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移動要塞自宅~勇者に選ばれたおウチと旅をすることになりました~  作者: ぷっつぷ
11けんめ 女帝の試練を乗り越える話
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第3話 ズンドコ、ドッカーン

 自宅は六足歩行で山を疾走中。

 向かう先は山の中腹、戦場よりも標高の高い場所だ。


 当然、これも作戦のうちの行動だったりする。

 スミカさんは少しだけ不安そうな顔をした。


「騎士団のみんなは、まだ大丈夫かしら?」


 この質問に答えるため、私は双眼鏡で戦場を確認する。


「突撃と後退を繰り返して、結構うまく戦ってるから大丈夫。ただ、少しずつだけど押されてるみたいだし、ちょっと急いだ方がいいかも」


「分かったわ」


 そうして自宅は加速、登山電車もびっくりな勢いで山を登った。


 数分後、『テントだらけの国』のすぐそば、戦場が見下ろせる場所に自宅は到着する。

 私の作戦を成功させるには最適な場所で、スミカさんはやる気満々だった。


「この辺りならいけるわね。それじゃあ――」


「ちょっと待って。今は騎士団が突撃中だから、後退するのを待とう」


「そうなの? なら、タイミングはユラちゃんにお任せするわね」


 一応、私は指揮官的な立場だ。

 指揮官的な立場の人の言葉に従ってくれたスミカさんは、静かに私の合図を待ってくれる。


 今回の作戦、奇襲が要になるから、攻撃開始までは慎重に行きたい。


 リビングが静かになると、シェフィーの怯えた声が聞こえてきた。


「うう……緊張します……」


「ふ~ん?」


 どうしてシェフィーは怖がっているの? みたいな顔のミードンは、まだ知らない。

 これから私たちが、なかなか怖いことをやろうとしていることを。


 双眼鏡越しに騎士団の後退を確認した私は、怖い気持ちを抑えて叫ぶ。


「今!」


「行くわよ!」


 自宅は一瞬にして大空に跳び上がった。


 さっきまですぐそこに見えていた地面は、すっごく遠い場所に。

 さっきまですっごく遠い場所にあった雲は、すぐそこに。


 もう絶対にやらないと思っていたのに、これで『超ジャンプ』も3回目だ。

 当然、私とシェフィーが怖がるのも3回目。


「あわわわわわ! やっぱり怖いです!」


「外を見ない外を見ない外を見ない」


「ふーん! ふーん!」


「ミードンは楽しそうですね!」


 ああ、ミードンはミィアタイプの反応か。

 私はもう、外を見ないで恐怖をやり過ごすことにした。


 しばらく顔にクッションを押し付けていると、シェフィーに体を揺らされる。


「ユ、ユラさん! 地上につきましたよ!」


「え? あ、本当だ! シェフィー! テラスの魔法陣を!」


「は、はい!」


 シェフィーがテラスに出るため窓を開ければ、すごい光景が広がった。

 自宅がいるのはマモノの軍勢の目の前で、視界は多種多様なマモノに占められている。

 いくらシールドがあるとはいえ、マモノの軍勢に睨みつけられるのは怖い。


 それでもシェフィーは魔法陣の発動をやり遂げた。

 魔法陣の文様はピカピカ光り出し、テラスはクラブ状態に。


――いい感じだね。ミィア、グッジョブ。


 次は私の番だ。


「耳栓を! スミカさん、『スピーカー強化』と『7・1chサラウンド化』スキル!」


「はーい」


「音楽、再生するよ!」


 呼びかけに応えたスミカさんとシェフィーは、睡眠用の耳栓を装着する。


 私も耳栓を装着し、スピーカーの音量調整のつまみを一気に回した。

 続けて音楽再生をクリックすれば、大音量のダブステップが戦場を震わせる。


「耳栓をしているのに脳みそが振動します! なんですかこの曲!? どんな楽器を使えばこんな曲が作れるんですか!?」


「ふ~ん……!」


「でも、おかげでリーパーズが動きを止めたみたいよ」


 近所迷惑間違いなし、真っ黒な高級車から流れてきたら距離を取りたくなるようなズンドコ音が、リーパーズを苦しめている。

 加えて魔法陣のミラーボールみたいな光がリーパーズを追い詰めていた。


 マモノたちも、聞いたことのないリバーブと見たことない光に誘われ、私たちに夢中だ。


「よし、マモノがこっちに集中してきた! 射撃開始!」


「ええい!」


 ベランダに生えたガトリング砲は、マモノに向かって弾丸をばらまいた。


 七色に輝く魔法陣の光。断続的に輝く発砲炎。

 戦場をスタイリッシュに盛り上げるダブステップ。戦場を薙ぎ払う数百の弾丸。

 ノリノリなミードン。


 異様な空間で、一方的な攻撃に倒れたマモノが霧状に消えていく光景は、それこそ作戦通りの展開だ。


「このままこのまま……」


 私は作戦が順調に進むことを願う。


 ところが戦場の霧とは怖いもの。

 シェフィーは作戦を瓦解させかねないマモノの動きに気がついた。


「見てください! マモノが3つの集団に別れましたよ!」


「ウソッ!?」


「ひとつの集団を盾に、もうひとつの集団が騎士団を攻めてます!」


「残りの集団はどこに!?」


「ええと……」


 テラスから体を乗り出したシェフィーは、顔色を変える。


「あそこです! リーパーズを先頭に『テントだらけの国』に向かってます!」


「リーパーズの動きは止めたはずじゃ!?」


 どうしてこんなことに? 音量が足りなかった? 光が弱かった? それとも距離が遠かった? リーパーズの知能を甘く見ていた?

 理由はそのどれか。


 でも今は、マモノたちが『テントだらけの国』へ王手をかけてしまったことの方が問題だ。

 スミカさんも血相を変えて叫ぶ。


「あっちのマモノの集団も止めないといけないわね!」


 目の前の敵はシールドで押さえつけ、ガトリング砲は『テントだらけの国』に向かうマモノたちへ向けられた。

 けれどもガトリング砲は、火を噴いた途端に大空に弾丸を撃ち込む。


「あらら?」


「ガトリング砲が明後日の方向を向いてます!」


「おかしいわね……きちんと狙ったつもりだったのだけど……」


 こんなところでスミカさんの射撃の下手さが発揮されてしまった。

 もはや私は頭を抱える。


「マズい……このままだと……」


 何か方法はないか。

 ミサイル攻撃? 近すぎる。じゃあシェフィーの魔法で攻撃? 間に合う? 時間稼ぎくらいにはなる?


 そうやって爪をカリカリしているときだ。空から何かが降ってきた。

 何かはドッカーンと地面にクレーターを作り、土煙を舞い上がらせ、『テントだらけの国』に向かうマモノの進路を遮る。

 どこかで見た光景だ。


「あれは……!」


「もしや……!」


「まさか……!」


「ふーん……!」


 土煙をじっと見つめていると、クロワッサンをくわえたポニテ少女が土煙を割って飛び出す。


「うおりゃあああぁぁ! マモノ狩りだあああぁぁ!!」


 大音量のダブステップに負けない大声は、やっぱりシキネだった。

 シキネは次々とマモノを殴りつけ、マモノを圧倒する。


「フフフ、最強の援軍の到着ね」


 悔しいけどスミカさんに同意だ。

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