第6話 このような場所で宿敵に会うことになろうとはな
山道を登ると、自宅はついに山の山頂にやってきた。
山頂は平らに削られたみたいに広い高原になっていて、たくさんの建物が並んでいる。
透き通った空気の中に浮かぶ高原の町の名前は『景色のいい国』。
私たちは目的地に到着したらしい。
町から辺りを見渡せば、山脈と湖、青とオレンジの混ざった空がどこまでも広がっていた。
「名前の通りの国だね」
「ええ! どこを見ても絶景だわ!」
飽きることのなさそうな雄大な景色に、私たちとスミカさんは目を輝かせた。
フワッとミィアもコントローラーを置いて、外の景色に興味津々。
ちなみに『景色のいい国』は景色がいいだけで、町自体はごく普通だったりする。
地図を見ながら町を歩けば、自宅は小さな家の前で足を止めた。
「目的地はここでいいのかしら?」
「ああ、間違いない」
大きくうなずいて、シャドウマスターと側近ちゃんは玄関へと向かった。
玄関に向かう2人に対し、私は正直な感想を漏らす。
「魔の道に通ずる者から預かりし荷物を配達する先が、あの普通の家?」
「物事を見た目だけで判断してはならんぞ、氷の女王よ」
「はぁ……」
ここは厨二ワールドで考えよう。
もしかしたら小さな家の地下に巨大な魔獣が封印されてるのかもしれない。
うん、それなら納得だし、なんならワクワクしてきたよ。
小さな家がどんな厨二ワールドなのか確認するため、私もスミカさんと玄関に向かった。
自宅の外に出たシャドウマスターと側近ちゃんは、小さな家の前に立つ。
そしてシャドウマスターは声を張り上げた。
「生命を左右せし者よ! 聞こえるか!」
偉そうな呼びかけは小さな家の住人に届いたらしい。
小さな家からは、娘をかわいがるような表情の、優しそうな女性が出てきた。
「待ってたわ。思ったより早く到着したみたいね」
「クク、神話の世界の存在がこの私の味方になったからな。さあ、配達物を受け取れ!」
「塗り薬に薬草に——頼んだ通りね。これで、怪我をした冒険者さんや風邪をひいた人たちの治療ができるわ。ありがとう」
「当然の結果だ! ククク、ククハハハ、ハーハッハッハッハ!」
まるで世界征服に一歩近づいたみたいな笑い声が辺りに響き渡る。
でも、なんだろう、なんか想像してたのと違う。
「私の認識が正しければ、あの人って普通のお医者さんだよね」
「そうだと思うわ。だってあの人のおウチ、診療所だって言ってるもの」
「じゃあ確実にお医者さんだね」
生命を左右せし者って、そういうことだったんだ。
じゃあ、魔の道に通ずる者は薬剤師のことかな。
ますますシャドウマスターの正体が分からなくなってきたよ。
シャドウマスターの謎が深まる一方、フワッとミィアが玄関までやってきた。
「この匂い……ルフナだ〜」
言われて外を見てみれば、鎧姿のイケメンナイトさんとかわいい魔法使いさんが町を歩いている。
スミカさんは表情をぱっと明るくした。
「シェフィーちゃんとルフナちゃんだわ!」
約束通りに合流できたみたいだね。
にしても、匂いでルフナを察知するミィアの能力も、なかなかの謎だよ。
手を振るルフナとシェフィーは、少し小走りして自宅に帰ってきた。
「帰ったぞ」
「ただいまです」
「2人とも、お疲れ様ね」
「思ったより早く合流できたね」
「はい、ルフナさんの不死鳥の剣が『山の上の国』製だったみたいで、入国届けが簡単に出せたんです」
「へ〜」
「期せずして、今回は不死鳥の剣の帰郷にもなったみたいだな」
そう言って、ルフナは不死鳥の剣を大切そうに握りしめ、鎧を脱ぎはじめた。
合流も終わったことだし、リビングに戻ろう。
と思っていたんだけど、玄関前に甲高い叫びが駆け巡った。
「どっ、どういうことだ!? めっ、女神がなぜ!?」
目を丸くするのはシャドウマスター。
これに目を丸くして驚いたのはシェフィーだった。
「シュゼ!?」
よく分からない展開に、私たちは閉口中。
シャドウマスターとシェフィーはお互いに指をさし合った。
「なぜだ! なぜこの私の宿敵女神がここにいる!?」
「なぜなのはこっちですよ! なんでシュゼがここにいるんですか!?」
珍しいシェフィーの大声と、シャドウマスターの厨二ワールドがぶつかり合ってる。
2人とも知り合いみたいだけど、どういうことなんだろう。
そもそもシャドウマスターと初対面のルフナは、鎧を脱ぎながら私に尋ねてきた。
「あの子たちは何者だ?」
「ここに来る途中で会って、目的地が同じだったから一緒にここまで来た子たち……なんだけど、ごめん、たった今あの子たちが何者か分からなくなった」
「そうか。しかし、シェフィーと面識があって、シールドを突破した者たちとなれば、ただ者ではなさそうだな」
「だね」
謎は深まるばかり。
たまらずスミカさんはシェフィーに質問した。
「シェフィーちゃん、シャドウマスターちゃんたちとはお知り合いなのかしら?」
「シャドウマスター……久々に聞きました……」
大きなため息をつくシェフィー。
続けてシェフィーは、胸の前で両手を握り、はっきりと答えた。
「この子の名前はシュゼ・エクレール、わたしの妹です!」
ああ、なるほど、そういうこと——
「「ええええぇぇ!!」」
想定外すぎる答えが返ってきたよ!
私もスミカさんも、顎が外れそうなくらい驚いちゃったよ!
え? 本当にシャドウマスターあらためシュゼがシェフィーの妹なの?
肝心のシュゼは頭を抱え、悔しそうにつぶやく。
「この私の諱をやすやす暴露するとは、おのれ宿敵女神め……」
「もう、シュゼは変わりないみたいですね」
厨二ワールドのままのシュゼと、それを見て小さくため息をつくシェフィー。
よく見れば髪色一緒だし、目元も似てるし、ちょっと姉妹感あるかも。
いやいや、まだ分からないことばっかりだよ。
混乱気味のスミカさんは、表情ひとつ変えない側近ちゃんに答えを求めた。
「そ、側近ちゃん? どういうことかしら? 世界を影から支配する者はどこにいっちゃったのかしら?」
私とスミカさんが一番分からない点に関する質問。
側近ちゃんはメガネを持ち上げ、淡々と語り出した。
「そろそろ真実を語る時なのです。シャドウマスターと名乗るシュゼ様の正体は、実はただの普通の人なのです。ちなみに私も、普通の人の普通の友人なのです。本当の名前はチルなのです。あらためてよろしくなのです」
「じゃあ、世界を影から支配するとかなんだとかって——」
「全部シュゼの作り話なのです」
「わ〜お」
あまりの衝撃に、私はむしろ冷静に、シュゼからもらったネックレスをじっと見る。
というか、あんなキャラの濃い子、それはそれでもう普通の人じゃない気が。
ダメだ、真実がめちゃくちゃすぎて、思考停止してきたよ。
とりあえず自室に戻ってゲームしよ。
今回で第12章は終わり、次回からは第13章「『山の上の国』を歩き回る話」がはじまります! どうぞ続きもご覧になってください!
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