんとした時間。
これ、いつまでも見てられるかも。
「一人っ子には経験できない時間だね。姉妹、いいな~」
今まで一人っ子を嫌だと思ったことはないけど、さすがに姉妹への憧れが出てきた。
もしシェフィーとシュゼが私の妹だったら、どんな感じだったんだろう?
そんな私の思いを知ってか知らずか、シュゼが私の手を引っ張る。
「氷の女王よ!」
「うん?」
「宿敵女神の頭も洗ってやれ!」
「ほひ?」
「ここでは氷の女王が年長者だ。姉はひとつ下の妹の頭を洗うものだろう」
「そう、なのかな? 一人っ子だから姉妹のルールが分からない」
分からないけど、私がシェフィーのお姉ちゃんになれるのは願ってもないこと。
どうやらシェフィーも満更でもないようで、彼女は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。
「お、お願いします!」
「じゃ、いくよ~」
ということで私は浴槽を出て、シェフィーの頭を洗ってあげる。
その後、私たちは3人で洗いっこをし、お風呂に戻り、至福の時を過ごすのだった。
なんだか3人姉妹になったみたいだね。
今回で第14章は終わり、次回からは番外編2『シャドウマスターを手伝う話』がはじまります! どうぞ続きもご覧になってください!
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